第3話
「うわ〜未踏破の階層ってこんな感じなんだね。とりあえず暗いから。
光魔法で照らし探索を開始する。
ゴツゴツとした道はとても歩きづらく魔法で照らせる視界もたかがしれている。
光の先は暗闇。
その先にあるのは罠、壁、道、獣、宝箱、
など何が待っているか分からない。
普通の学生なら怯えているかもしれない。
そもそもエレベーターで助けを待って縮こまっているのが普通かもしれない。
ただ桜坂みのりは少しズレていた。
好奇心に胸を躍らせ恐怖心を飼い慣らしインフルエンサーになるという欲望に駆られ探索を心の底から楽しんでいた。
ぬめっとした空気、歩きにくい地形、あたりに広がる闇、全てが新鮮で楽しかった。
ただの探索者であるうちは、
そうここはダンジョン。
探索者がいれば捕食者もいる。
闇の先に待つ悪意はじっと彼女を見つめていた。双眸に宿るのは食欲。血が肉が形をなして歩いている。捕食者にはただそう見えた。
「うわー視聴者さん50人こえた〜
やっほ〜みのみのです。
ここはどうやら新層みたいですね!」
〈え?クェイク配信してんじゃん〉
〈初見です〜〉
〈みのみのみの〉
〈女の子1人じゃん、大丈夫?〉
〈みのっち!久しぶり〜〉
コメントがどんどん脳内に流れていく。
少し変な感じがするが意識しようと思えば見れるし、思考から外せば見えないように出来る。
「探索者としての使命に駆られワタクシみのみのが新・帝都ダンジョンを解明し」
瞬間
暗闇の中で魔法陣が光った。
理解した同時に飛来するのは
人を燃やし尽くすのに十分な威力と大きさの火球。
超高温に熱された悪意の塊が死を運ぶ。
「ひゃっ
現れた水の壁が火球の威力を殺し間一髪防ぎ切る。
突然の出来事に心拍数が上がる。
本能が警鐘を鳴らす。
闇から這い出てきたのは漆黒の獣。
みのりの身長の2倍はある大型の捕食者。
獣の双眸と口だけは真っ赤に染まっていた。
あまりに醜悪な姿に一瞬吐き気を覚えるみのり、何せ、漆黒の悪意の塊は、口から人間の手を生やしていた。否、咥えていた。
とろりとろりと垂れるのは涎か血液か。
「グチャッゴグゥゥゥウゴゥゥゥウ」
聞こえてくるのは生々しい肉を喰らう咀嚼音と地獄から響く低い唸り声。
映像や本で見た存在が目の前にいる。
威圧感で肌がひりつく。
夢だと、現実ではないと否定したかったが。
目が耳が鼻が感覚が否定をつげる。
「うっ、ヘルハウンド…50層より下にしか生息しないA級モンスターがなんでここに」
〈うわっまって〉
〈ヘルハウンド…A級じゃん〉
〈くっそ速いやつじゃん〉
〈みのりちゃん1人なの!?!?〉
〈みのみのみのみのみの〉
〈みのみの連呼信者ちょっとうるさい〉
〈パーティ単位で挑むやつやぞ〉
みのりは探索者養成学校に通っていると同時に探索者ギルドにも所属している。
ランクはC級。
経験があるとしてもモンスターは同程度のC級まで。
現実を理解した。
死を背中に感じる。
目の前にいるのが敵だと、
生を掴めと声が聞こえる気がする。
ここはダンジョン。
探索者と捕食者の世界。
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