第10話:魔術(マジティー)

 オイラはどこかへ走っていくリッカが気になって、コッソリ追いかけた。

 リッカはもちろん全く気付いていない。

 走って行った先は、魔術マジティーの訓練場だった。

 弓道の的みたいなものが、あちこちに置いてある。


「ナナミめ、よくもバカにしたなぁ~っ!」


 リッカはプンプンおこりながら、的の1つに片手を向けた。


 お? 魔術マジティーを使うのか?

 オイラはワクワクしながらリッカを見守った。


「フィーダマ」


 リッカが言うと、的に向けた手のひらからポッと音をたてて火の玉が飛び出した。

 野球のボールくらいの大きさの火の玉は、そのまままっすぐ飛んで、的に当たると燃え上がった。


 ふむふむ、火の魔術か。

 それならオイラもできるぞ。

 魚を焼くときしか使わないけどな。


 リッカはその後、何度もフィーダマっていう魔術を使った。

 出てくる火の玉は、それぞれ大きさがちがう。

 同じ魔術でも、強さを変えられるみたいだな。


「う~ん、もっと大きいほうがいいか」


 リッカがそう言って最後に出した火の玉は、サッカーボールより少し大きかった。

 それが当たった的は、あっというまに燃えつきてパラパラと地面に落ちた。


 ほうほう、なかなかやるじゃないか。


 って思っていたら、リッカがフラ~ッとよろけてたおれてしまったぞ。

 そのまま動かなくなってしまったから、オイラは心配になってリッカに近付いて顔を見てみた。


 顔色が悪くなってるな。

 まるで貧血でたおれた子みたいに青白い。

 リッカは目を閉じて地面に横たわっている。


 息をしているか、口元に耳を近付けてみた。

 かすかに息がかかってくすぐったい。

 心臓が動いているか、胸に耳を当ててみた。

 少しゆっくりした感じのトクントクンという音がする。


 気を失っているだけだな。

 でも、なんで気絶したんだ?

 このまま気が付くまで待っていればいいのか?


 考えていたら、雨が降り始めた。

 屋根がない場所だから、リッカがビショぬれになってしまうぞ。

 そうなったらカゼをひいてしまうと思って、オイラはあわててリッカをだき上げた。

 水面に立てるのと同じで、オイラは雨をよけることもできるんだ。


 さて、どこへ運ぼう?

 オイラはリッカを運ぶために姿を現してしまったから、行くなら人目につかない場所がいい。

 でも、たおれた原因が分からないから、だれもいないところへ運ぶのはよくないかも。


 医者がいる場所? 病院?

 そんなの、どこにあるか知らないぞ。



 結局、オイラは七海の部屋にリッカを運んだ。

 女官たちが帰った後で、だれにも見られずに済んだよ。

 真夜中だったから、ベッドでねている七海の横にリッカをねかせた。

 よし、七海に起きてもらおう。


「七海、起きてくれ」

「ん~? だれ?」


 体をゆすって呼びかけたら、七海はすぐに目を覚ました。


「あ、今度は本物のキジムナーだ。……あれ? もうひとり、だれかいる?」

「まだ名前を教えてなかったな、オイラはムイだよ。で、そこにねているのはナナミの兄ちゃんだ」

兄ちゃんにぃにぃ? って、リッカにぃにぃ? なんで?」


 七海は自分のとなりにリッカがねているから、なにがなんだか分からない様子だ。


「魔術を何回か使った後、フラ~ッと貧血みたいにたおれちまったんだよ。雨も降ってきちまったから、とりあえずオイラがここに運んだのさ」

「お医者さんをよんだ方がいいのかな? どこにいるのか知らないけど」


 そういや、七海もこの世界に来たばかりで、医者なんてどこにいるか知らないよな。


「お城のだれかに聞いたらいいんじゃないか? あ、オイラのことはナイショにしといてくれ」

「えっ、じゃあどうしてリッカにぃにぃがここにいるのか答えられないよ」

「夜中に目が覚めて見たらとなりにねてたって言えばいいぞ。ウソじゃないし」


 って話し合っている間に、ウウンとうめいてリッカが目を開けた。

 ボンヤリしているから、まだ半分気を失っているのかも?


『オイラはかくれるから。七海はさっき言ったとおりに説明しといてくれ』

「ええっ? ちょっと待って」


 七海には悪いけど、オイラはかくれさせてもらおう。

 リッカはまだ起き上がれないみたいで、ベッドに横たわったまま七海の方を見た。


「なぜ、ナナミがいる?」

「えっと、ここ、ぼくの部屋だけど」


 リッカは自分の部屋に七海が入ってきたとまちがえているらしい。

 七海に言われてハッとしたように起き上がりかけたけど、体に力が入らないのかすぐにパタッとたおれてしまった。


「見たのか」

「え?」

「魔術を使っているところを」

「み、見てないよ」

「見ていたから、魔力マジグテーがなくなって気絶したオレを運んだんだろう?」


 七海が説明する必要なくなったな。

 リッカはひとりで納得してしまった。


「まだ歩けないからここでねる。ナナミもいっしょにねていいぞ」

「う、うん。……っていうか、これぼくのベッド……」


 リッカはここでねる宣言のあと、七海の返事を待たずにまた気絶してしまった。

 七海も今夜はもう話はできないなと思ったのか、ベッドに横になって目を閉じた。

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