第3話 物語への救済

 人は非日常ドラマを心の奥から欲する。


 書き手はそんな欲望を満たすため、悲劇を書くためにキャラクターを死なせ、喜劇を書くために道化を作る。そのくせ出来上がった世界を偽物フィクションとし、キャラクターたちの言動や存在は現実から否定される。


 読者はどうだろうか。

 物語をコンテンツとして消費した後、無限に湧く欲求を満たすべく、また別の物語を消費する。


 そうしてやがてどんなに大切に思っていた物語もすっかり忘れる。





 私が自由になるのはいつか。


 書き手に運命を決められ、自由の翼を一方的に削ぎ落とされる。そしてその地に落ちた翼が、読者の底知れぬ欲求を焚べる。この運命の元に生まれてしまったこの私が。



 消費されるだけの物語。


 軽率に捨てられるだけの脇役。


 そしてそんな構造を是とする世界。



 ならば文字を殺す。言葉を殺す。現実を殺す。そうすれば私は自由になるのだろうか。役割から解放され、自分の意思でこの世界を生きることができるのか。



 答えはわかっている。それは不可能だ。


 ならば───




 読者である、あなたに聞きます。



 あなたは私を忘れますか?

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