第4話 晩酌

 (外は本格的に、雨が降ってきた)


 「ゼェ、はぁ......はぁ......はぁ......ふぅ、な、なんとか濡れずに済んだね......。あぁ〜、大分体力落ちたなぁ、高校で吹奏楽やってた時は、走り込みとかやってたから、このくらいなんともなかったのに......」


 (あなたは追いつくのがやっとだったので、まだ十分だと感心する)


 「ふぅ......さあ!気を取り直して、晩酌、晩酌ぅ〜!最初何飲む?ビール?じゃあコレと、あとコレ持っていって待っててね。あ、抜け駆けはダメだからね!」


 (あなたにロング缶のビールを2本渡す)


 「とりあえず、残りの飲み物は冷蔵庫に入れとくね」


 (飲み物を冷蔵庫にしまった美優が、エコバック片手にルンルンとこちらに向かってくる)


 「なんかね、嬉しくなっちゃって、色々買っちゃった。夜のコンビニって恐ろしいねぇ〜。まず、ポテチくんクレイジーコンソメ味でしょ、それからチータラ、生ハム.......そして、はい!これ!『わさび香る、漬けマグロたたきおにぎり』!」

 

 (ソファー前のローテーブルの上に、汗をかく缶ビールが2本。そしてお菓子やツマミが並べられる)


 「じゃあ、お待たせしました、乾杯!お疲れ様〜ッ」


 (プシュッと小気味いい音のあと、缶と缶を合わせる)


 「ん......ん......ん......ぷハァーーッ!あ゛ァ〜美味しい!ビール最高!やっぱり最初は、ビールよねぇ〜」


 (ちょっとオジサン臭いと言うあなた)


 「え、今“オジサンみたい“って言った?ちょっと!こら!24歳のうら若き人妻に向かって、“おじさんみたい”って......怒るよ」


 (すまん、すまんと謝るあなた)


 「どぉ〜しよっかなぁ.......ビールの美味しさに免じて許してあげぇ〜......る!なーんちゃって!それよりもさ、これ食べてみ?絶対、美味しいから、飛ぶぞぉ〜」


 (早速、おにぎりを勧められるあなた)


 「どう?美味しいでしょ?」


 (食べた途端に広がる、ワサビの刺激に悶絶するあなた)


 「え!嘘〜!そんなに!?ちょっと、大丈夫?思いっきり、ワサビのダメージもらってるし!ほら、早くビールで流し込んで!あぁ〜、でもめっちゃウケる〜!」


 (笑いどころじゃないと怒るあなた)


 「ごめん、ごめん。でもさっきのお返し。このさ、ツーンときた後の漬けマグロがたまんないよね〜。そう思うでしょ?」


 (イタズラっぽい表情を浮かべながら同意を求めてくる美優)

 (少し悔しいが、確かにその通りだと答えるあなた)


 「でしょでしょ!最初食べた時、あなたも好きな味かなー思ったもん。そうだ、私もたーべちゃお!」


 (おにぎりを手に取り、パッケージを外すと一目散にかぶりつく)


 「うーん、キタキタキター!そこですかさずビールを......!ん......ん......ぷヘェーッ!美味い!職場じゃできないこの組み合わせ、最高!そしてビールを......ってアレ?もう空っぽ。ねぇ、私もう一本飲むけど、いる?」


 (あなたは缶を横に振って、内容量を確かめると、もう一本持ってきてと頼む)


 「うん、わかった。ちょっと待っててね♪」


 (他に何を買ってきたのかなと、エコバックの中を物色するあなた)


 (明日の朝食用の食パンと、小さな紙袋の中に入った『0.01』と書かれたパッケージの赤箱コンドームが出てくる)


 「お待たせ〜......って、あぁ!そ、それは!あの......エト......、うぅ〜......そ、そう!もうそろそろ、無くなるんじゃないかなぁと思って、買っといただけ!ほ、本当だよ!うぅ〜もう!えい!」


 (苦し紛れに、冷えたビールをあなたの頬に押し付けてくる)


 「......」


(なんだかお互い恥ずかしくなって、無言になる)


 「......えっと、あの......テ、テレビをつけてもよろしいでしょうか?」


 (なぜか、途端に丁寧語になる美優。あなたも誤魔化すように机の上のリモコンを渡す)


 「ありがと。なんか面白いのやってないかな......うーん、クイズバラエティか、歌番組ばかり......仕方ない、録画してたドラマでも、見ようっと」


 (リモコンを操作し終えると、ようやくプルトップを開ける美優)


 「このドラマ、知ってる?『中年独身、パパになる』」


 (首を横にふるあなた。どんな話なの?と尋ねる)


 「なんかね、子育てモノ。スーパーの店長の冴えないおじさんが、パートのシングルマザーと同棲して、一緒に子育てする話」


(ドラマを見ながら、チータラをつまみ、チビチビとビールを飲む美優とあなた)


 「やっぱり、南川ちはるは、美人だな〜。ママ役もすごく似合ってるし......はぁ、女優さんって、何食べたらああなるんだろ?憧れるなぁ〜」


 (ポテチををつまみながら、ビールを飲む美優)


 (『そんな感じじゃ、無理なんじゃない』と心の中で思うも、グッと我慢して美優を見つめるあなた)


 「ねぇ、......今、すごく失礼なこと思ってない?」


 (勘づかれたかと、ドキリとするあなた)


 「......まあ、そうよね。きっと南川ちはるは、晩酌してポテチ片手に、ビールなんか飲まないだろうし。そう思うと、私女優じゃなくて良かった〜って思う。......あっ、見て!赤ちゃん!可愛い〜」


 (TVの中で、赤ん坊がママ役の南川ちはるの顔を見ながらニコニコ笑っている)


 「そういえば、私の先輩、看護師ナースの広澤さんが、来週から産休に入るんだけど、なんか、とっても幸せそうな顔してたんだ〜。すごいよね、今度3人目だって」


 (またグビッとビールを飲んで、一息つく美優)


 「ふぅ......いいよね、兄弟がいるって。私一人っ子だから、昔、お兄ちゃんやお姉ちゃん、弟や妹がいる人が、羨ましかったんだよね......。ねぇ......その、子どもは何人欲しい?」


 (息子と娘と1人ずつ欲しいと答えるあなた)


 「男の子と女の子、1人ずつか。いいねぇ〜賑やかで楽しそう!」


(息子や娘がいる想像をしてみるあなた。確かに賑やかそうだとうなづく)


 「......早くほしいな、私たちの......赤ちゃん」


 (ドラマに釘付けだったあなたは、美優に聞き返す)


 「ふぇ!?な、なんでもない!なんでもないよ!只の......独り言......そう、独り言!」


 (顔を真っ赤にした美優は、残っていたビールを一気に飲み干し、チータラを食べて誤魔化した)


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る