逆襲のかぼパン その2
グラムに抱っこされてやってきたのは、お城にある彼の私室の奥の寝室。
「わっ!」
ぽんと寝台に放り込まれたときには、くろくまのガワははがされて“裸”になっていた。背中のチャックはテティ以外は見えないはずなのに、グラムファフナーにはしっかり見えるらしい。
どうしてなのかは、テティにもわからない。それとグラムファフナーにあの小さなクマに、どうやってこの身体が入っているんだ? と問われたことがあるけど、それも本人にはわからない。「入っているんだから。いいんじゃないの?」と答えたら「そうか」と言われた。
ふわりと寝台に広がる月色の髪。ずしりとのしかかってくるグラムファフナーの長身。近づく超絶美形なお顔に「はぅ……」とテティは頬を赤らめて思わず謎の声をあげてしまう。
その手がすんなり伸びた白い足にかかるのに、テティは慌てた。
「ちょ、ちょっと待って!」
「待たない。じっとしてろ!」
パタパタ暴れても体格差でびくともしない。片脚を持ち上げられて、大きく広げさせられて。
「やああああっ!!」
テティが声をあげる。涙目でグラムファフナーをにらみつけた。長身が自分の上から離れて、テティは身を起こした。ベッドにぺたんと座り込む。
「これ、やっぱりヤダ!」
「我慢しなさい。そのうち慣れる」
テティは自分の腰のあたりを覆う白いモノを「ううぅ」と引っぱった。
テティの細腰とこちらも細い太ももに対比するように、白くてふっくらしたそれは。
カボチャ型のパンツ……だった。
「私との鬼ごっこに負けた約束だ。毎日それをはきなさい」
「裸じゃないときはいいでしょ?」
「ダメだ。クロクマの姿のときも、下にはしっかりその下履きをつけるように」
「…………」
そう、グラムファフナーはなぜかクマの姿のときも、下着をはくように言う。裸じゃないんだからいいじゃない! とテティは抵抗していた。
もっとも寝るときも、ガウン一枚ではいたことなんてないんだけど。それはあの赤いドレスのときも同じで、下着? なにそれ? のテティに、グラムファフナーはこれだけはなぜかすごく渋い顔をして「とにかくはきなさい」と口うるさい。
それが今日、追いかけっこにまで発展した末に、捕まってはかされた。
だいたいどうして、テティのはこのふんわりしたパンツなのだろう? グラムファフナーの下履きはぴったりした動きやすそうなのに。自分はぷっくりふわふわしてる。
「約束だろう? お前は約束を守る良い子だと、私は思っているが?」
「じゃあ、はくけど、テティもグラムみたいなのがいい」
「ダメだ。お前はそれにしなさい。そちらのほうが似合うから」
「……そうなの?」
「そうだ」
グラムファフナーは続けて「かわいいぞ」とも。そうか、かわいいのか、かわいいならいいかな? とテティは「……しょうがないな」とうなずいた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
そして、翌日からテティの逆襲? が始まった。
かぼちゃパンツ、略してかぼパンはクマのガワを着てしまうと気にならなくなって一日で慣れた。テティはその日、暇を見つけてチクチク針を動かした。
「じゃ~ん」
夜、グラムファフナーの部屋で、クマのガワを脱ぎ捨てたテティはかぼパン一丁の姿。それはグラムファフナーがはかせた、飾り気のないまっ白なものではない。
ひらひらレースと赤いリボンに彩られていた。
「どう? かわいくなったでしょ?」
「ああ、確かに可愛い」
翌日からテティは怒濤の針仕事で次々と“新作”を仕上げていった。白だけじゃ物足りないよねと、淡い薔薇色に水色、タンポポのような黄色。装飾にもこって、お花を付けたりビーズをつけたり、かぼパンの側面にずらりとリボンを並べてみたりした。
「これ涼しそうでいいでしょ?」とすけすけの布で作ったときは、グラムに即刻「却下!」「没収!」された。テティは「横暴」とぶーぶー文句を言った。
だが、翌日「これならどうだ!」と透けるレースに透けない布を重ねた逸品をしあげてみた。グラムファフナーも「見事だ」と気に入ってくれた。なにごとも創意工夫は大切だ。
そして。
「じゃ~ん、今日は力作!」
黒いクマを脱ぎ捨てたら、下も黒いかぼパンだった。ただの黒ではない。ワイン色の深い赤のリボンが大人っぽい雰囲気だ。黒のレースがふんだんに使われている。
「黒はさ、大人の色だってマクシに訊いて作ってみた」
「酒場の婀娜っぽい姐さんのスカートのスリットから、ちらちらのぞく黒い靴下留めが色っぽいとか、よくわかんなかったけど」とテティは続けた。
「マクシにはテティの教育に悪いことは吹き込むなと“指導”しなければならないな」
「?」
テティはやはりよくわからないとキョトンとする。
「ただし、今日の“助言”は大変素晴らしい」
その言葉にテティは笑顔となって、「こうしてみたの~」とかぽパンのふっくら膨らんだお尻を見せる。そこには滝のように黒いレースが並んでいた。
「ほら、こうすると揺れてかわいいでしょ~」
とさらにお尻をふりふりする。無自覚とは怖いとばかりグラムファフナーが眉間によったしわに指を当てる。
「グラムどうしたの? 気に入らない?」
心配してテティはグラムの顔をのぞきこむ。グラムファフナーは「いや、大変似合っている」と告げて、がっしりその細い肩をつかんで、ベッドに押し倒した。
「きゃあ~グラムのスケベ、ヘンタイ!」
「恋人相手にスケベでヘンタイでどこが悪い!」
開き直った宰相様は、その日も可愛いクマを頭からバリバリ食べた。
END
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