第12話 計画
「テオ、どうしたの? よくここがわかったわね」
リアは事件のことがあっても、テオのことはやはりかわいい
ポポロムに釘を刺されているとはいえ、無下にはできなかった。
テオは、リアのこの態度を不思議に思った。
あれだけ傷つけたのに、怖がられもしない。なぜ、そんなに笑っていられるのか……。
(俺が、こわくないの……?)
「姉さん、傷の具合はどう?」
テオは、問題の核になる部分は伏せつつ、思い切って訊ねてみた。
「傷? 傷って、なんのこと?」
本当に覚えていないのだと、テオは理解した。
(まあ、いいや。忘れてるなら、好都合だよ)
テオは、再会のハグがしたくてウズウズしたが、なんとなくやめておいた。
もしショックで忘れてしまったのなら、触れない方が得策だろうと考えたからだ。
そういえば、
「ねえ、姉さん。俺、スマホ忘れちゃった。兄さんと連絡取りたいから、姉さんのを貸して?」
テオは、いつもの明るい調子で言った。
優しい
しかし、返事は思っていたのと違った。
「えっ? お兄様と連絡を取るの……?」
「うん」
「テオ、実はね、私はテオと会っちゃいけないってことになってるの。だから、お兄様に連絡を取るのは、ちょっと……」
(ちぇっ……。誰かに事前に釘を刺されているな、これは)
「本当は家にも入れちゃいけないのよ。テオ、あなた一体、何をしたの……?」
テオは、リアから初めて疑いの目を向けられた。
今までとは違うその眼差しに、ゾクリと背筋が震えるような快感を覚えた。
(いいなぁ……。今度は、優しくできるかな……?)
「ニュースでは、ある女性に暴行って……。テオ、まさか──」
リアが言いかけた時、リビングの方でスマホが鳴った。
二人とも一瞬ビクッとなったが、お互いを警戒して身動きが取れない。
「……姉さん、電話、出なよ」
「……」
リアは、テオを警戒しつつリビングに戻った。
「はい、お兄様? ええ。はい、特に──」
電話は、
リアが一人で留守番していると聞き、心配してのことだった。
「もう、そんなに朝から何度も電話してこなくても、留守番くらいちゃんとできます──」
子供じゃないんだから、という風に、リアは電話の向こうの義兄に対して言った。
しかしその時、横からヒョイとスマホをテオに取られてしまった。
「あっ」
『リア?』
スピーカーから、アルフレッドの声が聞こえた。
「やあ、兄さん──」
『テオ!? なぜそこがわかった……!?』
「さあ、なんでかな?」
テオは、いつも通りにこやかに、しかし話は
そして、挑発するように口を開いた。
「兄さん。俺、次は姉さんに優しくできそうだよ」
テオは、リアをこれ以上壊すことは望んでいなかった。
『……やめろ。おまえの狙いは俺だろう? 俺だけを狙え』
「兄さん、何言ってるの? 俺は、昔からそうだったでしょ?
“兄さんが好きなものを好きになっちゃう”って──」
『次、おまえが何かをしたら……俺がおまえを殺す』
「ははっ、やってみたら? ここまで、車で1時間だよ? その間に逃げる時間は十分あるよ。
じゃあね、兄さん──」
『テオ──!』
アルフレッドの声は、すでに通話を切られて届かなかった。
(テオは、一体何を話していたの……?)
リアにもアルフレッドの声はかすかに聞こえていた。まさか、テオにあんな物騒なことを言うなんて……義兄は、テオが事件を起こしたことを怒っているに違いないと、リアは思った。
自分もテオに対して事件のことは叱るべきだ。しかし、何か大切なことを忘れているような気がする。
リアは、考えれば考えるほど頭痛がした。
「ごめんね、姉さん。兄さんの話が長くて──。スマホ、返すね」
テオが、スマホを手渡そうとしてきた。
しかし──
(テオに……近づいちゃいけない気がする……)
リアはなんとなく、テオに危険を感じた。
「待って、テオ。スマホは、そこに置いておいて」
「……わかった。ここに置いておくね」
テオは少し考えて、そばのテーブルの上にスマホを置いた。
テオは笑顔だったが、リアは恐怖を感じた。
逃げ出したかったが、テオが出入口側にいるため逃げられず、リビングの窓は人が通れるタイプではなかった。
スマホも、テオの近くにあるからアルフレッドに再び連絡を取ることもできない。
(どうすれば───?)
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