第22話 空飛ぶバイクでランデブー
上空から桜を探すことに、時間はかからなかった。メイン通りを抜け、メインゲートに向かって進んでゆく彼女を発見した。
「ほら、あそこ見て!」
しかし運悪く、彼女を追いかける武装集団の姿も発見した。このままでは、すぐに追いつかれてしまう。
「早く助けに行こう」
「そうね……!」
空飛ぶバイクを旋回して、地上に降りようとした時だった。急に彼女がおぼつかない表情をしているのがわかった。
「あっ!ちょっと……待って」
「どうしたの?」
桜に、武装集団の魔の手が差し迫ろうとしていた。武装集団の男が、彼女の腕を掴み締め上げた。
「やっと捕まえたぜ。手間取らせやがって……」
武装集団の仲間が無線を使い、一人の歌姫を確保したことを、貯吾朗に伝えていた。
「誰か、助けて……」
桜は心臓は高鳴り、恐怖が全身を駆け巡った。絶望に襲われ、もうダメだと諦めかけていた。
その時突然、銃を持ったおじさんが現れた。唐澤さんだ!彼は鋭い視線で武装集団を睨みつけると、銃口を、彼らに向け威嚇射撃を放った。
それにはたまらず、彼らも慌てふためき、逃げ回っていた。
「そのお嬢ちゃんを放してもらおうか。お前たち、こんなちっちゃな子供を追い回すなど、最低な行為だぞ!」
その時、桜の耳がピクりと動いた。それは、怯えの感情と言うより、動揺している感情に近かった。
武装集団は一瞬たじろぐが、すぐに笑みを浮かべた。桜に銃口を向け人質にしようとしていた。
「ハァ?なんだ、このおっさん……それ以上むちゃくちゃするなら、このちっちゃなガキからブチ殺すぞ」
またもや、桜の耳がピクりと動いた。
「辞めろ!そんなちっちゃな子供を殺して、どうする気だ?良心が痛まないのか?」
さらに、桜の耳がピクりと動いた。
「なに言ってんだ、こいつ!俺たちは、このちっこいガキに用があるんだ。おまえに用はないんだよ。引っ込んで見ていろ!」
怒りに達した桜の耳がピクピクッと動いた。唐澤さんは、そのような威嚇には動じすに、ゆっくりと銃を構え銃口を、彼らに向けた。
「ワシもお前たちと同じ銃を持っている。ただし、ワシはこの銃は、ちっちゃな子供を救うために使うんだ」
桜は、我を忘れて、ぽつりと詩を口ずさんだ……
「はァ……笑わせるな!さっきは、いきなり銃をぶっぱなしてきたのは、どこのどいつだ?コラッ!」
男の怒りが最高潮まで高まっていた。確かに初っ端に銃を、ぶっぱなして威嚇したのは、唐澤さんであった。
だが、そんな言葉は聞く耳持たんと冷静な顔をして、銃の引き金を引いた。しかし銃弾は、男の頬をかすめて逸れて行った。
「おっさん、あぶねえだろうがよォ!」
――なぜだ?身体が動かん。
なぜかその瞬間、唐澤さんと桜を拘束していた男の体が痺れていた。
「こいつは、玩具じゃないんだ……よっ!」
傍にいた武装集団の男が、唐澤さんにパンチをくらわせた。さらに銃を奪いわれ、蹴り飛ばされた。
「ちょっと待て!おまえら、多勢で襲いかかるなんて、卑怯だぞ!」
唐澤さんは、必死に抵抗を繰り返していた。突然、夜空に不思議な詩が響き渡った。
『君の勇気が光を放ち、悪を打ち破る。愛がこの闇を照らす』
それを聞いた唐澤さんの身体が動き出し、彼ら相手に素手で立ち向かった。その詩の言葉に導かれるように、彼に勇気と力が湧き上がり、不思議な力を感じていた。
――これは一体どういうことだ?こんどは体がとても軽い……もしや、この力は?
唐澤さんが、彼女の方を眺めるとやはり、なにかを口ずさんでいるように見えた。これが、あの幻とさえ言われた八咫烏の詩姫の力か?
無線を聞いた、他の武装集団も駆けつけてきた。その数およそ三十名、しかし無双と化した唐澤さんの敵ではなかった。
唐沢さんは彼らに武器を向けられても、冷静に対処し、戦い続けた。だが、それも長くは続かなかった。
――なんだ!なにが起きたんだ?最近の運動不足が祟ったのだろうか?いや違う……
急に体が重くなり、動きが鈍くなった。いや、元に戻ったと言った方が正しいだろうか?
「ごちゃごちゃと、うるせぇんだよ。歌なんか歌ってんじゃねぇぞ。コラ!」
唐澤さんが彼女に目をやると、男が彼女の頭に銃を突きつけ、脅して詩えなくしていた。
桜は感情的になり、自分が詩っていたことに気づき、自分が行った殺人的な行動に恐怖した。そしてこの状況を冷静に捉え、生唾をゴクりと飲み込んだ。
「このガキの命が惜しけりゃ、大人しくそこでジッとしていることだな!」
――しかしなんなんだ?このガキの歌は、ヤバいことに首突っ込んでるんじゃないだろうなぁ……そうだ。このままこのガキを連れて逃げ出して……
男性が後ろに下がり始めた。その男性の瞳には何か別の感情が宿っているようだった。しかし、そこには意外な展開が待ち受けていた。
「うわぁわ!誰か、停めてくれ!」
「きゃあああ……」
男の後ろから、ものすごい勢いで、駆け抜けてくるものがあった。男は慌てて振り返り見たものとは、僕とこばとちゃんを乗せた空飛ぶバイクであった。
バイクは、僕の意志とは関係なく、男の周りをぐるぐると周り、距離を詰めてゆく。そして桜の横をすり抜けざまに、彼女を奪い自分の後ろに乗せた。
さらに僕の前で小さくなっていたこばとちゃんが、男の脇腹を蹴り飛ばさし、会心一撃を喰らわせた。男は気絶して倒れ込んだ。
それでもまだバイクは止まらず、唐澤さんの方まで突き進んでゆく。そして彼に、取り着いていた武装集団を、ことごとく蹴散らした。
そのあとは唐澤さんの独壇場となり、武装集団を殴り倒すと、八方に別れて逃げ出した。
「助けてくれて……おおきにな!」
桜は僕の隣りで少し照れくさそうに言った。
「おぉ!狐凪殿、ようやく会えた。おまえを探していたんだ」
――狐凪殿?
「唐澤さん、殿は辞めてください。今までどうり、狐凪でいいですよ」
武装集団を、あらかた片付けた唐澤さんが、傷だらけの体を引き摺ってやってきた。
「痛たたっ!おぉ、そうか?しかしあの程度の者達に遅れを取るとは、ワシもまだまだ未熟だ!」
すると、桜が言いにくそうに彼に声をかけた。
「おじさん、助けてくれておおきに。あと、うちのことちっちゃいって言ったから思わず、おじさんの体を麻痺させる効果の詩を付与してしまったの、ごめんなさい」
桜は感謝の気持ちと謝罪の気持ちを伝えた。唐沢さんは、唖然とした顔をしていたが、苦しい笑いを浮かべ、謝罪を受け入れた。
「助けてもらったのはこちらの方だ!ありがとうよ。それと、すまないことをした。ワシも謝ろう。すまなかった」
その後、唐澤さんは僕達が乗ってきた空飛ぶバイクをジロジロの眺めて興奮していた。
彼もまたそのバイクに関心があったようだ。
「おい!おまえ達こいつをどこで手に入れた?」
「今日、最後のイベントで使う予定だったのよ。会場の外で待機していたものを、ちょっとだけ借りて来たのよ」
唐澤さんは、その説明さえも聞かず、空飛ぶバイクに釘付けになって見ていた。
「こりゃすごいな!おまえ達、これを動かせるのか?」
「それが、その……」
あれはちょうど空飛ぶバイクを旋回して、地上に降りようとした時のことだった。
「あっ!ちょっと……待って」
「どうしたの?」
急にこばとちゃんがおぼつかない表情をしていた。
「これって、どうやって降りればいいの?」
その言葉を聞いた僕は、耳を疑って驚いた。
「えっ、こばとちゃん免許持ってるんでしょう?」
「なに言ってるの。空飛ぶバイクなんて、まだ公道も走ってないんだから、そんな免許あるわけ無いでしょう。私が持ってるのは普通のバイクだけよ」
言われてみればその通りだ!そういえば聞いた事がある。上昇するよりも、下降する方が難しいらしい。まだ地面に激突して死にたくはない。
彼女もまた動揺して運転ができる様子ではなかった。仕方がない、ここは僕の出番だ!
「僕が運転を代わるよ」
「でもあんた免許は持ってないんでしょう?」
それを言うならこばとちゃんも持ってないでしょう!とにかく僕は、この空飛ぶバイクを運転して見たかったのだ。
運転が出来る?出来ない?よりも先に、興味と興奮だけが、僕の心を突き動かしていた。
「大丈夫!大丈夫!僕に任せてよ」
僕の眼鏡が、真っ白に曇るぐらい興奮していた。こばとちゃんに覆いかぶさり、空飛ぶバイクのハンドルを握り、ニタりと笑った。
「それじゃ行くね!」
僕は興奮のあまり、アクセル全開で突っ走った。
「どこが、大丈夫なのよおぉ……」
その後、運良く徐々に下降して、桜の元に行き着いたのだが、上手く止まることが出来なかった。
「おい、おまえ達、このレバーはなんだ?」
唐澤さんが、以外なギミックを探り当てた。それは……
「オートクルーズコントロール?」
そうこのレバーをオンにすることで、自動で着地してくれる優れものの機能があった。
「なんでこれを使わなかったんだ?」
「………………」
そんな機能、誰も気づかなかった!
そんなものがあるなら……早く言ってよ。。。
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