第3.5話 姉さんと、初めての。sideテオドール

「昔みたいに、行ってきますのキス、 してほしいな♪」


 帰ってくる時に再会のハグはしているけれど、大学に入ってから行ってきますのキスは、一度もしていなかった。


「ええっ!?」

「家にいた頃は、してくれたじゃん♪」

「そ、そうだけど……!」


 姉さんは焦っていたけれど、こんな時でもないとお願いできないし。

 それに、姉さんは優しいから。

 これくらいのお願いは、聞いてくれるよね?


「じゃあ……ちょっと屈んで?」

「ん……」


 ほら、照れながらもやってくれるんだ。

 目を閉じてドキドキしながら待っていると──


 唇に、やわらかいものが触れた。


「…………」


 えっ? 今のって……?


「ね、姉さん……?」


 目の前で、姉さんが赤くなって焦っていた。


「ご、ごめん…… 間違えちゃった……。や、やりなおそうか……?」


「いや……いいよ……」


 顔が火照る。姉さんとの初めてのキス。

 間違いだし、全然ロマンチックじゃないけど。

 にやけそうな顔を押さえて正気を保とうとした時、視界の端に兄さんの姿があった。


 も、もしかして、見られてた!?

 兄さんは、クールに見えて嫉妬しやすいから!

 姉さんも、兄さんの姿に気づいて慌てふためいている。


「じゃ、じゃあ、またね! 来週も来るよ!」


 逃げるように、家を出てきてしまった。

 ああ、きっと姉さん困ってるだろうな……。

 ガレージに停めた車の前で、ふと我に返り、さっきの姉さんの言葉がよぎる。


『ご、ごめん……間違えちゃった……』


 間違えた……? 『どこ』と……?


 それとも……。


「“だれ”と……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る