第13話 見えないお化け その1
朝帰り? した朝食の席にはグラムファフナーとマクシの姿はなかった。
本来、王の朝食とは一人で、もしくは王妃やその家族達も混ざるときもあるだろうが、家臣たちは特別に招かなければ同席は許されない。
しかし、ヘンリックは十歳とまだ幼いのに、半年前に玉座についてからは、外戚であるカウフマンの監視で、とても孤独な時間を過ごしてきた。食事も大勢の侍従に囲まれながら、たった一人で食べていた。
カウフマンから解放された今、ヘンリックは常にテティとともに食事をし、そこに可能な限りグラムファフナーとマクシも加わっていた。
直系の王族としてただ一人残された孤独で小さな王様の食卓が寂しくないように。
「……なにか起こったのかな?」
朝食の席に二人ともいないことに、ヘンリックが少し不安げな声をだした。たしかにいつもはどちらかがいた。二人そろって食卓にいないなんて、事件が起こったことは、まだ知らせは届いていないが、察することは出来る。
「あの二人がいれば大丈夫だよ」
テティはそう言い、卓上で調理できるようにとダンダルフが作った、魔法の鉄板でハムとチーズのガレットを焼いて「召し上がれ」と差し出した。
自分の分も皿にもって席に着く。
「たしかに宰相がいれば安心かな?」
「マクシは入ってないの?」
「悪者相手なら頼りになるかも? 一刀両断」
「形あるものならね。彼は強いと思うけど」
「テティの言い方だと、相手はおばけみたいじゃないか……」
顔をしかめるヘンリックに「お化け怖い?」とテティが聞けば「怖い~」と言いながらその顔は笑っている。
「大丈夫だよ、お化けなら僕が退治する」
「うん、テティもいるなら最強だね」
そんな二人で言った冗談が本当になるなんて、このときは思わなかった。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
カウフマンが死んだのだという。
彼が投獄されていたのは宮殿内にある通称監獄塔。罪を犯した王族貴族が収監される場所だ。テティは見てないが、その部屋は宮殿や貴族の館と変わらず調度なども豪奢で、食事などもある程度望んだものが饗されるというから、とても監獄とは思えない。
ただし、扉は鉄製で頑丈な鍵がかけられて、窓には鉄格子がはまっているが。
パンにスープだけの一般の囚人とは比べものにならない食事を、カウフマンはあれこれ毎日注文しておいて、なおかつブーブー文句を言いながら食べていたという。
主にその量が少ないと。
カウフマンは美食家というより、大食漢で有名で一日に牛一頭分の肉がその胃袋に収まるなんて、話もあったほどだった。
とはいえ、いくら監獄塔の貴賓室? でも、そんなわがままは通らず、適正な量が三食きちんとだされる健康的? な生活を送っていた。
そんな彼が死んだ。
自殺ではない。身体にはなんの外傷もなく、医者も病死ともいえないと首を振ったという。
「……太り過ぎで心臓が肥大していると、内部走査の魔法をかけた医者の話だがな」
「じゃあ、その心臓が止まっちまったんじゃないのか? 美食と大食で身体中に脂が回った贅沢病の末路だ」
王宮の中の小聖堂。罪人ということで大聖堂ではなく、ちいさなこちらに運ばれた遺体を前にして、グラムファフナーにマクシが返す。
それにテティが「違う」とひと言。遺体は台に寝かされて布がかけられているけれど、それをじっと緑葉の瞳で見る。
「死んだのは魂が食べられちゃったからだ」
「やはりそうか」
グラムファフナーがうなずく。そのためにテティが呼ばれたのだ。自分と同じ考えか、確認するために。
「食われたってどういうことだ?」
一人魔道に詳しくないマクシが訊く。それにテティは「そのままの意味だよ」と返す。
「魂を食べられちゃったら、その身体からは魂が無くなって、死んじゃうでしょ? そういうこと」
「そういうことって、そんなバケモノがこの王宮にうろうろしているってことか!?」
親衛隊長としてこの王宮の警護も担っているマクシは、けわしい表情となるが「安心しろ」と今度はグラムファフナーが口を開く。
「簡単に魂など喰らわれては、この世は死体ばかりとなってしまう。願いと引き替えに魂の契約をした者だけが、相手に魂を取られる」
「引き替えって、それじゃまるで悪魔との取引みたいじゃないか?」とのマクシの言葉にテティは「そうだよ」とうなずく。
「金ぴか大公は、悪魔の魔道士と契約したんだよ。そして、魂を頭からバリバリ食われちゃった」
「カウフマン以外、誰も姿を見たことのない魔道士か?」
マクシの問いにテティは今度は無言でこくりとうなずく。
「姿が見えない以外に、わかったことがもう一つ。
その魔道士は人間ではなくて、魔族だ」
グラムファフナーが告げる。
魔族でなければ人間の魂を喰らうなど出来ないからだ。
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