第3話:いらっしゃい(オーリトーリ)★
「知らない人についていってはいけません」
ぼくは小さいころから、パパやママにそう言われていた。
知らない人についていくと、
「誘拐されると、お金をたくさんはらわなきゃ家に帰してもらえないんだ。殺されてしまうこともあるんだぞ」
パパはそう言っていた。
うちはビンボーだから、ぜったいに誘拐されるなよって。
ぼくはお金を持ってないし、パパもママも少ししかお金を持ってないから、誘拐されたら帰れなくなるらしい。
なのにぼくは今、知らない人たちに手を引かれて歩いている。
これって誘拐?
どうしよう。
ぼく、1円も持ってないよ?
殺されちゃう?
こわい……
「シロマさま、だいじょうぶですか?」
「水にぬれて、お寒いのでしょう」
こわくてふるえていたら、手をつないでいる女の人が心配そうに聞いてくる。
そうだ、この人たちはさっき会った男の子の知り合いなんだ。
ぼくを見つけて大あわてで走ってきていたから、あの子を探していたんだと思う。
だから、あの子にとっては、知らない人じゃないはず。
ぼくはあの子とまちがわれているだけだから、ちゃんと話せば殺されたりしないよね?
「あの……」
「おかえりなさいませ、シロマさま!」
ぼくは、あの子の家に着く前に、人ちがいだよって話そうとしたんだけど。
もう着いちゃったみたい。
あの子の家は海の近くだった。
門の前にいるオジサンたちが、ぼくを見て頭を下げた。
なにこの大きい家!
家っていうより、お城じゃないか?!
「カゼをひいては大変ですから、まずは湯につかりましょうね」
首里城の赤色のところを青色にしたみたいなお城の中に、ぼくは連れて行かれた。
すれちがう人が、ぼくに気づくとみんな道を開けるようにはしっこへ寄って頭を下げる。
あの子、えらい人の子供かな?
こんなお城みたいな家に住んでいるんだから、すごいお金持ちの子かもしれない。
なにこの大きいおふろ!
学校のプールみたいに広いんだけど!
びっくりしすぎて声も出ないぼくは、おふろの前にある着替え場所まで来ると、服をぬぐのを手伝ってもらった。
それから、付き添ってくれた女の人に体を洗ってもらった後、1人でお湯に入った。
お母さんや親戚のおばちゃんたちと温泉へ行ったときは他にも人がいっぱいいたけど、今ここのお湯に入っているのはぼくだけ。
プールみたいに広いから泳ぎたくなるけど、やったらおこられるよね?
お湯はちょうどいい温かさで、シークヮーサーがうかべてあって良いにおいがする。
「こちらは、洗っておきましょうね」
お湯からあがると、ぼくはちがう服を着せられた。
あの子が着ていた服と同じで、
芭蕉布は軽くてすずしいから、ぼくもシャツを持っているよ。
着せられた服は、ぼくが見なれた「かりゆし」ではなく、カンタンに着がえられる着物みたいなものだった。
もとから着ていた服は海水でびしょぬれだったから、洗ってくれるらしい。
「お夕食までまだ時間がございますから、こちらをお
そう言われて、お庭の東屋でオヤツを食べてるんだけど。
オヤツはぼくの島でもよく売っている「くんぺん」っていうお
クッキーみたいな皮の中に、黒ゴマとピーナツをあまいペーストにしたようなのが入っている。
おいしいけど、のんびりしてはいられない。
人ちがいだってことを、そろそろ言わなきゃいけないよね。
「シロマさま、お茶のおかわりをどうぞ」
「あの、えっと……ぼくはシロマっていう子じゃないです」
「えっ?」
「ぼくは、ここの家の子供じゃないです」
「どういうことでしょうか?」
「人ちがい、です」
「人ちがい……ですか?」
青いガラスのコップに氷とさんぴん茶を入れてくれる女の人に、ぼくは話しかけてみた。
女の人は何のことかよくわからないみたいだ。
あの子にそっくりな子供なんて、ぼく以外に見たことがないのかも。
ぼくも、自分にそっくりな子なんて、見たのは今日がはじめてだ。
どうしてそっくりなんだろう?
それに、ここはどこなんだろう?
ぼくが住んでいる島には、こんなお城みたいな家はなかったよ。
「ぼくは、この島の子供じゃないです」
ぼくがそう言ったら、まわりにいた女の人たちはビックリしたみたいだ。
顔を見合わせたあと、1人があわててどこかへ走っていった。
たぶん、だれかに知らせに行ったんだろうね。
※挿絵
https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093083936868772
「くんぺん」画像
https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093082136500441
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