鳥のように

 小学生のころの僕はとにかく走っていた。

 友達の家に遊びに行くときも、おつかいを頼まれたときも。


 学校に行くときも。


 僕が登校していた時間帯は、遠方の生徒のためのスクールバスが通る時間帯でもあった。


 出会ったのなら、戦いの始まりである。


 すかさず走り始める僕。僕の一方的な挑戦だけれど、バスと学校までの競争だ。

 僕の登校ルートはバスが通るのには狭かったためか、バスは遠回りして学校に向かっていた。

 だから『この辺りでバスと会ったのなら勝てる』なんて地点もあった。バスが信号に捕まるかも大きな要素だった。大体勝ってはいたはずだけれど、蓋を開けてみれば登校する時刻の問題だったような気もする。

 そんな風に足での移動となればほとんど走っていた僕は、一部では「歩いているのを見たことがない」なんて言われていたらしい。


 そんな小学生のころだけれど、あの時も僕は走っていた。

 友達の家からの帰りだっただろうか。


 中々の勾配の下り坂だった。走ると、結構な衝撃が足に響くような。


 僕は走るだけでなく、時折飛び跳ねていた。(※ 危険ですので絶対に真似しないでください)下り坂での助走をつけたジャンプは、高く長い滞空を可能にして楽しかった。


 そして、ここ一番の大ジャンプを僕は決行した。


 ダッ!(飛び跳ねる)


 僕は今、空を飛んでいる。


 鳥。

 僕は何者にも束縛されない、大空を舞う自由な鳥。


 でも、その鳥は空の飛び方を知らなかった。

 いや、正確には地上への降り方というものを。


 ぐきっ。


 着地の瞬間、僕は足を挫いてしまった。

 痛いと思うと同時に、倒れて坂道を転がっていく。イメージと体感での話だけれど、それは『おむすびころりん』の転がるおむすびよりも速かったと思う。


やがて回転は止まり、僕は道路に横になった。

挫いた足と、全身の打撲——あるいは擦り傷の痛みが僕を襲う。


「うう」


ああ、なんでこんなことに。

僕はただ、自由に空をと——大ジャンプで滞空を楽しみたかっただけなのに。


よろよろと立ち上がり、静かに家路に着いた。……さすがに歩いていた。

この時の僕の姿は、子供ながらに哀愁が漂っていたに違いない。

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