第21話 謎の魔法陣現る!

 真幌は駅から戻ると、すぐに東雲の執務室へと向かった。彼が君主様を裏切り、よからぬ陰謀を抱いていることを、彼女は感じていた。その証拠を探すため、この執務室へとやってきた。


「なにか手がかりになるものはないかしら?」


 彼女は東雲のデスクに、鍵のかかった引き出しがあるのを見つけた。この中に、なにかあるのだろうか?


 彼女は、髪に刺してあったヘアピンを、手に取り鍵穴に差し込んだ。この程度の引き出しを開けることは、簡単なことであった。

 

「これは……」

 引き出しの中には、ある極秘の計画書が収められていた。真幌はその書類を読んで驚いた。


 この計画が本当に起こったら、この都市どころが國ひとつ無くなりかねない。その前に、こばとだけは助けたい。


 真幌はその思いで、ステージに向かって走り出した。


 ◇ ◇ ◇


 ステージ後方の観客席には、役員専用の個室席があり、東雲はその席からステージを見物していた。


 しかしどうも思惑通りに、ことが上手く進まない状況を腹に据えかねていた。


「これは一体どういうことですか?」


 ステージ横で指揮を取っていた貯吾朗の所に、伝令役の土蜘蛛が、東雲の声で言葉を伝えにやってきた。


「これは、その……」


 貯吾朗の表情が一変した。青ざめた表情で、言葉が詰まり、言い訳が出来ない。


「言い訳などを、聞きたいわけではありません。詩姫の方は、こちらでなんとかしましょう。そちらに生贄の娘を向かわせる。あなたは儀式を、早く進めなさい」


「御意……」


 貯吾朗への通信を終えたのち、東雲は咲依ちゃんに、ステージに向うように手で合図を送る。彼女はその指示に頷き、ステージへとゆっくりと歩を進めてゆく。


「本当に役に立たない奴らばかりですね。土蜘蛛達よ。詩姫達のあとを追いかけて連れ戻しなさい。それと……」 


 土蜘蛛は、その命に従うために、彼女達を追いかけ、複数の土蜘蛛達が連なるように、奈落の底へと降って行った。


 それを見届けた貯吾朗の顔が、少しばかり安心した表情に変わっていた。それは命拾いをしたような感覚に近かった。


 貯吾朗には、東雲に対して恩義があった。しかしそれよりもあの人に逆らえば、自分の命が虫けらの如く踏み潰されてしまう。その恐怖の方が、大きかった。


 貯吾朗は計画通り、彼から手渡されていたある勾玉を握り砕いた。勾玉から怪しい光が溢れ出し、空へと昇って行った。



「なんだ。アレは……」 


 見上げれば突然、妖魔博覧会会場に闇の魔法陣が発動され、会場全体が飲み込まれてゆく。人々は、その幻想的な光景に圧倒された。


 その時、なにかとてつもなく大きなものが、壊れる音が聞こえてきた。それを聞いた人々は絶望と恐怖を感じていた。



 次の瞬間、土蜘蛛が奈落に置いていたコンテナをステージ上へと運んで来た。


――なんだあのコンテナは?そんなものこの計画にはなかったはず。一体なにに使うつもりなんだ?


「なにをボサっとしているんですか。早く儀式を始めてください」 


 貯吾朗は、目の前に立つ一人の少女、咲依ちゃんの瞳に悲しみと憎悪が宿っているように思えた。


 貯吾朗は、彼女に怯えながらも、儀式を続行することを決めた。


 ◇ ◇ ◇


 その頃、邏察隊は、今後の方針が検討をしていた。通路には、特設会場のステージが見られるモニターが設置されており、今の状況が刻刻と伝えられていた。


「あの変態親父!あんな子を連れて来て、一体なにを仕出かすつもりなのかしら?」


 こばとちゃんが、怒りに満ちた表情で、モニターを眺めていた。僕も同じようにモニターを眺めて驚いた。その少女が咲依ちゃんであったからだ。


――なんでこんなところに居るんだ?ちゃんと大吾さんに預けて来たはずなのに……?


 紫紀さんも、その様子を眺めながらやってきた。


「そういえば、そんな子の捜索願いを出しに来ていた人がいたなぁ……」


 とにかく僕は、彼女を助けに行こうとしたが、紫紀さんが僕を腕を握り、阻止してきた。


「狐凪くんはダメだ!民間人を危険な場所に、行かせる訳には行かない」


「だけど、咲依ちゃんを放っておけません」


「彼女は、私達が助けに行く。だからキミは、ここで他の邏察隊員達と一緒に残りなさい」


「嫌です。彼女は僕の……」


「紫紀隊長!」

 そんな最中、紫紀さんの元に邏察隊員が慌ててやってきた。彼は真剣な表情で、何か伝えようとしている様子だった。 


「どうした?」  


「緊急の報告があります。ステージ会場に繋がる扉も封鎖されており、突入することができません。さらに、会場に繋がる二本の橋が落とされ、脱出することも困難になりました」


「なんだって!」


「あと内部の警備にあたっていた者からの連絡で、なにかの儀式が行われる最中である、との情報も入って来ております」


 一体奴らは、なにをしようとしているのだ?


 僕達は困惑しながらも、得体の知れない雰囲気に圧倒されていた。ステージで行われる儀式が、何なのかを確かめる必要がある。


「もしかしたら、まだこの扉からなら、中に侵入できるかもしれない」


「しかし隊長!これは罠かも知れません」


「だが、多くの観客が人質に取られている以上、ここで手を子招いて見ている訳にも行かんだろう」


「わかりました」


「ヨシ!準備が出来次第、奈落に潜入する」


「ハイ」 


 邏察隊の部下たちは、早急に準備を始めた。目的は武装集団の武装解除と人命救出!


 上手く行けば奴らの陰謀を阻止したいところだ!


「状況は、かなり深刻な状態だ!キミ達はここに残る邏察隊員と一緒にいなさい。いいね!」


 紫紀さんが諭すように説得してきた。僕はどうしても一緒に行きたかったが、どうしても聞き入れては貰えそうにないので、受け入れることにした。


「…………はい」

 邏察隊員達が突入準備を終えると、階段を降りて行った。紫記さんは、冷静に隊員たちを見守りながら、暗い奈落の奥へと進んでゆく。


 突然、予期せぬ出来事が起こった。そこは既に、土蜘蛛達の巣窟と化していた。鋼に近い強度を持った蜘蛛の糸が張り巡らされ、鋼の糸針が邏察隊に襲いかかった。


 ◇ ◇ ◇


 土蜘蛛に襲われた邏察隊の悲鳴の声が、僕の耳にも届いた。同時に奈落の奥底から土蜘蛛達が、蜘蛛の子を散らすように湧き出て来た。


 通路で待機していた邏察隊員が放った銃声が響き渡り、通路を照らしていた照明が、粉々に砕け散り真っ暗に闇に包まれた。


 通路が一瞬にして戦場と化し、パニック状態に包まれた。その中で一匹の土蜘蛛が、俺たちの方へ向かって迫ってくる。


 桜の表情が恐怖の色へと変わってゆく。


『桜よ。戦を勝利に導びく詩姫となって、詩いなさい。詩いなさい。詩いなさい……』


 桜の心に重くのしかかる言葉が浮かんできた。その言葉が、彼女を苦しめ怨念のように心を支配してゆく。桜はその言葉から逃れるようと耳を塞ぎ、一人駆け出して行った。


「桜……」


 僕とこばとちゃんも桜のあとを追いかけてゆく。しかし野外に出ると、彼女の姿はなかった。


「まったくあの子ったら、どこへ行っちゃったのかしら?」


「…………」


 混乱に乗じて、外に出てきてしまった。桜のことも気がかりだが、咲依ちゃんのことも心配だ。


 どうする。二手に別れて探すか?だが、まだその辺に武装集団の者達がいるかもしれない。こばとちゃんだけにすることは出来ない。


「そうだ!あれを借りましょう。私に、ついて来て」


 そう言われて彼女についてゆき、そこで見たものとは僕の憧れであり、革命的な発明そのものであった。


その光景に興奮した僕は、眼鏡が真白になり、感動で言葉さえも見つからなかった。


 それは、まさに今回のイベントの目玉展示品!WXS-C25ウインドコンコルドと名付けられた、空飛ぶバイクであった。それを見た僕の胸が、興奮で張り裂けそうになっていた。


「うっひょー、まさかこれに乗って行くの?」


「そうよ!だから、なに?怖いとかって言うんじゃないわよね」


「うん!それは平気さ!」


 淡々とヘルメットを被って、スカートの横を破ると、運転席に股がる彼女が輝いて見えた。


「それよりもすごいね。すごくかっこいいよ!」


 彼女は照れくさそうに顔を赤らめた。


「そう、ありがとう」


「この洗練されたフォルム!高機動力を備えたスラスターどれをとってもかっこいいとしか言いようがない」


「私じゃなくて、バイクかよ!」 


 こばとちゃんは、僕に怒りをぶつけるかのように、ヘルメットを投げつけてきた。


「早くそれを被りなさい。行くわよ」


 彼女が運転席に座りバイクを起動させ、ホバーリングを始めようとしていた。


「あの……」 

「なに?どうしたのよ?」 


「僕に運転させてくれないかなぁ?」

 彼女は呆れた顔をして、僕を睨みつけて来た。 


「あんた……免許は持ってるの?」

「あっ!」


 確かに免許も持っておらず、運転経験さえもない僕が、運転しようだなんて自殺行為に等しかった。 


「免許もないのに、運転なんかさせられるわけないでしょう!」

「こばとちゃんは、持ってるの?」


 彼女は、ドヤ顔で自信満々に言い放った。


「当たり前でしょ!私を誰だと思ってるの?」 


僕は戸惑いながらも、彼女の後ろに座った。


「お邪魔しむわぁ……」


 僕が話終える前に、彼女はバイクを空高く浮び上らさせた。風になびく髪、輝く笑顔。その姿はまるで空から舞い降りた天使のようだった。僕は彼女の運転に惹かれていた。 


「変なところ触ったら、上空から振り落とすから、覚悟して起きなさいよ」


「わかりました」


 夜空にくっきりと浮かび上がる魔法陣は、会場全土をすっぽりと包み込んでいた。その漆黒の輝きを放つ空間は、まるで恐怖の奈落そのものに見えた。僕はその光景に息を呑んだ。








 


 

 


 


 


 

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