第8話:遠弥計赤蜂(オヤケアカハチ)★

 七海がごはんを食べているころ、オイラはまたお城の中を見に行っていた。

 あちこち歩き回って、オイラはお城の中で、1枚の大きな絵を見つけた。

 その絵には、赤いかみの毛と青い目をした強そうな男の人が書いてある。

 絵の下の方に文字が書いてある板があって、その文字はオイラにも読むことができた。



 王家の祖先

 ヤイマ国の英雄えいゆう、オヤケアカハチ


 むかしむかし、ヤイマの島々のひとつ、「果てのうるま」とよばれる小さな島の海岸で、ひとりの赤子が泣いていました。

 それは、ほのおのように赤い髪と、海のように青い目をした赤子でした。

「もしも東を向いて泣いている赤子を見つけたら、拾って大切に育てなさい」

 その島には、このような言い伝えがあったそうです。

 赤子はまさに東を向いて泣いているところを島のつかさに見つけられ、我が子として育てられました。

 やがてたくましい若者に育った赤子は、オヤケアカハチという名で知られ、人々からしたわれる村の長となったそうです。


 そのころ、リュウキュウ国がヤイマの島々の神イリキヤアモリを邪神じゃしんといい、それを信じることを禁じるようになりました。

 アカハチとヤイマの島人たちはそれにあらがい、大きな戦が起きました。

 ヤイマの守り神イリキヤアモリは、自らを信じる人々に魔術マジティーという不思議な力をあたえ、戦を勝利に導いたそうです。

 人々の中でも特に強い魔術マジティーをあたえられたオヤケアカハチは、人々に望まれてヤイマ国を建国し、王となりました。

 ヤイマ王家の子孫は、すなわちオヤケアカハチの子孫なのです。



 オヤケアカハチなら、オイラがいた島でも有名な人間だ。

 キジムナーと同じ赤い髪の毛だから、精霊の血をひいていたのかな?

 でも、オイラがいた世界では、アカハチは戦にまけて殺されているよ。

 こちらの世界では勝ってヤイマ国を作ったんだな。

 神様が力を貸していたら、オイラの世界のアカハチも勝っていたのかもしれない。


 そんなことを考えながら、またお城の中を歩いていたら、赤い髪の子供たちが集まって、何か話している部屋の前まで来た。


「ナナミが異世界へ行ってしまったって?」

「代わりに異世界のナナミがこちらへ来ているらしいぞ」

「どんな子?」

「見た目はナナミにそっくりらしいよ」

「じゃあ、髪の毛は黒いのか?」

「うん、そうらしい」


 6人いる子供は、王族かな?

 どの子も七海より年上っぽい。

 ナナミは第七王子ってことだから、兄ちゃんが6人いるわけだ。

 でも、あんまりにてないな。

 それに、ナナミは黒髪くろかみだったけど、この子たちはみんな髪が赤い。


「みんな、このことはお城の外では言ってはダメよ」


 王妃さまが部屋に入ってきたぞ。

 ナナミと七海が入れかわったことは、城外の人には秘密にするらしい。


「母上、もうひとりのナナミを見に行ってもいい?」


 子供の1人が、そんなことを聞いている。

 女の子みたいにカワイイ顔だけど、男の子だな。

 七海とそんなに年は変わらない感じだ。

 むしろ背は七海より少し低いな。


「もうすぐ夕食だから、行くのは後にしたら?」

「え~っ? ちょっと見るだけだから。行ってくる!」

「こら! 待ちなさいリッカ!」


 走り出した子は、母ちゃんの言うこと聞かない系だな。

 あっという間にいなくなっちまったぞ。


「リッカは本当にナナミが好きだなぁ」

「あれは好きっていうのか?」

「いつも、いじめているように見えたけど」

「ナナミ、いやがっていたような?」

「もしかして、いじめられるのがイヤで逃げたんじゃないか?」


 残った兄ちゃんたちが、そんなことを言い合っている。

 どうだろうな?

 星の海ですれちがったナナミは、何かから逃げているようには見えなかったけど。

 オイラはリッカが七海をいじめないか心配になって、王妃さまに続いて後を追いかけて行った。


「あ、キジムナーだ」

「んなっ?! 兄に向って何を言うか!」

「えっ? 女の子なのに、お兄ちゃんにぃにぃ?」

「だっ、だれが女の子か!」


 追いついてみたら、なんだかコントみたいな会話が聞こえた。

 七海、それキジムナーじゃないぞ。


「母上、リッカにぃにぃはどうして赤い色の髪の毛なの?」

「赤い髪は英雄えいゆうの血をひいているからだ」

「キジムナーの英雄?」

「ちがう! 人間だ」


 七海はどうしてもリッカをキジムナーにしたいらしい。

 そんなにすぐプンプンおこるヤツ、キジムナーの中にいないぞ。


「王家のご先祖さまウヤファーフジは、オヤケアカハチさまという、赤い髪に青い目をした人だったのよ」

「オヤケアカハチ……」


 王妃さまが言った名前に、七海はおどろいた。

 そりゃそうだよな。

 七海は島人しまんちゅの子だから、知っているはず。

 むこうの世界では戦に負けた英雄。

 それが、こちらでは勝っているということを、七海もこのとき気づいたみたいだ。



※画像:石垣島にあるオヤケアカハチ像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093083060040300

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