通知表の怪(先生への疑惑)
前回、小学三、四年生のころに担任の先生にとあることで尋問されたと書いた。
その後、まさかそれが原因で起きたのではないかというよくない一件のことも。
だが、よくなかったのはその一件程度で、先生との関係は良好だったように思う。
しかし、大人になってから母とあの先生の話題になった時、面白い話が出たのだ。
「あぁ、あの先生ね。通知表オール3とか、適当なことしてくれて」
これは……。
訳ありかもしれないオール3。
ふふ。考察したい気持ちが
考察しようじゃあないか。
オール3か。確かにあの先生が担任だった三、四年生のころだった覚えはある。一回程度だったような気もするし、多かった気もする。いずれにしても、一回は間違いない。
「前とテストの点数は大して変わっていなかったはずなのに」
小学生のテストは、中学以降の定期テストのようなちゃんとしたテストではなかった。時折、そこらの問題集から取ってきたような問題用紙をやっていただけだ。順位はもちろん、平均点なども出していなかったのではないだろうか。そのようなテストに、どれだけ評価が左右されていたのかは
疑問ではあるが、ここは母に合わせてテストを評価の主要として考えてみよう。
あのころのテストの点は悪かった気もするが、はっきりと覚えてはいない。母の言葉によれば、私の点数は以前と大して変わっていなかったらしい。他の生徒もそうだとするのなら、おかしいと思ってもおかしくはない。
というのも、担任の先生が替わる前、一、二年年生のころの私の通知表の評価は2・3・4の三段階評価で基本的に3と4。たまに2が入る、という感じだった(はずだ)。つまりはバランスが悪く
それぞれの評価は人数が決まっている方式だったのだが、私と周りが変わっていないのなら以前と大体同じ結果になるはずということだろう。
私はともかく、他の生徒の情報は何も分からないわけだが。
「いや、他の人たちの点数が良くて、結果として全ての教科が平均的だったんでしょう」
これだ。実は私のテストの点数は悪かった。あるいは他の生徒の点数が良かった。理由は何でもいいのだが、どの教科も真ん中くらいの成績であったのだろう。
「いや、オール3はない。もっとバラつくはず」
母は譲らない。あなたは得意不得意あって、決して平均的ではないでしょうというところか。さて。
「中学生のころの成績は基本的にオール4(1〜5の五段階評価。5がないのはお察し)だったろ。オール4があるなら、オール3もあるでしょうよ」
「オール4はあっても、オール3はない」
何を言っているのか分からない。私は何と戦っているんだ?
「とにかく、あの先生は適当だったよ」
そこで話は終わってしまった。
その後、この話を書くにあたって真剣に考えてみた。
『オール4はあっても、オール3はない』
この意味を。
中学校も小学校と同様に、それぞれの評価の人数が決まっている方式だった。何点を取ればこの評価がもらえるというわけではない。
つまり、偶然にも全ての教科の順位が4の範囲に入っていたということになる。ある意味、最高評価であるオール5よりも難しいのではないかという気もする。オール5を取れないお前が言うなではあるのだが、そこはご容赦してほしい。
5をもらうには、100点を取ればいい。100点なら何人いようが一位なのだから。若干、授業態度や提出物が影響を及ぼすかもしれないが、微々たるものであると思うし、この考察では無視するとしよう。
同様の理由で1も簡単であろう。0点を取ればいいのだから。実際にわざとおこなったのなら、先生から大目玉をくらうことになるだろうが、あくまでも仮定の話だ。
しかし、その間の評価を狙ってもらうのは難しいだろう。何せ、他の生徒次第で基準の点数はいくらでも変動する。このくらいの点数を取っていれば、この評価をもらえるとは限らないのだから。
さて、こうなるとやはり、そんな状況でのオール4(中学校)があるのなら、オール3(小学校)があってもおかしくはないということになってしまう。
そこで、私は考えた。
母が言いたいのは、理屈ではなく信用の問題ではないかということである。
今は違うかもしれないが、当時の小学校では基本的に担任の先生がほとんどの教科を教えていた。当然、各教科の評価も担任の先生である。(稀に教えていない教科があったりするが、その教科は違うだろうか)
対して、中学校では教える先生と評価は教科別である。さらに、定期テストという評価の基準となるものもあった。
私が通っていた中学の個別の順位表では、上位者と自分以外の名前が伏せられていた(その内に上位者も伏せられて自分の名前のみに)ものの、それぞれの順位の総合得点や教科別の得点が分かるようになっていた。そこまでしたことはないが、細かく見ればこの教科の順位は何位なのかも分かったであろう。そう、評価はどの数字をもらうことになるのかも、おおよその見当が付いたことと思う。
『この教科、三位なのに評価が4なのはおかしいじゃないか』
こういった声が出てくる可能性があるから、先生が不当な評価を与えることは難しかったであろう。
先生によっては、独自に総合得点や教科別の上位の順位表を、名前ありで作成して配布している場合もあった。あれはもしかしたら、生徒たちにとっては楽しいだろうということだけでなく、他の先生が誰か生徒をひいきにしたりしないような牽制であったのかもしれない。
さて、小学校は一人の先生がほとんどの教科を教えて評価していた。テストも順位は分からず、点数もどれだけ評価に関わったのかは定かではない。そして、他の先生の干渉もなかったのではないか。
察しが付くであろうか。
先生が
母はこう言いたかったのではないか。
「中学校のオール4は信じられる。でも——」
いや、母とあの先生の名誉のためにも、これ以上はやめよう。もしもそうなら、あのオール3も例の一件のせいで? などと
悪い方向に考察してしまったが、私が最初に母に言ったようにどの教科も真ん中くらいの成績であっただけかもしれない。正に全てが平均的だった生徒がいたのだが、その生徒がオール3であったように。
母も我が子へのフィルターがかかったうえでの発言といったところであろう。
仮にここでの悪い考察が的を射ていたとしても、決してあの先生を恨むものではない。
全ての評価が一人に一任されていてチェックもないというのなら、システムに問題があったともいえる。
また、当時オール3にショックを受けていたわけではない(2がないことにホッとしていたくらいだ。4がないことに悔しがらないところが、私の駄目さ加減を表している)し、あのころの成績が何か今に影響を及ぼしているということもないのだ。
そして、厄介な生徒であったのなら申し訳ないし、教育してもらったこと——、共にあの時を歩んでくれたことには感謝をしている。
恨んでいるわけがない。先生との関係は、仮に私にとってだけだったとしても、間違いなく良好であったのだから。
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