祭りとお金の行方(前編、あるいは一話と二話)

 祭り。

 祭りでの成野少年とお金にまつわる話。


 タイトルの()内は当時の大体の年代。※ 印は現在の私の言葉です。



 第一話 置くな(小学校低学年くらい)


 僕は父と一緒に祭りに来ていた。

 といっても、父は大人が集まってワイワイしている場所で談笑しており、そこにいても退屈な僕は祭りを見て回ることにした。

 父からもらった千円札を片手に握り締めて、いざ行かん。


 祭りの出店は不思議なもので、普段デパートなどに行ったときにはお目にかかれない珍しいおもちゃが並んでいた。

 僕は、そのおもちゃたちを夢中で見ていた。


 何を買おうかな?


 なんて思ってはみたものの、こっちにはなけなしの千円しかない。そう簡単に使うわけにはいかない。僕はとりあえずその出店を後にして、一旦父の所へと戻った。


 戻った僕の姿を見て、父が言った。


「お前、千円はどうした?」


 え?


 そういえば、千円札がこの手にない。

 僕がお金を手に持っていたことや手に持つ癖を知っていたのか、それで父は気になったようだ。


 焦る僕。でも、焦りながらも必死に記憶を探る。


 おもちゃを手に取って見てみようとして、お金を置いたような……。


 あの、おもちゃの出店だ!


 僕は駆けた。


 なんてことだ。僕の、僕の千円が。うわああああああ!


 あった。


 僕の心配を余所に、千円札はその出店のとあるおもちゃの上に置かれたままになっていた。

 僕は千円札を無事に回収して、父の所へ再び戻って報告する。


「よくあったなぁ」


 父はそう言った。

 ぽつんとあった千円札一枚。お客さんや出店の店主がとっていた可能性もあった。運がよかったのか、人がよかったのか。


 なくす前に使ってしまおう。


 そう思ったのかどうかは、記憶に残っていない。


※ 千円札は四つ折りになっていたと思います。この話を書くにあたり、自分の想像している折り方が四つ折りで正しいのか確認してみたのですが、四つ折りは縁起が悪いらしいですね。

 そんなの誰が決めたんですかぁ。ナプキンを取れる人ですかぁ。

 なんて考えの私ですが、こんなことがあったとすると中々面白いですね。縁起というか、不注意ですが(笑)


 小売業経験のある私が見てきた忘れ物は『置く』から発生することがほとんどです。知らない内に落としたよりも圧倒的に多いです。

 肌身離さず。出したら置かずに元の場所に戻す。ポケットならポケット。バッグならバッグ。

 皆様もお気を付けてくださいませ。



 第二話 神は見ている(小学校中学年くらい)


 僕は祭りのお小遣いとして五百円玉をもらって、家から近いその祭りに来ていた。

 そこで、僕は面白い遊びを考えた。


 賽銭箱に五百円玉を入れそうで入れないという遊びである。

 五百円玉の端を持って、ぎりぎりまで下降させてから上げるのだ。


 うわああああ、五百円玉が〜。いや、セーフ。ふぅ〜う。※ 何が面白いのか、馬鹿である。


 そんな神をも恐れない行為が、神の怒りを買ってしまったのかもしれない。


 もっと、もっとぎりぎりまで。


 そうして攻めすぎた結果、十分の九は賽銭箱に入ってしまったといっていい五百円玉を僕は上げられなくなってしまっていた。

 端を持っているのだ。指先もぷるぷる震えてくる。


 どうしよう?


 その状態が辛くなってきた僕は、楽になろうとしたのか妙なことを考えた。


 放せば、上がる。


 そして、ぱっと手を放した。


 チャリーン!


 あ……。


 絶望が心を支配した。


 うわあああああああああああああ!


 無駄遣いをしたかもしれない五百円。でも、使えない方がよっぽど辛い。

 辛いけれど、失ったものは戻らない。どうしようもない。

 お金を失った僕は、祭りの醍醐味を失ったも同然。泣きながら帰路に就く。

 僕は、まだ何も買っていなかったのに。何も食べていなかったのに。


 途中、祭りに向かう同級生とその保護者の方に会った。

 泣いている僕を気遣ってくれたようで、どうして泣いているのかと話し掛けてくれた。

 僕はどう話しただろうか。泣いていて、ろくに話せなかった気がする。


 家に帰って、親からも泣いている事情を聞かれた。


「神主さんに言えば、取ってくれただろうに」


 考えたとは思う。でも、信用してくれたかは分からない。それに、信用して取ってくれたとしても、一度賽銭箱に入れたお金を取り出すのはとても罪深く罰当たりなことに思えたのだ。※ 賽銭箱の上で遊んでいる時点で大概である。


 そうして、涙に暮れた一日は終わった。


 後日。


「成野、ドブにお金を落としたんだって?」


 お金は賽銭箱に誤って入れたのではなくて、ドブに落としたことになっていた。


※ 賽銭箱に誤って入れたというのが荒唐無稽過ぎて、それに代わる話ができたのか。伝言ゲームが一人目にしてズレたのか。

 ドブに落としてもいなければ、ドブに捨ててもいないと思います。私は失いましたが、きっと有意義に使われたことでしょう。



 四つの話を一話にまとめたかったのですが、意外と文字数が出てきたので前後編にしました。

 というわけで、話はそれぞれ単独ですが、後編に続きます。

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