第5話
雲の中を泳ぐような感覚だった。
ポカポカのお日様の温もりだった。
大きく逞しいあの人の掌の優しさだった。
懐かしく愛おしい、そして忘れたい過去の感情だったのかもしれない。
『み……、…の…、……り、みの…、みのり!』
「ふぁい!!!!」
誰かに呼ばれて意識が覚醒したと思いきや周りを見ても誰もいなかった。
ふと冷たさを感じ頬を拭うと優しさに濡れていた気がした。
とても大切な事だった気がするし、忘れてはいけない夢だった気もする、複雑な感情が胸中に浮かんでは消えていった。
「ヘルハウンドは…」
最後に見た捕食者の顔思い出し身震いしたが、次に浮かんできた母のような安心感に恐怖は打ち消された。
「私の傷治ってる?あれそういえば配信どうなったんだっけ?」
次々に浮かぶ疑問によって複雑な感情は笹舟のように流されていった。
辺りを見回してもヘルハウンドの気配は無く何が起こった理解できなかったが、次の瞬間息を呑んだ。
暴虐の跡、力の奔流の痕跡がそこにあった。
ヘルハウンドの大きさ分の穴が地面と天井に空いていた。
「どんな魔法を使ったらこんな事になるの…誰かが助けてくれたのかな。けどその人はどこに?」
天井の穴からは上に行けるだろうし地面の穴からは下に降りられるみたいだ。
ポケットに入っていたスマホはバキバキに割れていて配信は途中で途切れてしまった事が分かった。
「配信…アーカイブ…あっ視聴者さんなら何か分かるかも、エレベーターの所に置きっぱだったバックから予備のスマホ持っていって配信を再開しよっ」
バックはそのまま置いてあった。
エレベーターはダンジョンクェイクの衝撃で止まったあの時のままだった。
エレベーター内の緊急通話ボタンの存在を思い出し、押してみたけど反応は無く、手当たり次第に他の階数のボタンを押したが同じく反応は無かった。
反応するのは開閉ボタンだけらしい。
「やっほ〜みのみのだよっ!皆んな元気?ちょっと現実世界からログアウトしてたのかな…多分」
〈!?!?〉
〈気絶ってことかな?〉
〈生きてた、良かった〉
〈ヘルハウンドは?どうなった?〉
〈倒した?逃げれた?〉
〈3時間も…心配かけやがって〉
〈みのみのみのみのみの〉
途切れたのは3時間前…2-3時間ダンジョンで結界も張らずに1人で気絶していたんだ私…
「心配かけてごめんね〜元気いっぱいだから大丈夫。ヘルハウンドは他の探索者の人が倒してくれたみたい!気づいたらいなかったけど、てかさこんな美少女を放置するなんてまったく…まぁ照れ屋さんだったのかな?」
明るく現場報告をし、温かいコメント欄になごんだ。自己肯定感満たされる〜
(うん、私もっとチヤホヤされたい!)
桜坂みのりは少しズレていた。
「よしっ。じゃあ探索の続き行ってみよう!!おぉ〜〜!美少女の冒険譚はまだまだ続くよぉ〜」
〈なんかこの配信者…その頭大丈夫か??〉
〈気になる事ありすぎるけど可愛いからなんでもいいよ〉
〈可愛いからOKですみの〉
〈ヘルハウンド倒した探索者だれだよ、そこ気になるだろ〉
〈最近掲示板で騒がれてるあいつでは?〉
〈あぁ〜〉
〈あいつって?〉
〈プレイヤー名Unknown 突然現れたやつで高ランクのモンスターを刀一本で切りまくってるやつ、配信は一人称設定だから顔がわからん、この子みたいに三人称じゃないから〉
〈ふ〜ん、そいつもクェイクに巻き込まれてるってことか、案外この子に負けず劣らずの美少女だったりしてな〉
〈まっさかぁ〜〉
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