第7話 一戸・二槍・三浦たち
季節は巡り、早くも初夏を迎えていた。このころから制服が夏服に移行していき、暗色だった生徒たちの群れの中に明るい白色が混じり始めた。
まだ初心はそれほど暑く感じないので、ブレザースタイルだ。放課後になり、玄関を出てすぐの木のほうへ視線を向ける。なんだ気のせいか、木の精かと思った、と誰に言うでもないダジャレを心で唱え、木の前に輝く光の粒子をまとった美少女の元へ向かう。
「お待たせ、二槍さん」
「うん、いこっか」
可憐なる少女は初心に特上の笑顔をプレゼントしてから、隣を歩きだした。いつもとは違う雰囲気を感じたので、二槍を横目で観察してみる。
三つ編みハーフアップと、背中に流れるさらさら髪がデフォルトだったのだが、今日はうなじ付近でコンパクトにまとめられていた。振り向くたびに絹糸のように流麗に揺れる黒髪がいつも綺麗だなと思っていたが、今はきめ細やかな白く美しい首が存在を主張してくる。うなじが見えるか見えないかギリギリのラインにお団子があるのがまたけしからん。
などと考えている視線は二槍には筒抜けだったようだ。
ニヤニヤ。
横から見ても分かるその見慣れたニヤケ口。それがゆっくりと初心のほうに向いてくる。古いごまかし方だが、初心は口笛を吹く真似をして明後日の方向に目を逸らす。
「ん~? なんか怪しいな~」
「うぐっ」
頬に軽く痛みが走る。横合いから伸ばされた細く美しい指が初心の頬をぐに、と挟んでいた。強制的にグイと首を捻らされ、二槍の毛穴など存在しないほどきれいなお顔が目の前に来る。
「エッチな目で見てたでしょ今~」
「ひ、ひえあいでふ」
「ふ~ん」
小悪魔的な目をしてじーっと目を見つめてくる。以前までは女子とろくに目も合わせられなかった男に対しては、強烈な毒である。初心は耐え切れずに視線を下にずらすも、前かがみになっているせいでワイシャツの奥に潜むYの字が見え、動揺してしまう。視線だけでなく体の向きごと変えようとするも、二槍に掴まれているので身動きが取れない。
「ぼ、ぼうはんべんひへよー!」
「なんていったの~?」ニヤニヤ。
顔から火が出そうになるくらいハートがズキュンズキュンしてるから勘弁してと言いつつも、初心はこの状況をしっかり楽しんでいた。こうやってちょっといじめられるのも悪くない、いやむしろいい。なんて幸せホルモンを分泌していると、「おい」ふいに声をかけられた。
二槍と一緒に振り返ると、そこには背の高い女子たちがいた。
「なにイチャコラしてんだぁ?」
「えちえちだねーお二人さん」
百八十センチは余裕でありそうな、ボーイッシュな見た目の女子と、これまた百七十センチ後半はありそうな顔の整った女子二人組が慣れ親しんだ様子で話しかけてくる。
「あ! のへ子、浦子! あれ? 今日部活休みなの?」
「まあな」
「うん、今日はなんか男バスが大学生とコート全面使って試合するみたいだから、休みになったー」
「そっか、珍しいこともあるもんだね。だってほんとに毎日練習してるもんね」
「そうなんだよ、週一くらいは休ませてほしいんだよなあ、マジで」
とかなんとか女子三人がおしゃべりしている中、初心は蚊帳の外だった。あ、この人たち、二槍さんの友達だ。名前は確か、一戸と三浦だったか。同じクラスになったことがないからうろ覚えだが、のへ子、浦子、と呼ばれていたので多分合っているだろう。
初心は入学式の日のことを思い出していた。あの日、告白した初心から二槍を引きはがすように連れて行ったのが彼女たちだった。間違いなく二人は初心の学校での告白マシンぶり、ふられ屋としての名前を知っていただろう。だから、もしかしなくても初心と二槍との関係をよくは思っていない二人だと推測できる。
「ところでさあ」
と、思っていたのだが。イケメン女子が話の矛先を初心に向けてきた。初心は一瞬目を見るが、やはり話したことのない女子しかもイケメンの目を直視するのは耐性がなく、すぐに逸らしてしまう。ガシッと豪快に肩を組んできて耳元で言われた。びくっとした。
「お前ら、もうヤッタノ?」
へ? やったって、なんだ? なにがだ? イケメンのくせに甘い女子の香りがする(そもそも女子なのだが)。鼻の穴が膨らみそうになるのを必死に我慢して、眉間にしわを寄せた。ヤッタノ、の意味を脳が考えていると、耳元で答えをくれた。
「なにがって? もちろんせっく——」
スパン、といい音がして初心の横から「いってえ」と頭をさする声が聞こえてくる。ボーイッシュ女子が振り向き初心も振り向くと、二槍が腰に手を当ててむすっとした表情をしていた。
「のへ子、初心くんに変なこと言わないで。私のなんだから」
「なんだよいいじゃねえかちょっとくらい。……ところでせっく——」
その言葉は絶対に言わせてくれないようだ。二槍は再び目にも止まらぬ速さで一戸の脳細胞を死滅させる。卓球をやっているおかげかもしれない、と初心は思った。
「いこ、初心くん」
「う、うん……」
手首を取られ、初心は二槍に引っ張られるようにして歩き出す。彼女は小さいお口を尖らせて子供のような顔をしていた。それが初心には嬉しく思えた。
一戸と三浦はすぐ後ろについてくる。二槍に話しかけたり長身同士で話したりしており、二槍も怒った様子はなく普通に楽しく会話している。どうやらさっきの一幕でけんかになったりするようなちんけな絆ではないらしい。彼女らなりのコミュニケーションだったのだろう。初心が入ることはないが、特に居心地の悪さは感じなかった。
階段を降りて歩道に出ると、イケメン女子一戸が初心と二槍の間に割って入ってきた。二人の肩に一戸の両手が置かれ、そこに頭を突っ込んできた。
「おーい、いつまで握ってんだよーこのこのー」
初心の手首から二槍の指を一本一本引きはがしていく一戸。いくら手じゃなくて手首を握られて犬が引っ張られるみたいに触れ合っていたとしても、離れてしまうのは惜しい。
「ああ……」
悪役が一戸で、理不尽に引き裂かれた恋人の役が初心と二槍。そういう場面に初心は思えた。
「二槍さーん」
「初心く~ん」
だからちょっとノリで腕を伸ばしてみると、二槍も同じようなポーズで悲しそうな顔をしてくれた。ふざけてノッてくれる二槍さんも可愛い。
「ガッハッハ。初心とかいったなあ。お前、吾輩の枕をとろうなんて、三億年早いぜ。整形してから出直しなあ」
「ひ、ひどい! って、枕ってなに⁉」
「そんな! 私は誰のものでもないはずだわ! 私が誰と仲良くしようと勝手でしょ!」
「いいや仲美。お前は吾輩のもんだ。吾輩の膝枕係はお前しかおらん」
「いいや、われ一人のものだ。仲美はわれの忠実なる下僕よ。他のものにお触りさせるわけにはいかん」
一戸だけじゃなく、三浦まで参加してきた。
初心がそういう場面に見えたと三人が気づいたのか、いきなり変な寸劇が始まって、すぐに終わった。なんだかわからないが、三人の息はぴったりに感じた。
初心の肩が震える。掴んでいた一戸がプルプルと笑いをこらえているからだった。やがて三浦が吹き出し、二槍がガハガハと笑いだした。その笑い方につられてか、一戸も手を叩いて笑い始めた。歩きながら笑い声を家々に響かせた。
「いやー、懐かしいノリだなあ」
「ほんとね、あ~、笑った」
「この感じ、久々だわー」
初心の周りを囲う三人のJKには懐かしいことだったらしい。中学のころはこうしてよく三人でつるんで笑っていたのだろうか。自分のことは棚に置いといて、二槍に親しい友人、共に腹の底から笑える友人がいたことに、初心はほっこりした。こんな一面も変わらず可愛いな。
いつもの一本道にさしかかると、「腹減った」と一戸がおなかをさすった。すぐそこにいつもはスルーするコンビニがあったので、四人で入った。
自動ドアが開くと、一戸と三浦が先に奥に走っていった。おそらく運動部の二人はいつもこのお店を使っているのだろう。二槍はその後に続き、初心は最後尾だった。
「らっしゃっせぇ」
温かいから揚げやポテト、おにぎりなどが置いてあるショーケースの前でウキウキしている二人の元へ行こうとしたとき、レジにつっ立っていた大柄な男性店員がぶっきらぼうな声を出した。夕方シフトに入っているから、大学生だろうか。ダンディではなく威圧的な低い声だったので初心は一瞬びくっとした。そして、隣でもっとびっくりしている女の子がいた。二槍が初心の腕を抱くように体を密着させてきていた。小刻みに震え、顔は俯いていた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「……」
そんなに驚くことなのか、いや、この様子はなんか変だ、と感じた初心は長身コンビを店に残したまま外に出た。
広いわりにあまり車が止まっていない駐車場で二人を待っている間、二槍はずっと初心の腕を掴んで離さなかった。二分後くらいにレジ袋を提げて出てきた二人はがさがさと音を立ててから揚げとポテトを袋から出し、蓋を開けて食べ始めた。
心配、じゃないんだろうか……。
気づいていないわけではなかった。がつがつと食べる二人は二槍のことを冷静な目で見ていた。
「仲美、お前、まだそれ治ってなかったのか」
「それなー、うちらもすっかり油断してたよ。あんまりいないしね、ああいう声質の人」
「その、二人はなんか知ってるの?」
大丈夫か、の一言もないというのは少し親友にしてはおかしいとは思ったが、なにか事情があるのかもしれない。まずは聞いてみようと思った。
「お前、初めてか」
「まあ、昔からああいう怖めな声が苦手ってだけだよ」
「うちの男バスの先生の声なんか聞いた日には、気絶するかもな」
から揚げの肉をむさぼる一戸の軽い言葉遣いから察するに、大したことはない、いつもの反応、ということだと感じた。
「でもさ……」
と言いかけたところで、俯いていた二槍が腕から手を離し、笑って初心の肩を軽く叩いた。
「もう大丈夫! 心配かけてごめんね?」
「え……」
「からあげも~らいっ!」
「お、おい!」
「ポテトもハンティング!」
「あ、一番カリカリのやつ……」
いつもの陽気な雰囲気を纏った二槍は一戸と三浦からおやつを強奪し、美味しそうにもぐもぐし始めた。まるでさっきまでの悄然さが見間違いであったかのように。初心には空元気にしか見えなかったが、一戸と三浦がなにも言わないで笑ってじゃれているのを見て、言うのは野暮だなと思ってやめておいた。
その後一戸三浦を先頭に歩いて帰っていると、隣から二槍が手を握ってきた。念願叶った! という気持ちにならなかったのは残念だったが、安心させるようにしっかりと握り返す。
「無理しなくていいよ」
「うん。ありがと」
かすかに震える指の感触は、初心に『守ってあげないと』という気持ちを芽生えさせた。
四人は一本道の終盤、手押し信号の前にたどり着いた。三浦がボタンを押すと、横から知らないJKあるいはJCが走ってきた。笑顔で手を振っている。
「いっちーさんみっちーさんお久で~す!」
「透花じゃん、久しぶりぃ!」
「わー、とーかっちじゃーん、めちゃ久しぶりだねー」
繋いでいた二槍の手が一瞬強く握られたと思った次の瞬間には、もう初心の手はなにも掴んでいなかった。二槍は「よっ」と手を挙げて、透花と呼ばれるこれまた可愛い子に挨拶した。
信号を渡った後、歩きながら少女は自己紹介してきた。
「初めまして、えっと~」
「初心正直です」
「初心さん、私、仲美姉ちゃんの妹の、透花っていいます! 中学三年生です! よろしくお願いしますっ!」
「え、妹さん⁉ いたんだ、知らなかった」
フレンドリーなのか握手を求めてくるので応じた。
「あ、よろしくね。……って、やっぱ似てるね、可愛いところが」
握手したことで近づいた顔面の偏差値がやはり高く、優秀な遺伝子だなあと感心してしまう。二槍と透花の顔を交互に見る。似てると言ったが、パーツ自体は似ていないかもしれない。ただ雰囲気というか、なにか似ているものを感じる。両親ともに美形なのかよ、とちょっと羨ましくなったりする。
と素直に感心して褒めたつもりだったのだが、なぜか誰も会話を続けようとしない変な間が空いた。
「ね、二槍さん?」
「そう……だね」
ん? なんだこの空気は、と勝手に両の眉毛が近づいてしまう。だがそれも束の間、二槍はにっこりと笑って、
「自慢の妹なんだ!」
そう言って場の空気を柔らかくした。透花も波に乗るように、二槍とは違うが可愛らしい笑みを浮かべた。
「うん、ありがとう初心さん。お姉ちゃんに似てるなんて今まで言われたことなかったから。最高の誉め言葉をもらっちゃった!」
えへへ、とわざととわかるように頭の後ろを掻いていた。そんな仕草も可愛い、ええ子やなあ。
久しぶりに会ったという一戸と三浦と透花は三人で仲良く話している。その後ろを初心と二槍は耳を傾けながら歩いていた。もうすぐ二槍の家につくというところで、二槍が沈んだ声で、
「ねえ初心くん。似てるかな、私たちって」
伏し目がちに言った。初心は思ったことをそのまま口にする。
「顔のパーツは似てないかも。でも、なんか雰囲気というか空気感とかが姉妹だなって思ったよ。二人とも美形だし」
「……ないよ」
「え?」
「……似てない。私とあの子は似てない」
怒りも混じっているように感じたその声音にちょっと驚き、二槍の横顔を見た。
「全然似てないよ」
なんと返せばいいのかわからず、初心は黙ってしまった。なんなんだろう、今日の二槍さん。なんかいつもと違う気がする。
普段とは違う一面を一日に二回も見てしまったせいで不審さが残る中、二槍の家の前にたどり着いた。表札には『二槍』ではなく『殻石』と書かれている。
じゃーね、と言って玄関を開けた二槍の前を、透花が手のひらをJCらしく振り、笑顔を添えながら通っていった。二槍もまた笑顔を向けて家に入っていった。
橙色に染まったアスファルトに、三人の影が長く伸びていた。初心はなぜか一戸と三浦に挟まれる形で歩いているため、地面に映った影を見ると初心が二人の子供のような錯覚に陥った。両手を繋げば完全に三人家族の出来上がりだ。
二槍と別れた後も帰り道は同じなようで、三人は今ちょっとした坂道を登っていた。初心がさっき感じた変な感じの正体を突き止めようと、二人に質問した。一戸が逡巡したが、三浦が「いいんじゃない?」と言った。
「実はな、仲美の親はだいぶ前に死んでるんだ。で、あいつは親戚に引き取られた。それが今のあいつの家なんだ」
「え、そ、そうなんだ……」
そんな事情があったなんて、全然知らなかった。親が亡くなって、親戚に、か……。大変なこともあっただろう。
と、初心は閃く。だから表札が違ったのか。
しかし、最初に二槍の家に自転車二人乗りで行ったときは、別のことを言っていたような気がする。
「あれでも、僕には両親が離婚して、私だけ名字を変えなかったんだって言ってたけど」
「それは嘘だよー。うちらも最初のうちは同じようなこと言われたよ。ね、のへ子?」
「うん。でもま、仲良くなってって、やっぱそれ変だよなって思って問い詰めたら、本当のことを言ってくれた。どういう理由で隠してたのかは知らないけど、あんまり深くは聞いてない。誰にだって触れられたくないことの一つや二つくらいあるだろ?」
「そそ。別に家族と仲悪いわけでもなさそうだし、なにかトラブルがあるようには見えないしね。友達だからこそ変に詮索しないのさ」
話を聞いた初心は、少し納得した。今まで感じていたちょっとしたはてなは、二槍の表には出さない事情があったからなのだと。
でもさっきの『似てないよ……』はどういうことなんだろう。怒っているように感じたが、気のせいだったのだろうか。
「にしても、初心のどこがいいんだかな」
「なー」
一戸が坂の上のほうをぼんやり眺めながら呟き、三浦も同意するように言った。
「男の前で、うちらといるときと同じ笑い方する仲美は初めて見たぜ」
「うん、そうだね。いつも猫被ってるからなーあいつ」
そうなのか。まあ言われてみれば最初会った時も小春と会った時も家族と会った時も、おしとやかモードだったかもしれない。一戸が続ける。
「歴代の彼氏の前では愛想笑いってか天使のほほ笑みみたいな笑い方しかしなかったからな。それが初心の前では自然に出る笑みだった気がする。意外だよなあ」
「ずいぶん信頼も寄せられてたようだし?」
「信頼?」
三浦が整った顔を傾けて覗いてくる。信頼されるようなこと、あったっけ。
「ああ、さっきのコンビニでのことか」
一戸が初心の腕にしがみついてくる。初心より頭一つ分くらい高い位置から体重をかけられるので、ちょっとよろけた。
「こんなふうに、初心くん、私を守って……ってね」ガハガハ。
「ちょ、ちょっとやめてよ……」
「信頼を通り越してー、もう好き、みたいな感じだよねー」
「え! そんなあっ! ……え、やっぱそう思う?」
二槍の親友である三浦まで言うんだから、やっぱり二槍は初心のことを好いてくれているのだろうか。祖父にもそう言われたので、ついやっぱりとつけてしまった。自意識過剰だと思われはしないか。
「なんだ初心この、なにがやっぱりだぁ! 調子乗んなおい」
「いててて」
腕から離れた一戸が今度はぐりぐりとこめかみにダメージを与えてくる。これ初めてやられたかも、しかもいい匂いのするイケメン女子から。と少し嬉しくなっていたが、ちゃんと痛かった。
「でもまあ」一戸がぐりぐりをやめて肩を組んでくる。「ありゃもうだいぶ好きになってるな。お前を見る目に好きって書いてあったもんな」
「うんうん。でもこれでまだ友達だって言い張ってるんだからね、仲美」
「そうなんだよなあ……」
親友二人から見ても、どうやら二槍は初心のことを好きになっている風に見えるらしい。それが恋人としての好きなのか面白い友達として好きなのかはわからないが、どっちにしたってお墨付きをもらった気分だった。
坂の終わりが近づいてきた。一戸が言った。
「初心、お前はこれからも苦労するだろうよ。あいつ、自分から好きって言ったことないらしいから」
「えええっ⁉」
「そうそう、素直になれないのかプライドが高いのかは知らないけどね。彼氏作るたびにうちら聞くんだけど、絶対相手から告られて始まるらしいし、その後好きになったことなかったんだってー」
好きと自分から言ったことがないし、付き合ってからも相手を好きになったことがない? マジかよ二槍さん。いきなり難易度が爆上がりした気分になっちゃうじゃないか。
道は長そうだな。初心は、はあ、とため息をついた。
「なんだおい、ストレス溜まってんのか、疲れてんのか? ならうちすぐそこだからよ、一発抜いてやろうか?」
「な……!」
「コラッ! のへ子、親友のダチをあんまりからかうもんじゃないよ。……初心くん、私も一緒に行って、三人でしようか」
一戸がニタニタしながら吐いたセリフに赤面しているところに、三浦が助けてくれた——と思ったら可愛い顔で屈んで上目遣いしてきた。もちろん悪魔的な笑顔で。初心の顔は一気に赤くなる。
冗談だと分かっていてもイケメンと可愛子ちゃんから誘惑されると顔から火が出そうになってしまう。初心は自分のウブさに少し腹を立てながら、火照った耳を押さえて叫ぶ。
「もうっ!」
その後初心は二人とニャインを交換し、一戸と三浦は左に、初心は右に別れることになった。
「今日、一緒に帰ってくれてありがとう! 楽しかったよ!」
離れていく二人のちょっぴり大きめの背中に向かって大きな声をかける。
二人は整った顔を首だけ動かして振り返り、同時にプッと吹き出した。
「初心お前いい奴かよー! じゃーな童貞!」
「今度遊ぼうねー」
一戸が男勝りな発言をし、三浦が抑揚のない声でゆっくりと手をひらひらさせる。
うん、と頷いて大きく手を振ると、二人も長い腕をワイパーのように振り返してくれた。短時間だが、仲良くなれた実感があった。天使である二槍の友達もまた、いい人たちであった。
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