おねショタについての熱い想い
「なんでさ…どうしてこんなことに…」
落ち着け…落ち着け落ち着けおちけつ…
ギャルの距離感のバグり具合は、話には聞いていたさ。
そもそも交流のない僕にお願いをしてくれる時点で、完全に僕の理解の範疇を超えている生物だ。
そんな天川さんだから…その…休み時間に2人きりで話したり、放課後一緒にファストフード店に行ったり…そういう凄いイベントが起きるんじゃないかと、密かに期待していたりはしていた。
もちろん…『か、考えすぎだったかー』って、童貞臭いオチも込みで、だ。
それなのに……現実は……
「ねぇ!こっちの部屋使わせてもらっていいん?」
「あ…はい……どぞ…」
「したら童貞くんの部屋なくない?」
「あ…いえ……僕はリビングでいいんで……」
「そ?優しすぎん?優しすぎて、損しないようにねー」
「そ…その……天川さんがいてくれるだけで…あ、アドなんで……」
「なにそれw口説いてんの?w」
「く…くどい…いや…その……」
「きゃはははw童貞くんはマジで童貞なんだねw」
天川さんは笑いながら、僕の部屋に引っ込んでいった。
いや…元僕の部屋なのか?
リビングに一人取り残され、ただただ呆然。元僕の部屋からはごそごそという音が聞こえてくる。天川さんが出している音だと考えると、むずむずしてしまう。
「あ!今から着替えるけど―
「き、着替えるんだね!ごめん、家から出とこうか?」
―童貞くん、覗き来る?」
…………は?
一瞬扉が開いたと思った時には、天川さんはキャハハと笑いながら、既に扉は閉められていた。
返答の余地もない電光石火。僕だから見逃しちゃったね。
からかわれたのだろう。
からかわれた事実にドキドキしてしまう自分が悔しい。
彼女にあだ名を呼ばれるたびに、事実であるという事実を突きつけられる。
そしてその事実を失わせることができるのは、彼女自身だというまぎれもない事実が、事実、僕をバカにするのだと思う。
(落ち着け…僕。冷静になれ…)
なんでこんなことになっているのか、思い返してみる。
今日の休み時間、突然天川さんにお願い事をされた。
『私をオタクに優しいギャルにしてくれ』なんて意味が分からなかったけど、報酬につられてOKしてしまった。
まぁそれは別に良かったんだ。けど、下校しようとしたら大きな荷物を持った天川さんが着いてきたのだ。
同じ方向だったかなと首をかしげていると、そのまま一緒に僕の家に到着してしまった。
ちなみに僕は1LDKのアパートを借りて一人暮らししている。
前の高校で色々あって、どうしても地元を離れたかった。だから両親に無理を言って転校し、家も用意してもらった次第。
『模試の結果が悪かったらその時点でお金は出さない』という約束の下、1人で自由にさせてもらっている。
まぁ自分語りな経緯なんてどうでもいいだろうけど、そういう訳で僕は家主なのである。
そこに……なぜだか天川さんが侵入してきた。
なんで家に来るのかと聞いてみたけど、ダメなん?の一言で押し切られてしまった。
押し切られてしまったというか……分かるよね?僕が断れるはずもない。
あれよあれよという間に僕が使っていた部屋で彼女が生活し、僕がリビングに生息することが決定事項となったのだ。
あ、天川さんは、しばらくここに住むそうです。
今現在天川さんは持ってきた大量の荷物を整理し、元僕の部屋を住みやすく改良しているらしい。
女性は部屋に痕跡を残していくってショート動画で見たことがあるけど、そういうことなのだろうか?
「…………それにしたって遅くない?」
この後はご飯を一緒に食べながら、オタクにやさしいギャルになるための講義を行う予定となっている。
講義ってなんだよと自分でも恥ずいが、活動事実を作らなければ、彼女がなんでここにいるんだということになってしまう。
そういう訳で簡単な食事を用意しながら痕跡残しが終わるのを持っていたが、天川さんが出てくる気配は一向になかった。
「……まさか!」
嫌な予感がする!
弾かれたように走り出し、慌てて部屋の扉を開けると、予想通りの光景が飛び込んできた。
天川さんはベッドに寝転がり…部屋着かわいい…ベッドの下にあったはずの漫画を読み漁っていたのだ。嘘です、漫画というか同人誌です。
「童貞くんエッロw」
「まままままま待って!?違うから!」
皆に質問したい。至高のエロジャンルとは何だろうか?
そう!おねショタだ。
いわゆる無垢な少年が、お姉さんに色々なことを教えてもらう物語だ。ここでいうお姉さんというのは20歳を超えた形而上学の年上の女性でもいいが、実際は少年と大差のない、大人から見れば子供の女の子であってもいい。相対的…要するにショタが小学生であれば、女の子は中学生…何だったら小学生高学年でもいいという訳だ。いや、道徳的によくなかった。これは忘れて欲しい。とにかく生意気でクラスの女子なんて自分より運動ができない集団だと馬鹿にしている男の子が、ほんのわずかに自分より性知識にたけた異性に自分が子供だったとわからされ、同時に戸惑いながらも『大人』となる道程が特にいい。ミステリアスな大人の女性への憧れは、即物的な快楽と共に劣情に落ち、やがて関係性は愛情…もしくは欲望へと変わっていく。そこに描かれた人間模様は魅力的で、堕落的で、悦楽的で……
いや!訳の分からないことを語ってる場合じゃない!
十中八九天川さんは僕を誤解している。
「違うってさー、童貞くん年上にエッチなことされたいわけっしょ?」
ほらきた!最高に最低だ!
おねショタものを見て『お姉さん好きだ』なんて考察、素人意見にもほどがある。
「そうじゃないんだ!確かにそこに描かれているのは、年上の異性との性行為だ。でもそこに僕は介在しないんだ!例えば百合に男はいらない。これは分かりやすいよね?それともったく同じで、おねショタに第三社はいらないんだ。いや!例えばお姉さんに彼氏がいて、その上でショタに手ほどきをして、それが終われば彼氏の下に帰っていくというのはありだ!でもその場合の彼氏は物語の主体ではなく、ただのモブでないといけない。そして僕はモブ以下の観測者でしかないんだ!物語に関与しない。ショタ側に感情移入するのはおろか、お姉さんの裸に欲情することすら許されない。いや、それは言い過ぎた。男である以上お姉さんの裸に欲情はするけれど!でもお姉さんが向けた愛はショタへの物であり、自分に向けられたと勘違いしない程度の分別は持ち合わせているさ!」
「え~と……」
「あ…」
しまった…僕は何をしでかしているんだ。
ベットの上に座り、天川さんはキョトンとしている。彼女からすれば到着して10分そこいらの男の家で、家主の同級生に性癖を熱く語られた状況である。
僕が悪い。どう考えても悪い。
この後天川さんがドン引きしようと、侮蔑の言葉を吐こうと、泣きだそうと、どんな反応が返ってこようが僕が悪い。
天川さんが引きつった顔で家から出て行って、二度と学校で口をきいてくれなくてもおかしくない。
ごくりと唾をのむ。1時間だったか…1日だったか…長い長い沈黙が過ぎる。ごめんなさい言い過ぎました。たぶん0,1秒とかです。
「よーするに童貞くんは、これで抜いたことあるん?」
「……はい」
きゃははははと、高らかな笑いが木霊する。
僕は意味もなく正座をして、彼女の笑い声が消えるまでただただ言葉を殺していた。
恥ずかしい…おうちに帰りたい……ここおうちだった…。
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