第8話

潜入すると部室を出て廊下を歩きつつ、一番の疑問を首謀者である文樹先輩に投げかける。


「潜入って言っても鍵かかってますよね」

「部活棟の鍵は全部同じなんだよ」


文樹先輩はを指でくるっと回した。部活のルールとして、鍵は普段職員室に預けており、二年生か三年生が借りに来ることになっているが、もはやこれをやる意味が分からないくらいガバガバな警備だ。


「みんなは知らないんだけどね。鉄研に遊びに行った時忘れ物して、取りに行ったら閉まっててさ、ダメもとで試してみたら入れたんだよ」


鉄道研究部の犠牲に感謝。

白昼、ではないが夏の日差しが鮮明に照らす中、目だし帽をつけた六人組がオカ研の前にたどり着いた。


「よし、開けよう…ん?鍵穴じゃない。これダイヤル錠になってる」


もしかして警備を厳重化した?潜入はどうなる…。0から9までの四桁なら10000通り…


「文樹ちゃん、木暮ちゃん。こーゆーことしていいんだっけ?」


文樹先輩と木暮先輩の肩にポンっと小さな手が置かれた。ダイヤルを覗いていた私たちは一斉に振り返った。


「なんで分かるんですかっ!?」


そこには背の低い、白い肌の、小動物を彷彿とさせる女子学生が仁王立ちしていた。上履きの色からして三年生。

その後ろに、遠慮がち、というか引いているといった感じでやせ型の男子学生が立っていた。顔を見たことがあるので恐らく一年生。


「いや目だし帽が天パで膨らんでるでしょ?そして君とこんなことをしている背の高い子なんて木暮ちゃんしかいないから」


文樹先輩と木暮先輩はバツの悪そうに目だし帽を脱いだ。こういうことは一度か二度経験している。文樹先輩はそれが面白ければ目立つことに突き進んでいくし、木暮先輩はそれに付き合わされているせいだろう。


「オカ研副部長、この黒木くろぎ様がやってきてあげたわけだけども。要件は何かな?」

「ごめんなさい」

「質問に答えないと生贄にするよ」


黒木先輩の生贄という言葉に全員が反応する。


「それは…少し長くなるんですけど…」

「なら中で話しましょう。いいですよね先輩?」


文樹先輩がどこまで言うのか考えながら口をパクパクと開閉していると、後ろの男子学生が腕時計を確認して言った。


「可愛い可愛いかけるちゃんに免じて特別に入室の許可を与えようではないか」


黒木先輩は慣れた手つきでダイヤルを回した。私たちはいそいそとオカ研の部室に入った。








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