二 虚飾

『未来を安定した世界へ導こうとする者は排他され、その存在は公表されない。

 独りよがりなまやかしに浸り、全てが平等だと思う者たちにとって、都会の黄昏を闊歩する者たちの蝕まれた姿や、高層建築の夕映えが、どれほど優美に官能的に映るだろう。際だつのは刃物のような危険極まりない自己を鼓舞する者ばかりで、社会を内部から食い荒す存在に誰も気づこうとしない。


 仮に幻の反映と虚飾に満ちた管理社会に気づき、為政者が何を意図して社会を何処へ導くか気づいても、どうすれば幻の反映と虚飾をかなぐり捨てて真実を見れるか、誰も理解できない。気づいた者も社会の申し子であり、外部から客観的に社会を観察できるように育成されていない。


 我々の欲望を満たすため、経済はあらぬ必要性を説いて新たな製品を生産し、必要以上に所有させて管理の必要性を生み、廃棄物と廃棄手段とその手続きを生む。幻の反映と虚飾に満ちた社会は廃棄物にあふれた大地を産み、社会を破壊する階層社会にむかってアポトーシスの如く進む。

 埋蔵資源によって作られた廃棄物は環境を汚染破壊し、惑星ダイナス(ダイナス王国の母星、後にデロス帝国の母星となる)は有史前の原始惑星へ変遷する。惑星ダイナスが膨大な時をかけて地下に封印した物質を変化させ、無防備に地表へ曝けだしたためだ。

 確かにこれらは経済という欲望を除いた場合に成立する正論だ・・・』


 そう話しながら、ダイナス一世は、高層階の特殊強化ガラスで囲まれた部屋で、部屋の中央に居るダリウスに背を向けたまま窓の外を眺めている。


『元老院と平民貴族院も、かつてのダイナス王国(デロス星系惑星ダイナスを母星とするラプトの王国)の馬鹿な経済学者や政治家の二の舞いをする気か?

 現状分析しかできず、未来予測も本質的な欲も見抜けなかった過去の経済学者が、いかに間抜けだったか考えてみるがいい!

 ダイナス王国立法議会の元老院と平民貴族院は、経費を無駄食いする政府組織を変える基本的な事も考えず、デロス星系の反乱分子であるディノス制圧に軍事侵攻を優先するように法律を変え、挙げ句が軍事経費がかからぬとほざいて、デロス星系の他惑星に軍需産業拠点を移し、開発生産技術という国家財産を他種族のディノスに売り渡したばかりでなく、自国民のラプトの減少を理由に、他種族のディノス難民の若い世代を移民として受入れて優遇し、自国民のラプトの貧困種を助けもせず、天災被害を受けた自国民のラプトを見捨てた。貧困自国民のラプトがどれだけ増えているか、元老院と平民貴族院の議員は考えもしない。

 その理由がなぜか、分かるか?』

 ダリウスは、ダイナス一世の話を理解できなかった。


『元老院と平民貴族院の議員は、他種属ディノスの企業から賄賂をもらい、ダイナス王国の自国民のラプトをモルモットにして抹殺し、若い世代の他種属ディノスと入れ換えようと画策している。

 ダイナス王国の領土や経済力を他国に売り渡す失策につぐ失策を重ねながら、賄賂を得た元老院と平民貴族院の議員はのうのうと大学教授や経済大臣を務めてメディアに登場し、失策の言い逃れをした。飽きれる・・・。

 さらに、私の意向を無視したまま、ダイナス王国軍をリブライト星系リブラン王国に侵攻させて第一次宙域戦争を引き起し、リブラン王国がグリーゼ国家連邦共和国の援助で好戦に転ずると、多額の資金を投じてデロス星系のディノス難民を移民としてデロス星系主惑星ダイナスに受入れ、自惑星にディノスの侵略を呼び込んだ。いったい、元老院と平民貴族院の議員は何を考えているんだ!』

 ダリウスはダイナス一世の激しい怒りを全身で受け止めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る