第5話
私たちは格安ファミリーレストラン、『シセリア』に来ていた。お洒落な喫茶店にでも行かないと格好がつかないのは百も承知。しかしながら私はただの女子高生なのだ。推理につきものとされる紅茶とコーヒー、幸いここのドリンクバーにはどちらもある。
「随分と嫌な感じですよね」
私はポケットから折り畳まれた怪文書を取り出し、机に広げた。
「不気味」
星名の言う通り、紙も言葉も切り抜きも全てが生理的嫌悪感をもたらす物だ。
「でもこの手紙が発見されたってことは、ヤギは本当にいて、いなくなったってことは確実になったな。半熟卵つけるか迷うな…」
文樹先輩はそう言いつつ、机に置いてある注文票を取り、番号を書いていった。
「まぁ日下部さんの自作自演という可能性もあるけどね。俺たちは下駄箱から取り出すところを見ていないし、事前に入れておくことも自分の下駄箱なら容易だ。ハンバーグで」
木暮先輩は言い終わると、置いてある間違い探しに手を伸ばした。
「でも、あの過呼吸は演技とは思えません。マルゲリータで」
私は木暮先輩に間違い探しを手渡した。
「私もマルゲリータにしようかな…でもコーンも美味しそうなんだよなぁ」
世羅がブツブツ呟いていた。
「じゃあシェアしよう」
世羅の顔が大袈裟なぐらい明るくなった。
「私もいい?」
星名の言葉に二人で頷く。世羅は頭を振りすぎてリボンが外れ飛んだ。
「俺もあの懇願が噓だとは思いたくないな。あ、たらこスパゲッティ」
春崎先輩はしゃがんでリボンを取った。世羅は礼を言うためにもう一度頭を振ろうとして先輩に止められた。
『俺も』という言葉をピザのことだと思って、番号を書いた文樹先輩は、最後の『たらこスパゲッティ』を聞いて一人わたわたしながら塗りつぶした。
「それは、そうだけど」
春崎先輩の言葉に木暮先輩は閉口した。
「ていうかさ」
文樹先輩は注文票とペンを置き、呼び鈴を押した。
「ヤギがいるって方が面白いだろ」
文樹先輩はいたって真面目に言った。
いつもの流れに、私たちは笑ってしまった。
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