祭りとお金の行方(後編、あるいは三話と四話)

 前編からの続きです。ですが、繋がりはないのでどちらからでもご自由にお読みくださいませ。


 タイトルの()内は当時の大体の年代。※ 印は現在の私の言葉です。


 第三話 番外編 本の行方(小学生高学年くらい)


 僕は、ちょっと家から距離のある祭りに来ていた。

 その祭りは商店街で行われていたため、雑誌も売っている雑貨屋が出店と一緒に並んでいた。いや、雑貨屋は普段からあるのだから、出店が一緒に並んでいたというのが正確だろうか。

 さて、近所の雑貨屋で買えばいいのに、なぜか僕は漫画雑誌『週刊少年マガジン』をそこで購入していた。

 祭りで持っていても邪魔であろうに、すぐにでも読みたい漫画があったのだろうか。あるいは、帰りのバスで読もうとでも思ったのか。

 何にしても、この週刊少年マガジンがとある事件を引き起こした。


「兄ちゃん、持っているのマガジンか? ちょっと読ませてくれないか?」


 一つの出店のおじさんがそう声を掛けてきたのである。


 当時の週刊少年マガジンは、現実世界(現実に近い世界か)を舞台にした漫画ばかりであった。その世界の裏社会や闇社会が描かれていた漫画もある。

 だからなのか、僕の父も読者であったように、大人男性の方にも大分読まれていた雑誌だった。

※ 今と違って漫画雑誌、特に少年漫画雑誌は大人で読んでいる方は少なかったように思う。卒業するべきという概念があったからだろうか。


 僕は戸惑いながらも、蛇に睨まれた蛙の状態でもあったために貸すことにした。

 でも、その判断は失敗であったのかもしれない。



「待て。もう少し」


 おじさんはどれだけ読むのか、中々返してはくれなかった。

 正直、返してもらえないんじゃないかと思ったほどだった。


 どうしようと思う僕に、好機が訪れた。


 おじさんの出店にお客さんが来たのである。


「はい、いらっしゃい」


 おじさんが週刊少年マガジンを脇に置いて、お客さんの対応を始めた。

 僕はその隙を見て、週刊少年マガジンを回収した。


「すみません。僕、もう行きます」


 そうして、僕はその場から逃げるように離れる。


「お、おい。ちょっと待て」


 未練があるかのようにおじさんはそう言ってきていたけれど、僕は聞こえていないかのように走って逃げた。

 その後は、すぐにでもバスに乗って帰っただろうか。

 何にしても、週刊少年マガジンと僕の身は守られたようだ。


※ あのおじさん。もしかしたらなのだが「まだ読ませろ」ということではなくて、お礼として商品をサービスしてくれるつもりだったのかもしれないなと、その後では思ったりもする。どうだろうか。



 第四話 少年は一攫千金を狙う(小学生全学年)


 祭りでは、型抜きというものがあった。

 小さな針を使って、板状の菓子に描かれた型を抜き出すというものだ。

 さて、一回100円であっただろうかというこの型抜き、抜いた型の難度に応じて賞金が出ていたのだ。いや、賞金が設定されていたといった方がいいのだろうか。

 なぜなら、抜けた人は少数であったし、少数の中には難癖を付けられて貰えなかった人もいたのだから。

 それでも、やる人は少なくなかった。そこに可能性があるのなら——であろうか。


 浪漫の追求か、馬鹿なのか、僕もまたその一人であった。

 けれど、不器用な僕には賞金200円程度の簡単なものも抜けなかった。抜くのもだけれど、賞金を払ってくれそうという意味でも狙い目であったかもしれないのに。

 正直、僕にとっての型抜きは型が描かれている菓子を食べるものであったといっても過言ではない。100円の小さな板状の菓子。なんて贅沢な菓子だ。


 型抜きは僕には無理だ。

 そう思っていた(かどうかは定かではないけれど)僕に、これならいけそうというものが出てくることになる。


 亀すくいである。※ 今は場合によっては違法となるようですね。


 針金二本をモナカに突き刺して、針金が外れないようにモナカで水中の亀をすくうというものだ。

 そして、この亀。なんとその店で買い取ってくれたのである。


 一回200円で、買取額は1000円であった。これには心が躍ったものだ。

 三回失敗しても、四回目で成功すればそれでも200円得をするのだから。


 もっとも、四回失敗するのだけれど。


 店主が見せてくれるお手本では簡単に見えるのだけれど、これが中々に難しい。

 モナカを水にほとんど付けないようにして、亀にモナカを登ってきてもらう。店主はこれをは易々と行う。僕は、僕たちはそれを上手く真似できない。


 成功したものの「ごめん。見てなかった」と本当かどうか分からないけれど、取ったことにされなかった場合もあるという。亀すくいでもか。まぁ、目を盗んで亀を取った振りをする者もいただろうから、本当に見ていなかったとしたら向こうにも理はあったのかもしれない。

 僕は針金が付いたモナカを受け取った瞬間、針金が外れたことはある。差し直してはもらったけれど、やってくれるぜ。


 1000円獲得するのに1000円使うわけにはいかないと、800円、四回までとしていた気がする。……五回してしまったときもあっただろうか。六回はないはずだ、うん。


 そして、失ったお金があったのなら、あれもこれも買えたのにと意気消沈して帰るのである。

 浪漫とは、失うことと見つけたり。

 やはり、馬鹿だ。


※ 亀すくいの器具、店主が使うのはちょっと違うなんて話があった気がするが、ソースを発見できなかった。しかし、そうでないにしても、祭りの日にだけやるお客さんとそれまでに練習できる店主ではそりゃあ違うよなと。

 術中にはまりまくりである。

 だが、確実に社会を教わったといえよう。

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人生の思い出 成野淳司 @J-NARUNO

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