第12話

用具室の中には、メイが元気な姿でいた。本当にしっかりと餌を与えていたらしい。

日下部先輩には私たちが見つけたということで引き渡すと提案したが、翔は自らの手でメイを返すと言った。文樹先輩が電話をすると、すぐに日下部先輩はやってきた、いないとは思いつつも学校の周辺を探していたらしい。そしてあの大きな瞳に涙をいっぱいに浮かべながらメイとその隣にいた翔に抱きついた。翔はひどく驚きながら全て自分がやったと自白した。日下部先輩は「分かった」とだけ言って頷いた。

いい隠れ場所としてメイはそのまま用具室で過ごすことになった。


「私、あの時文芸部の扉を開けて、よかった。本当にありがとう。

…あのことも、私はクラスも違ったし、マジで部外者だから、あれなんだけど。私は間違ってないと思ってる。それだけは言っておきたかった」


帰り道、日下部先輩は文樹先輩と木暮先輩にそう伝えていた。


こうして一件落着と思われたが、翌日、学校に手紙がきた。

『逃げた子ヤギを探しています』

写真は紛れもなくメイだった。

メイは近所の牧場から脱走した子ヤギだったのだ。昼休み、日下部先輩が連絡をすると、放課後には裏門の前に軽トラが止まっていた。文芸部、オカ研、日下部先輩、メイで会いに行く。


「毛色が良い。本当に大切に保護してくれたんだね。ありがとう」


中年の牧場主は、日下部先輩があたふたと抱っこしていたメイをひょいと受け取った。


「ママのもとに帰ろうねー」


牧場主は軽トラの荷台にメイを乗せた。


「これ、ソフトクリームの引換券よ。いつでも遊びに来てね」


日下部先輩は呆然と立ち尽くしながら、引換券を半ば押し付けられるように受け取った。軽トラはあっという間にエンジンをふかし、校門から伸びる、真っ直ぐな道を進んでいった。

見えなくなるその直前に、日下部先輩ははじかれたように走り出した。


「私はメイのママだよ!!」


メェー、という返事は、夏の風に攫われたのだろう。



次の日、私たちは緊急部活を開いていた。

机の上に置いた骨を囲んで。


「みんな気づいてはいると思うけど、これは人間の骨だ」


文樹先輩が言った。


「翔に聞いてみると、あの桜の木の下で見つけたものだそうだ。キョンかなにかの骨だろうと思ったらしい」


学校の周辺は森も多い、校内にまで野生動物が侵入することもかなりある。

しかし大きすぎる。この骨は男性の足の骨だ。


「私から一つ、話さなければならないことがあります」


私は昔話でありトラウマであり文芸部に入った理由である、あの日のことを語り始めた。



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