第2章:算数0点、魔術100点

第11話:魔術書(マジティーシュムチ)

 

「オレが魔術マジティーを使ってたおれたことは、みんなにないしょだぞ」


 朝起きたとき、リッカにぃにぃは、ぼくにそう言った。

 おまけに、女官にょかんが朝ごはんを持ってぼくの部屋に来たときに、ぼくの顔をかくすようにギューッとだきしめて、こんなことを言ったんだ。


「あぁナナミ、ひとりぼっちでさびしかったな。にぃにぃがいっしょにいてやるからな~」


 って。

 リッカにぃにぃってば、ぼくがさびしがっていないか心配してここに来たことにしちゃったよ。


「あらまぁ、マキラさまはお優しいですねぇ」

「うむ。ナナミといっしょに朝ごはんを食べるから、ここへ持ってきてくれ」

「かしこまりました」


 女官はニコニコしながら、リッカにぃにぃの朝ごはんも持ってきてくれた。

 ゆし豆腐どうふをたっぷり入れたスープごはん。

 たしか、ゆし豆腐料理の専門店では「ぶっかけゆし豆腐」ってメニューに書いてあったな。

 ちぎった海苔のりがかけてあって、生卵も入っている。

 ゆし豆腐をごはんにかけるのは、ぼくの好きな食べ方で、ママもよく朝ごはんに出してくれたよ。

 この世界は歴史はちがうけど、料理は同じものが多いみたいだ。


 女官が「マキラさま」ってよんだので、リッカにぃにぃの「あざな」は「マキラ」っていうことを、ぼくはこのとき知った。

 といっても、ぼくはリッカの兄弟だから、字ではよばないけどね。


「今日はサイオン先生が来てくれるぞ。ナナミは魔術を使ったことがないだろう? にぃにぃが練習に付き合ってやるからな」

「うん。ありがとう」


 いっしょにごはんを食べながら、リッカにぃにぃが今日の予定を教えてくれた。

 にぃにぃは、ぼくの魔術の勉強に付き合ってくれるらしい。

 ぼくは魔術なんてゲームの中でしか使ったことがないから、本物の魔術がどんなものか、まだ知らない。

 魔術が使えるリッカにぃにぃがいっしょに練習してくれるなら、お手本が見られて分かりやすいかも。



「リッカにぃにぃ、お手本見せてね」

「ああ、任しとけまかちょーけ


 ごはんを食べて、ちょっと一休みした後、ぼくはリッカにぃにぃといっしょに魔術書マジティーシュムチがいっぱいあるという書庫へ向かった。

 サイオン先生はそこで待っていて、今日は本を見て勉強するだけだった。


「異世界から来たシロマさま、この文字は読めますか?」


 そう聞かれて、机に置かれた魔術書の文字を、ぼくはふつうに読むことができた。

 しかも、書いてあることをカンタンに覚えられたんだ。

 算数の教科書なんて全然意味が分からないのに、魔術書はとっても分かりやすい。

 いいなぁ。ぼくこっちの世界に生まれたかったよ。


「うん。読めるよ。内容もカンタンで覚えやすいね」


 ぼくは思ったとおりに答えた。

 ていねいな言い方をしなかったのは、リッカにぃにぃから「王族は公務以外では、めったに敬語を使わない」って教わったから。


「ほぅ、読めるか。この世界のナナミは1文字も読めなかったのに」


 ぼくの横に座っていっしょに本を見ているリッカにぃにぃが、ちょっとおどろいたように言った。

 そういえば、この世界のナナミはぼくと同じでテストで0点をとったんだっけ。

 なんのテストか知らないけど、もしかしたら魔術のテストだったのかな?


「お姿はそっくりでも、得意なものや苦手なものがちがうみたいですね」


 サイオン先生はそう言って、何冊かの本をぼくに見せた。

 どれもぼくにはカンタンに読めて、内容がすぐ頭に入る。

 これなら、テストに出てもすぐ答えられそう。


 魔術書には魔術の名前と効果が書いてある。

 それはまるで、ゲームのガイドブックみたい。

 ぼくの好きなトレーディングカードゲームの魔法まほうに似たものが多いから、覚えやすいのかもしれない。



画像:ぶっかけゆし豆腐

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093082671435168

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