第9話
『副部長』と書かれた棚には、濁った水晶玉や錬金術の指南書があり、魔法陣のステッカーが貼られていた。『翔』と書かれた棚には、大小さまざまな砂時計、メモリの掠れたビーカー、一世代前のカードゲームなどがあった。
一歩踏み出せばそこは文芸部とはまた違ったカオスだ。
「うぅ…。分かんないんだけど。俺は黒木先輩を信じたいんで、話します」
そう言って、文樹先輩はここまでに起きたことを全て話した。
「なんだその微妙な手紙は!!」
全てを聞いた黒木先輩の第一声はこれだった。
「オカ研として許すまじだ。そしてそれにホイホイ釣られて潜入しようとする文芸部もなっていないな」
「ですよねっ!!」
世羅は目だし帽を被ったまま激しい同意を示した。そういえば昨日シセリアで呟いていたな。
「ヤギが見つからないのは私も非常に気になる」
黒木先輩は一転して真面目な声になった。
「文樹ちゃん、木暮ちゃん、その他文芸部の皆の衆、何も助けにはならないかもしれないが、好きに調べてくれたまえ」
カオスを私たちはかき分けて、何か、特に決まっているわけでもないのだが、とにかく探した。
途中、ガラスの割れる音がし、全員が振り返った。ビーカーが割れて、ガラスと砂が散乱していた。幸い誰も近くにいなかったためケガしたひとはいなかった。
黒木先輩は奥から塵取りを取ってきた。
「部員はあと何人いるんですか?」
一緒に片付けながら質問をしてみる。木暮先輩はガラス片に怯えながら砂とより分けていた。ジャージを着ている翔はためらいなく膝をついて手伝ってくれた。
「二年生が二人いるけどUMA状態。しっかり来てるのは私と期待の新人翔ちゃんだけだよ。でも楽しいよ。昨日は翔ちゃんがでっかい砂時計持ってきてさ。笑っちゃったね」
「そうなんですね。でも、さっき副部長って名乗ってましたよね。部長は…?」
黒木先輩は遠くを見た。
「矢野光。UMAの部長だよ」
たぶんこのUMAは単なる幽霊部員というわけではないんだろう。
ガラス片はゴミ袋にまとめられた。春崎先輩が行くと申し出たが、木暮先輩が断り、翔はついていった。文樹先輩たちは捜索に集中しきっている。
「いやぁやっぱり、部活って大切だよね。
この高校は自由だよ、でもねやっぱり誰もが自由な姿でいられるわけじゃない。家も教室も息苦しい時、ため息の一つぐらいつける場所がほしいじゃない?」
黒木先輩は明るく言った。彼女の寂しそうな笑顔に私は何も言えなかった。
「文樹ちゃんと木暮ちゃんにとって、文芸部ってたぶんそういう場所だから。
残してあげてね」
私はただ頷いた。
「用具室の方にまで行っていたら遅れました」
木暮先輩とかけるが帰ってきた時、捜索を続けていた星名が突然尻餅をついた。ぶるぶると震えている、揺れる指の先には段ボール箱があった。
「骨。あそこ骨が入ってる!!」
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