第4話

C級の探索者とA級の捕食者

隔絶たる実力差があるのは明白だ。


理解はしている。

だが黙って食べられるつもりはもう無かった。

生を諦めるつもりは無かった。


「やってやろうじゃない。万バズかましてやるっつーの」

歯を食いしばり犬歯を見せながら獰猛に笑う。


【身体能力向上】ライズ【魔力鎧】アーマー【五感強化】センス

みのりは流れるように自己強化魔法をかけて、相手の出方に注目した。


互いに睨み合い。

両者の距離はジリジリと近づいて行く。


ヘルハウンドは跳ねるように飛び上がり

風魔法を纏った前足の爪で風の斬撃を飛ばす。


あまりの速さに寸前になってかわすが頬に少し掠ってしまった。

背後の壁には爪型の跡がつく。

避けるのがあと少し遅ければ三等分にされていただろう。


A級との戦いでは一瞬の油断や少しの迷いも許されない。常に最適解を選択しないと命を落とすことになる。


「これがA級か。ひりつくねお肌に悪そ。今度はこっちの番」


私だって風の魔法は得意だ。A級に通用するか分からないが出来ることをやるだけだね。

魔力を指先に集中させる。指先に風の魔力が集まっていく。


「風魔法には風魔法!【風斬】ウィンディア【風斬】ウィンディア【風斬】ウィンディア


お返しに風の斬撃を3連続でお見舞いするが巧みなステップで縦横無尽にかけるヘルハウンドに簡単に避けられてしまった。


勢いのまま風切り音と共に

ヘルハウンドが加速して突っ込んでくる。


「ぐっ!!!」

腹部に鈍痛を感じると同時に弾かれるように後ろの壁へと吹き飛ばされるみのり。


【小回復】キュア


回復魔法をかけて少しはマシになったが、少しふらつく。


「くやしぃ〜【風斬】ウィンディアが1番自信あったんだけどな…遠距離でだめならこうだっ!」


右足に魔力を込めて踏ん張り

「よしっ。いっくよっ!!」

砲丸のように加速して跳躍し距離を詰め、ヘルハウンドの横腹に飛び蹴りを入れる。


「ぐぁっ」

鋼鉄のようなヘルハウンドの腹部に耐えきれなかったのか、みのりの足の骨が砕けてしまった。


相手が格下だと理解したヘルハウンド。


格付けは終わった。

ここからの戦闘は一方的なものだった。


ヘルハウンド特有の速さに翻弄されるみのり。


四方からくる風魔法の引っ掻き、突進、火球、噛みつき、致命傷はなんとか防いだが衣服は破れ

肌は血が滲み髪は焼け焦げ、

ボロボロにされていた。


肩で息をする。

呼吸が速い。

視界が滲む。

思考が霞む。

死の足跡がする。

満身創痍だ。


意識が暗闇に沈んでいく。


捕食者は一歩、また一歩と涎を垂らしながら

獲物に近づく、人の血を、肉を、内臓を、脳髄を、一度味わったら覚えてしまったら、

病みつきになるあの味を

想像しながらゆっくりと進んで行く。


獲物は血の海に沈んでいる。

あとはもう貪り食うだけ。


それだけのハズだった。


辺り一面にまばゆい光が広がった。

『うわぁすっごい血だしめちゃくちゃ痛い!

なにこれ!あの子弱いのに無茶しすぎだよ〜』


突然ゆらりと立ち上がり先ほどと変わった雰囲気の獲物に野生の本能からとっさに飛びのくヘルハウンド。


矮小な人間。ただの餌としか思っていなかった。しかし今、捕食者は恐怖していた。それは本能からの警鐘なのか、あるいは…


『ふ〜ん、犬コロ如きが、私の大切、宝物に手を出してどうなるか分かっているのかしらね?』

口元は笑っているが目は怒りに燃えていた。


刺すような視線を感じ、

得体の知れない恐怖に満たされたヘルハウンドは逃げ出したかったが、身体がいうことを聞かなかった。

風を切り裂く自慢の四足が鉛のようで動けなかった。


『身の程を知りなさい。【断罪の光】ディカスティース


ヘルハウンドの足元に幾何学模様の魔法陣が出現し天地を切り裂く光の奔流が迸った。





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