第三章

第17話 水着を買いに行こう! sideリア

「リアさん。今度の休み、天気が良かったら日光浴に行きませんか?」


 朝食後、リビングでお茶を飲みながらくつろいでいると、唐突にポポロム先生が切り出してきた。


「えっ、日光浴……ですか?」

「はい! 日光浴に適した、人気の公園があるんです!」


 この地域は日照時間も短く、気温が高い時期があまりない。そのため、外気温が18度であっても天気が良ければ、海水浴や日光浴に出かける人が多い。街の公園へ行けば、いざ陽に当たらんとする人達が、人目もはばからず水着姿で日光浴を楽しんでいる。


「そ、そうですね……」

「あまり、好きじゃないですか?」

「いえ、そうじゃなくて。私、水着を持っていないんです。子供の頃に行ったきりで……」


 水着を持っていないのは本当だけれど、ポポロム先生の前で水着姿になるのが恥ずかしいというのもあった。それに、子供の頃はまだゴンドル族の特徴である耳も目立っていなかった。今は他人に見られてしまうのではないかと、ためらってしまう。


「そうでしたか。では、買いに行きましょう!」

「え、ええっ?」

「善は急げです」


 そんな私の心配を払拭するかのように、ポポロム先生は笑顔でショッピングモールに連れて行ってくれた。



「わぁっ、かわいい水着がいっぱい」


 ショッピングモールの水着売り場には、様々な水着が売られていた。

 普段の買い物は先生と一緒に行ったりしているけど、自分自身のものを買うのは久しぶりで、ガラにもなく興奮してしまった。

 早速、自分のサイズの水着を手に取って見比べる。

 ビキニもワンピースもかわいい。


「良かったら、試着してみてくださいね」

「くすっ、先生がお店の人みたい」

「すみません、僕もつい、楽しくなってしまって」


 どうやら、私のテンションが先生にもうつってしまったようだ。

 水着を選んで試着室へ向かうと、後ろから先生も着いてくる。


「試着はしますけど、恥ずかしいので、先生は向こうに行っててください」

「えっ?」

「行っててくださいね?」

「はい……」


 にっこりと無言の圧をかけると、先生はしずしずと売り場の隅の方に移動した。



 試着室に、水着を4点ほど持ち込んだ。

 まず最初はブルー基調のビキニ! 上部分のひらひらが可愛くて第一印象で決めた。

 次はその色違い! イエロー基調で形は同じ。これもいいかも!

 その次はワンピース型! ピンクでシンプルな感じ。体型を隠すにはいいかも……。

 最後はシンプルな形のビキニ。 紺色で、下がスカート型なのがかわいい。

 

「ショッピングなんて久しぶりだから、どれもこれも迷っちゃう!」


 でも、やっぱり先生の前で水着は恥ずかしいから、上に羽織るものも買っておこう。

 体型に自信があるわけでもないし……。


 水着を決めて売り場を一周してみると、サンオイルと日焼け止めも売っていた。

 日光浴に必要なものはほぼここで買えそうだ。


「日焼けも気になるけど、こんがり小麦色も憧れるなぁ〜」


「リアさん、サンオイルと日焼け止めでお悩みですか?」


 ポポロム先生がやってきた。


「あっ、先生! お待たせさせてしまって、ごめんなさい」

「普通に日焼けをするよりは、サンオイルを塗った方が、肌へのダメージは少ないですよ」

「そうなんですね」

「日焼け止めは、炎症も長波長紫外線も防いでくれます」


 先生は医者らしく、日焼け止めの効果を教えてくれた。

 この地域では小麦肌が好まれるが、最近では皮膚病の懸念も強まってきて日焼け止めを塗る人も増えてきているそうだ。


「先生は、どちらがお好きですか?」


 悩んでいたので、男性側の意見も聞いてみようと訊ねてみた。

 先生は、少し考えて、


「正直に言うと、どちらも好きです!」


 と笑顔で言った。

 参考にはならなかったけど、自分で好きな方を選べということなのだろう。


「小麦肌のリアさんも、もちろん魅力的でしょうし……。今の白い肌のリアさんも好きですよ」


 い、一般的な話じゃなくて、私の話……!?

 先生は、照れた風でもなくサラッと言ったのだから、深い意味はないのよね?

 でも少し、ドキドキしてしまった。


「よし、決めた!」


 私は、一番効果のありそうな日焼け止めクリームを手に取った。

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