第4話

新聞やチラシを切り抜き作られた、いわゆる怪文書というものだった。


『お前のヤギは生贄になった』


日下部先輩はそれを握りしめ、胸を抑えていた。


「日下部先輩、息ゆっくり吐いてください」


私は彼女が過呼吸になりかけていることに気づき、背中をさすりながら声をかけた。紙を彼女から取り上げる。


「怖い、怖いよ、何?どういうこと?メイは…」

「とにかく今は呼吸をしましょう。吐いて、吸って」


数分息を吸って吐いてを繰り返すと彼女は落ち着いた。そしてそのまま帰ると言ったが、私がなんとか説得し、保健室に連れて行った。保健室の先生には突然過呼吸を起こしたと伝え、彼女を預ける。私も残ろうとしたのだが、下校時間だからと返された。

少し遠いが、上履きを履き替えなくてはいけないため、昇降口まで回って帰ろうとすると、保健室の勝手口の窓から手を振る四人が見えた。私が出てくると、四人は靴に履き替えて待っていた。


「雲瀬って、しっかりしてるよね」

「そういう春崎先輩だって、靴持ってきてくれてるじゃないですか」


私は春崎先輩から、持って来てくれた私の靴を受け取って履き替えた。木暮先輩はそれを見て目を丸くした後、がっくりと頭を下げる。彼はよく自分の気の利かなさに絶望している。


「いや俺は気が利くだけだから」


春崎先輩は全く嫌みのない、さっぱりとしたテンションで言った。木暮先輩はもう一段階頭を下げた。


「あーゆー時にテキパキと行動できるのは本当凄いよ」


門へだらだらと伸びるアスファルトの上を、私たちは特に並ぶわけでも、グループができるわけでもなく、言うなれば混沌とした状態で歩いている。


「お褒めいただきありがとうございます。さて、」


私は日下部先輩から取り上げた怪文書を掲げた。


「推理の時間です」


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