第1話 お城での日常 その2
夜。グラムファフナーの私室にて。ノックの音ともに、やってきたテティの姿にグラムは目を丸くしたが……。
「……それで今日はその姿なのか?」
「だって、メイドさんたちと一緒にお勉強だったんだもん」
もこもこのクロクマさんはメイドの格好をしていた。頭の白いひらひらに、黒のロングスカートにエプロン姿は大変可愛らしい。
しかし、疑問なのは。
「どうしてメイド服なんて持っているんだ?」
「ん~ダンダルフがね。一つは必要だって言うから作ったの。でも見せたら、なぜかがっかりして『それじゃない』ってつぶやいていたから、
「…………」
それじゃないのは、おそらくこのクロクマじゃないテティに着て欲しかったのだろうなと、グラムファフナーは内心でお騒がせ賢者に向かい『ざまあみろ』と毒づく。
そして、ちいさなクロクマを膝の上に抱きあげて、テティと自分だけにしか見えないチャックを、ちーっと降ろす。
「いきなり脱がしちゃうの? わあっ!」
メイド服ごとクロクマのガワも脱がされて、テティは声をあげる。
脱がせるグラムファフナー自身いつも不思議に思うのだが、小さな黒い毛皮から豊かな月色の髪が滝のように流れて、さらに若木のように白いしなやかな身体が現れる。
そう、小さなクロクマが“裸”になると、月色の髪に緑葉の瞳のとびきりの美少年になるのだった。
そして、グラムファフナーの恋人でもある。
「それで礼儀作法の講座はどうだったんだ?」
「テティはね、先生から満点をもらったの」
「ほう……」
「文句のつけようがありません。立派な淑女ですって。当たり前だよね。テティは“しとやか”なんだから」
ダンダルフはテティに体術に棒術、魔法だけでなく、料理や裁縫まですべてを教えていた。ダンスだってたくみであるから、当然礼儀作法もだろうとは思っていた。
しかし、テティの自称“しとやか”なのには思わず苦笑してしまうグラムファフナーだ。
しとやかさんは怒ったとたんに、人の頭をロッドでボコったりしないと思うが。
「でもさ~女官長には逆に怒られた」
「どうしてだ?」
「『それだけおわかりになっているなら、どうして普段もお行儀良くできないのですか!』って。
でもさ、ずっと“おしとやか”でいるのって、くたびれちゃうよね? やっぱり普段はさ、いっぱい遊んでちょっと勉強するぐらいがちょうどいいって、ダンダルフも言っていたし」
あの賢者らしい言葉だとグラムファフナーはくすりと笑う。あれだけいい加減な賢者に育てられたのに、テティはとても良い子だ。少々? わんぱく過ぎるところがあるが。
ヘンリックも良い子であるが、聞き分けの良すぎるところもあったから、グラムファフナーも多少心配していたのだ。
そこにテティという、よいお友達が現れてくれた。多少……いやかなり、ハメを外し過ぎるきらいがあるが、テティならばヘンリックの身に危険が及ぶことがないだろうという信頼はある。
とはいえテティはもう子供ではない。心は少年のままであるが、勇者王アルハイトが闇の竜を倒した直後に誕生したのだから、かれこれ百歳近くになるはずなのだが。
「……だから、こういうことも出来る」
「やぁん!」
横抱きにした身体をベッドに運んで、白い首筋に吸い付けば可愛らしい声をあげる。
「お風呂、まだ入ってない」
「あとで一緒に入ればいい」
「もう、今日のグラムは強引」
すねて淡い紅色の小さな唇を尖らせる姿も可愛らしい。そのお口をあーんと開いて、ぱくりとグラムの尖った耳にかみつく。
「こら痛いぞ」
「グラムだって、僕をかむクセに……あっ……!」
お望みならばと首筋に軽く歯を立ててやれば、びくりびくりと腕の中の細い身体が震える。
そして、今夜も二人同じ夢を見て……。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
翌日、ちょっと朝寝坊してしまったテティは、いつものようにこっそり自分の部屋に戻ろうとして、ベッドの前で仁王立ちしている世話係のメイド、イルゼに見つかってしまい「夜のお散歩もけっこうですけどね、朝帰りは……」とまたまた悪いクマさんの判定を受けてしまった。
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