十四 銀鈴、じゅうたん工房を見学するのこと
【ご注意!】
・本作の「目的」は【趣味で執筆】、作者要望は【長所を教えてください!】です。お間違えないようにお願いします。
・本作は、予告なく削除することがあります。あらかじめご了承ください。ですので、もしも「まだ読みかけ」という方は、ご自身でWordやテキストエデッタなどにコピペして保存されることをお勧めします。
・「作者を成長させよう」などとのお考えは不要です。執筆はあくまでも【趣味】です。執筆で金銭的利益を得るつもりは全くありません。「善意」であっても、【新人賞受賞のため】【なろうからの書籍化のため】の助言は不必要です。
・ご自身の感想姿勢・信念が、本作に「少しでも求められていない」とお感じなら、感想はご遠慮ください。
・本作は、「鉄道が存在する中華風ファンタジー世界」がどう表現できるか? との実験作です。中華風ファンタジーと鉄道(特に、豊田巧氏の『RAIL WARS』『信長鉄道』、内田百閒氏の『阿呆列車』、大和田健樹氏の『鉄道唱歌』)がお好きでないと、好みに合わないかもしれません。あらかじめ、ご承知おきください。お好みに合わぬ場合には、無理に読まれる必要もなく、感想を書かれる必要もありません。あくまでも【趣味】で、「書きたいもの」を「書きたいように」書いた作品です。その点は十二分にご理解ください!
・あらすじで興味が持てなければ、本文を読まれる必要はありません。無理に感想を書かれる必要もありません。私も、感想返しが必ずしもできるわけではありません。また、感想返しはご随意に願います。なお、ひと言でも良い点を指摘できる作品に限り、感想を書くようにしています。
・攻撃的、挑発的態度などのご感想は、「非表示」「ブロック」の措置を取りますことを、あらかじめご承知おきください。
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長洛出発の十四日目。
「さあ、こちらへ」
銀鈴、仁瑜たちは、空州の重要産業であるじゅうたんの制作過程の視察でじゅうたん工房へと来ていた。工房の玄関で工房長のお婆さんの出迎えを受け、中へと招き入れられ、応接室へと案内された。応接室にて、工房長と空州牧から、じゅうたん産業についての説明を受けた。
織り場では、多数の織り器が並んでいて、織り子は若い女性ばかりだった。織り器一台につき、織り子が一人つくもの、二人つくもの、三人つくものとがあった。織り子は、目にも止まらぬ速さで経糸(たていと)に輪奈(パイル)を結んでいた。
「用いる糸は、羊や釐牛(やく)の毛でございます。織るじゅうたんが大きくなるにつれて、織り子の数が二人、三人と増えていきます。複数人で織る場合、織り子同士の息が合わないといけません。ですので、大きいほどお値段もお高くなってしまいます」
工房長は織り器を指した。
「この雰囲気、懐かしいわ」
「大おばさま、そうなんですか?」
「そうよ。西域の特産が、じゅうたんなのは、銀鈴も知ってるわよね?」
「はい」
「わたしのお父さまは、じゅうたん工房も持っていてね。夫を亡くした女性や、身寄りのない少女に働いてもらってたわ」
「そうだんたんですか」
「忠元から聞いたけど、今でも続いてるみたいね」
「じゅうたん織は、手先の器用さが必要でございますので、織り子は若い娘が多いです。もちろん男の織り子もおりますが。五つ、六つぐらいのころから、見よう見まねで母親の手伝いをしていた子もおります」
工房長が説明した。
じゅうたん作りの工程を一通り見終えた銀鈴たちは、じゅうたん博物館を兼ねた即売所へと案内された。
「こちらは三百年ぐらい前に作られた物で、代々の法王がご使用になった物でもございます」
工房長は、黄土色の背景に、緑色の龍が描かれたじゅうたんを指した。
「こちらは、各名家で使われた物です」
蓮華、二匹の金の魚、永遠の絆、白いほら貝、勝利の幡(ばん)、法輪、宝傘、甘露の瓶といった八吉祥紋様を、紺の背景に五色で鮮やかに描かれたじゅうたんだ。
「お売りできる物は、こちらでございます」
工房長がそう言うと、工房員が次々とじゅうたんを床に広げていった。背景色も、橙色、黄土色、紺色、赤色、白茶色と色とりどり。模様も、緑色の龍、黄色い獅子、白の鶴、黒や白の釐牛(ヤク)などの動物紋様、五色の吉祥紋様。大きさも、座布団大の小さなもの、榻――寝台兼用の長椅子――の上に敷くのにちょうど良い細長いものから、四、五人が横になれる物のように大きなものものまでいろいろだ。
「よろしければ、お手を触れたり、寝転がったりされて、じゅうたんの手触りをお確かめください」
「ほんと、ふかふかで寝心地がいいわ」
銀鈴は、工房長に勧められるまま、じゅうたんの上に横になった。
「空州のじゅうたんって、動物柄が多いわね。火昌はじめ、西域のじゅうたんは薔薇(バラ)や蔦草の唐草文様や図形を組み合わせた幾何学文様が多いわよ。それこそ、細かい紋様を緻密に組み合わせてね。それでも、狩りの場面を描いた細密画をじゅうたんにしたものもあって、動物柄がまったくないわけじゃないけど。後宮で使っているじゅうたんも、西域の物が多いんじゃないの?」
香々も、じゅうたんの上に座っていた。
「そういえばそうでしたね、大おばさま。じゅううたんなんか、みんなに任せっきりなんで」
「左様でございます。空州のじゅうたんは動物紋様が多くございます。植物紋様でしたら、蓮が好まれております」
工房長が、蓮紋様のじゅうたんを広げて見せた。
「仁瑜、何か買う? 釐牛(ヤク)や鶴もかわいいけど、かわいい獅子も案外いるわね」
「そうだな。勇ましい獅子も良いが、かわいい獅子も悪くないな。これをもらおうか」
「お買い上げありがとうございます」
工房長が、仁瑜と銀鈴に頭を下げた。
「みんなも買ったら? せっかくの機会だし」
銀鈴は、お供の女官や宮女たちに言った。
「いいとは思いますけど、急に高い買い物を勧められても」
「部屋全体に敷けるぐらいの大きさだと、いくらになるかしら?」
「さっきちらっと値札も見えたけど、数十万両の物もあったわよ。いくら後宮のお給金が良くても、半月、ひと月分をポンと出すのも……」
鉄道院線の三等初乗り運賃が一五〇両、町の大衆食堂でしっかりとした食事を取って、一人前七、八〇〇両から、というところ。
「じゅうたんはきれいだけど、かさばるわよね。持って帰れないわよね。公演で使う荷物も多いし」
女官・宮女たちから声が上がった。
「そこまで高価なものばかりでもございません。部分敷きの敷布団大のじゅうたんなら、一万両からございます。一枚で部屋いっぱいに敷き詰める大きな物も良いのですが、寝台や榻の前に細長いじゅうたんを敷くのもおしゃれですよ。お支払いも、後日ご送金いただければ構いません。また、郵送も可能です。じゅうたんは、実用品でもありますが、絵画でもございます。一期一会でございますので、ご縁を感じられましたら、ぜひお求めください」
工房長は、壁際に置かれた榻(とう)を指した。榻の上には中央に小卓が置かれ、小卓を挟んで座布団大のじゅうたんが二枚敷かれていた。そして榻の前には敷布団大のじゅうたんが敷かれていた。
「榻の前に敷くのもおしゃれね。この吉祥紋様なんか、いいんじゃない?」
「一万両からなら買っても良さそうね」
茘娘と棗児も、じゅうたんを触っていた。
「この鶴のじゅうたんなんかいいんじゃない?」
銀鈴は、黄土色の背景に、白い鶴が何羽も描かれたじゅうたんをなでた。
「これ、素朴ね。値段も高くないし、買おうかしら?」
女官の一人が黒、茶、白の太い横縞のじゅうたんを手に取った。座布団を横に二枚並べた程度の細長いじゅうたんだった。
「そちらは、遊牧民が織った物になります。糸も染めていない原毛でございます。作りは、悪く言えば雑、良く言えば純朴です。町の工房と違って、遊牧民は移動しておりますから、織り器も簡単なもので、柄も単純になります。移動生活に耐え得る丈夫さでございます」
工房員が説明した。
「これだったら、実家に何枚か送っておこうかしら? あまり高い物だと汚したときが怖いし。みんなも、自分用だけじゃなく、実家用にも買ったら」
銀鈴も、遊牧民のじゅうたんを手に取った。染めていない原毛のものだけでなく、雲表文化圏ではおなじみの、青・白・赤・緑・黄の五色の横縞じゅうたんを手に取った。
「これとあれをください」
銀鈴は、遊牧民のじゅうたんを指差した。敷布団大や座布団大の五色の横縞じゅうたん、簡素な虎柄じゅうたんだった
「かしこまりました」
工房長が応じた。
「銀鈴、たくさん買うのね」
「大おばさま、実家にもお土産に送ろうかと。お小遣いも余ってますし。ああ、そういえば、お手入れはどうすればいいんですか?」
銀鈴は、工房長に尋ねた。
「じゅうたんというのは、“常に使う”のがいちばんのお手入れですよ。特に、湿気が多い沿岸部や川沿いにお住まいの方が、大事に長持に入れていて、虫に食われることも多うございますから。出しっぱなしにしているほうが、虫には食われません。季節ごとに、敷く場所を変えたり、同じ場所に敷くにしても向きを変えたりすれば、傷みにくくなります。部分敷きの小さいもののほうが、敷き直ししやすいかと存じます。また、何かをこぼした場合には、硬く絞った雑巾で、叩くように拭き取ってください。お手入れについては、書いたものをお渡ししますので」
長持とは、衣装や布団と保管するための大形の箱。
銀鈴たちは、工房長の言葉にうなずいた。
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