第13話

「ぐっ…死神のバーゲン会場かよ、ここは」

口中に広がる鉄の味に顔を顰めながら吐き捨てるように呟いた。


赤く燃え盛るような色のオールバックに整えられた髪は彼の性格を表しているようだった。

蛇のようにギラついた瞳に、彫りの深い顔、純白の使い古された鎧を身につけるこの男は、帝国第三騎士団団長マーク。


(クソ野郎が、ただのダンジョン研修とはいえ、皇女の護衛がたった4人なんて

おかしいと思ったんだ。しかしそういうことか。議会はたまた他の継承権を持つ姫の兄弟たちに一杯食わされたなこりゃ)


「大丈夫ですか。マーク」

後ろから聞こえる悲痛な叫び。 


ダンジョンに咲く一輪の花。

彫像のように端正な顔立ちの金髪の少女。

アレン帝国第3皇女 エミリー・セーヴェナー・アレン。


森の泉のように透き通った濃緑色の瞳に涙を溜めながら、彼の隣に駆け出し、寄り添いたい気持ちをグッと堪えて、戦闘の行く末を見守る覚悟を決めた。


「エミリー皇女殿下、隠れていてください。

皇女様を死なせちゃ、向こうで先に行って待ってるジルベルトのやろうに顔向けできませんからね」


先刻、命を落とした部下の顔を脳裏に浮かべながら騎士は決意を胸に、眼前の敵を睨みつけた。


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今回のダンジョン研修のエミリーの護衛は元A級探索者で現アレン帝国第三騎士団団長マークとジルベルトと他2人、の計4人。


ダンジョンクェイクが起こってから姫たちはエレベーター前で救助を待っていた。 


先ほどまで動いていたエレベーターが急に動かなくなった事から階層ごと変化が起こっている事は明白だった。

姫を伴って何層かも分からない場所を探索するのは危険なので、ジルベルトとマークの救助待ち兼護衛班と他2人の探索班に分かれた。


エレベーター前は大きな四角い空間になっていて

エレベーターの向かいにこの空間への入り口があり、縦横5m程の入り口には探索にでた2人が立っていた。姫への忠義ではなく敵意を持って。


探索班の叫び声を聞いたジルベルトはマークの静止を無視して、

声の方に向かったのだが、変わり果てた姿で戻ってきた。


「ふぅ〜ジルベルトさんは警戒心が足りませんでしたね。貴方と違って。安心してください。

マークさん。貴方を送ったあとすぐにそこの姫も送ってあげますから」

男は剣についた血を払いながら戯けるように口にした。


「させるかよ。【付与:炎 対象:レイピア】」エンチャント


「感謝して欲しいですね。ジルベルトさんのように解放させてあげるんですから。【付与:雷 対象:剣】エンチャント


「くそやろうめ、解放解放うるせーんだよ。【加速】ルナテ

怒気を含んだ声をあげながら距離を詰めるマーク。


炎と雷が辺り一体を支配する。

お互いを侵食せんと激しくぶつかり合った。


いくつかの攻防の末、マークが放った一撃は敵の頭を貫いた。

同時に

背後に回ったもう1人の敵のレイピアはマークの胸を貫いた。


「やったか」

確かな手応えを感じ背後の男は呟いた。


「知らねぇのか?そういうのフラグって言うんだぜ」

心臓を貫かれて死にかけの男から放たれた言葉とは思えないほど精気に満ち溢れた返答に驚愕する男。


驚いたのも数秒。

すぐに冷静になりレイピアを抜き次の行動に出ようとしたが「おせぇよ」

その言葉を耳にした瞬間男の命は刈り取られた。


「マーク!!大丈夫ですか!」

涙に濡れた顔を手で拭いながら駆け寄る皇女。


「へへへ。内臓をずらすくらい朝飯前ですぜ」

執拗に背後を狙ってきていたもう1人の男の思惑に気づいていたマークはそれを利用してみせた。


「よかった。本当によかった。貴方までいなくなったら私は「姫、下がって!!!」」

マークは咄嗟に叫び、入り口から距離をとった。


「ん〜やっぱり彼らはただのモブだったね〜やつらはモブである名前すらない。なんてね。あの本読んだことあるかい?」


そう言って入り口の手前に現れたのは白い服を見に纏った黒い仮面の男。

圧倒的なオーラを放ちどす黒い瘴気を撒き散らす男の姿にマークは思わず恐怖を覚えた。


それを隠すように、

「死神さんも忙しいこって、そろそろ有給でも取ったらいいのに。ブラックなのか死神だけに」

おどけてみせた。


「それは僕の仮面ともかけてるのかな?

ハハハ。あいにく冥土への案内切符は持ってなくてね。ただ魂は解放してあげるけど、どうする?」


「新興宗教の誘いは断るようにしていてね、可愛いねーちゃんだったら話くらい聞くけどな」


「そうか。それは残念だよ。では強制的に徴収するとしようか」


「脱税のいわれはないんだけどな」


「その無駄口がいつまで続くか、見ものだね」


より大きくなる男のオーラと深まっていく瘴気。

ただでさえ暗いこの空間が闇に染まっていった。

姫と騎士2人の運命を表すかのように。

そこにはただ暗闇が広がっていた。

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