十二 銀鈴、精進料理の晩餐に招かれるのこと
【ご注意!】
・本作の「目的」は【趣味で執筆】、作者要望は【長所を教えてください!】です。お間違えないようにお願いします。
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・「作者を成長させよう」などとのお考えは不要です。執筆はあくまでも【趣味】です。執筆で金銭的利益を得るつもりは全くありません。「善意」であっても、【新人賞受賞のため】【なろうからの書籍化のため】の助言は不必要です。
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・本作は、「鉄道が存在する中華風ファンタジー世界」がどう表現できるか? との実験作です。中華風ファンタジーと鉄道(特に、豊田巧氏の『RAIL WARS』『信長鉄道』、内田百閒氏の『阿呆列車』、大和田健樹氏の『鉄道唱歌』)がお好きでないと、好みに合わないかもしれません。あらかじめ、ご承知おきください。お好みに合わぬ場合には、無理に読まれる必要もなく、感想を書かれる必要もありません。あくまでも【趣味】で、「書きたいもの」を「書きたいように」書いた作品です。その点は十二分にご理解ください!
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長洛出発の十一日目。
御召列車は、青空のもと大小の湖のある雪原を、聖地にして古都の天陽へと走っていった。時々、方形で黒い天幕が見え、遊牧民がいた。
午後三時ごろ、銀鈴たちは最後尾の展望車に居た。銀鈴、仁瑜、香々の三人も、外の景色を楽しむために、外が見づらい車輛後端の玉座にはあえて座らずに、窓際の椅子に窓と向かい合って座っていた。
「ようやく“人の世界”に戻った感じね、銀鈴。昨日は駅の周り以外、何もなかったわね。野生の動物や鳥が居たぐらいよね。まあ、峠を登り切ってすぐ日が暮れたけど」
「そうですね、大おばさま。ちらほら小さな町や村、遊牧民の天幕もありましたよね」
香々と銀鈴はうなずき合っていた。
「失礼いたします。お茶をお持ちしました」
茘娘と棗児のほか、二人の女官が展望車へと入ってきた。
「あっ、そんな時間?」
窓と向かい合っていた銀鈴は、椅子を回転させ内側に向き直った。
「空州牧、天陽地方鉄道局長、二人とも遠慮なく椅子に座るように」
仁瑜は、仁瑜の傍らで立ったまま控えていた、空州牧、天陽地方鉄道局長に着席うながした。
「畏(おそ)れ入ります」
空州州牧、天陽地方鉄道局長は拱手して、回転椅子に腰を下ろした。
茘娘たち、給仕女官が蓋碗と、緑豆ガオ(リュードウガオ)――緑豆蒸しようかん――、栗カオ(リーカオ)――栗餡蒸しようかん――が載った小皿を配った。
銀鈴は、椅子の脇の小卓から、蓋碗を受け皿ごと持ち上げ、蓋で茶葉をよけながら、緑茶をすすった。そして、緑豆ガオ(リュードウガオ)、栗カオ(リーカオ)を口にした。
(乳茶(ミルクティー)や乳酪(バター)茶もいいけど、緑茶もいいわよね。それに、緑豆ガオ(リュードウガオ)も、栗カオ(リーカオ)も、どんなお茶にも合うのよね)
「陛下、畏れながらお見せしたいものがございますので、展望台(デッキ)へお出ましいただけませんか?」
天陽地方鉄道局長が、席を立って言った。
「そうか」
仁瑜は立ち上がって、天陽地方鉄道局長、空州牧の先導で展望台(デッキ)へ向かった。銀鈴と香々も、仁瑜に従った。
「あちらをご覧ください」
天陽地方鉄道局長が指し示した方向に、玻璃(ガラス)の小屋群が見えてきた。ごく一般的な方形の建物もあれば、古馬族の天幕のように円形の小屋もあった。
列車は速度を、ゆっくり歩くほどに落とした。
「すごい⁉」
銀鈴が声を上げた。
「あれは、野菜や果物を栽培する温室でございます。ご存じの早瓜温泉(そうかおんせん)での瓜促成栽培のように、温泉の熱を利用して、野菜や果物を育てております。雲表人はあまり野菜を食べないので、野菜を食べる代わりにしじゅう乳酪(バター)茶を飲んでおります。とはいえ、鉄道沿線では野菜も手に入りやすいので、町の住人は比較的野菜を食べることは多くございます」
空州牧が説明した。
早瓜温泉とは、長洛から西へ、普通列車で一時間強ほどの所にある温泉。古来から温泉熱を利用しての瓜の促成栽培が盛ん。
「して、何を植えているのか?」
仁瑜は、空州牧に下問した。
「この時季であれば、白菜、ねぎ、人参、大根、みかんでございます」
「野菜を食べないって、何を食べてるんですか?」
銀鈴も、空州牧に尋ねた。
「煎った大麦の粉『麦焦がし』を、乳酪(バター)茶で練って団子状にして食べるのが、雲表人の食事の最低線です。ほかには、うどんや蒸し餃子、肉まん、羊のゆで肉、干し肉といったところです。詰まるところ、麦と肉、そして乳です」
「まさに天地の恵みで、ありがたいことでございます。温室と汽車が出来る前は、野菜や果物が広く行き渡りませんでした。そのために、病を得る者、命を落とす者も多くありました。温室と汽車のおかげで、今では広く行き渡るようになりました。とはいえ、野菜や果物ももっと積極的に取ったほうが良いのですが。肉まんを二ついただくのであれば、ひとつは野菜餡にする、といった感じで」
同座してしていた法王が、合掌して、天地を拝んだ。
一八時、ちょうど日暮れの時間。天陽駅。白い石造りの駅舎だ。
五色の祈祷旗が軒につるされた歩廊(ホーム)。駅長、駅員、僧侶、尼僧、各部族の有力者が立ち並んでいた。雲表人の民族衣装を着た者は、右肩を出していた。神仏や貴人の前では右肩を出すのが習わし。
銀鈴たちは、白い街並みを通って、宿舎である光明宮(こうめいきゅう)へと向かった。
寿国の国教、天陽教(てんようきょう)の総本山の寺院にして、光明丘(こうめいきゅう)という丘全体が宮殿でもある、光明宮。その姿は、琥珀色の光で輝いていた。
室内も、夜光珠(やこうじゅ)の琥珀色の光に照らされていた。色鮮やかに、蓮華、二匹の金の魚、永遠の絆、白いほら貝、勝利の幡(ばん)、法輪、宝傘、甘露の瓶といった、吉祥紋様で装飾されていた。特に目に付くのは、極彩色の神仏画の掛け軸。
銀鈴たちは、一息ついたのち、法王主催の内々の晩餐に臨んでいた。あらかじめ「君臣の礼は不要」と言っておいたので、席次も「君臣主従」の“天子南面――皇帝が南に面し北に座る。臣下は北に面し、南に座る――”ではなく、「賓客と亭主」になっていた。銀鈴、仁瑜、香々は賓客の席である東面――東に面し西に座る――し、亭主の法王は西面――西に面し東に座る――していた。
まず、先付けとして、大根のみそ漬け、煮豆が出された。宴席では、最初に作り置きできる冷菜を出すのが習わし。
前菜は白菜と厚揚げ豆腐の甘酢炒め、こんにゃくと干し椎茸の豆板醤(トウバンジャン)炒め。
「ここまではお寺のお料理ですね」
前菜を食べ終わった銀鈴はうなずいた。
「精進料理といえば、豆腐にこんにゃくだからな」
仁瑜が相づちを打った。
「あら、そうなの?」
香々が相槌を打った。
「お楽しみはこれからでございます」
法王が笑みをたたえた。
干しきのことツバメの巣の羹(スープ)。
「えっ、お寺なのにツバメの巣の羹(スープ)ですか?」
「祭祀の際には精進料理になることもあるが、ツバメの巣など出た記憶はないが?」
羹(スープ)を見た、銀鈴と仁瑜は首をかしげた。
「元日の宴席で出たのと、見た目も味もそんなに変わらないわね。しいて言えば、きのこが入っているぐらいかしら」
香々がツバメの巣の羹(スープ)を口に運んだ。
「そうですね。変わりませんね」
「確かに」
銀鈴、仁瑜、香々の三人はうなずき合った。
給仕の僧侶によって、前菜と羹(スープ)の器が下げられ、主菜が円卓の中央に置かれた。
「あっ、羅漢斎(らかんさい)! ここまであまりお野菜が出なかったから、ちょうどいいわ」
銀鈴が、羅漢斎が盛られた大鉢を見て声を上げた。
羅漢斎とは、白菜や青菜などの葉野菜、れんこん、くわい、大根、人参、馬鈴薯(じゃがいも)、甘藷(さつまいも)、里いもなどの根菜、干し椎茸などのきのこ類、豆、揚げ豆腐、凍り豆腐、麩、ぎんなん、こんにゃく、春雨など、十種類以上の材料を、醤油主体で味付けした炒め煮。青菜の緑色、人参の橙色、ぎんなんの黄色、紅なつめの赤色が鮮やかだ。
「元日の宴席にも出た、あれね。精進料理だったの? ここのところ、あまりお野菜を見なかったわね」
香々が相づちを打った。
羅漢斎は代表的な精進料理。肉や魚は使わない。
「そうですよ、大おばさま。元日の宴席でも、厨娘 のおばちゃんが、お肉やお魚だけじゃなく、野菜料理もいるわね、って言ってました。昨日の白菜と小海老に蒸し饅頭のように、お饅頭や餃子になっていて、皮に包まれていて、お野菜の姿が見えないことも少なくなかったですからね」
銀鈴は、他の料理に目を移した。
アワビの姿煮、烤鴨(ローストダック)、野菜と干しきのこの餡がかかった鶏のから揚げ、豚の角煮が円卓に並んでいた。これらの料理は、色の濃淡はあっても、茶色が主体だった。先の前菜、羹(スープ)を含めて、線の一本、点の一つ入っていない、青緑がかった乳白色の青磁の器に盛られていた。
「それは良うございました。他のお料理も」
法王が勧めた。
「お寺じゃお肉やお魚は食べないんじゃ? いいんですか?」
銀鈴が疑問を口にした。
「まあ、とにかくお召し上がりを」
法王は、料理を勧めた。
「じゃ、いただきます」
法王に勧められるままに、銀鈴は豚の角煮を、切れ込みが入った花捲(パン)に挟んで食べた。そして、ひと口大に切り分けられて大皿に盛られた烤鴨(ローストダック)を、甜麺醤(テンメンジャン)をぬって焼いた小麦の薄皮に包んで、食した。また、鶏のから揚げも口にした。
花捲とは、具を包まずに、肉まんの生地を花に見立てて渦巻き状に巻いた掌大の蒸し麺麭(パン)。
「これ、アワビよね?」
香々は、アワビの姿煮を口にした。
「何か、お気付きになりませんか?」
法王は、一同を見渡して問うた。
「アワビは、何度も食べたことあるけど、食感も、味も、別に変わったことはないわね」
「ひょっとして、今までのお料理全部が、“もどき料理”ですか? 本で、ちらっと読んだことがあるんですが。食べた感じはお肉と変わりませんでしたね。羅漢斎にも、お肉が入っていたようにも感じましたが」
「ご名答です、皇后さま。ツバメの巣の羹(スープ)は大根を糸のように細く切り、春雨と合わせて、蒸して、干しシイタケなどの精進だしの羹(スープ)に入れた“仮燕菜(つばめの巣もどき)”です。羅漢斎のは凍り豆腐やお麩を使った肉もどき、アワビの姿煮は肉厚の“干しシイタケのアワビもどき”、烤鴨(ローストダック)は重ねて揚げた“湯葉(ゆば)の烤鴨(ローストダック)もどき”、鶏のから揚げは凍り豆腐の“鶏もどき”、豚の角煮は“お麩の豚もどき”でございます。皆さまには、ここまでの道中では、お肉、乳酪(バター)、乳中心のお食事で、胃のほうもお疲れと拝察し、精進料理をご用意いたしました」
法王は納得の表情でうなずいた。
「お肉やお魚がない、精進料理しか食べられなくても、これなら物足りないことはないですね。味もしっかりしてますし」
銀鈴は、法王に笑顔を向けた。
「銀鈴の言う通り、肉を食べているのと変わらないな。肉は嫌いではないし、美味ではあったが、食べ付けぬ遊牧民の食事が続くと、胃が疲れてしまった。精進料理はありがたい。法王の策にしたられた」
微苦笑の仁瑜も料理を口に運んだ。
「寺と申しても、常に精進料理しかいただいているわけでもございません。普段はお肉もいただいております。ただ、祭祀によっては斎戒のため、肉食を避け、精進料理のみをいただくことがございます。精進料理といっても、何も祭祀や寺参りのときに限らず、胃がお疲れの際にもお取りになってはいかがですか? 生臭物を用いませんので、胃には優しゅうございます」
法王は、合掌して銀鈴や仁瑜に会釈した。
「そうだったんですか」
銀鈴は、法王の言葉に意外そうな顔をした。
「じゃ豚、いやお麩の角煮をいただこうかしら」
香々は、そう言った豚の角煮もどきを、花捲(蒸しパン)に挟んで食べた。
「甘い! でも、しつこくないわね。これなら私でも食べられるわね。銀鈴、豚肉って、こんな味なの?」
香々の出身地、火昌の習慣では、豚肉は穢れたものとして食べないのが一般的。
「はい、そうですね。豚肉を使った角煮と、食感も味も変わらないですね。知らないし人が食べたら、分からないですね」
「そうなのね。それなら烤鴨(ローストダック)も、“もどき”なら一年じゅう食べられるじゃない。本物は、秋から春までしか食べられないのよね。まあ、本物と違って、目の前で、皮を削いで貰えないのは、残念だけど。精進料理っていうと、やけに味が薄いことがあったけど、今日のはしっかりとした味で、言われなければ普通の料理と変わらないわね」
香々が言う「烤鴨(ローストダック)」とは、皮に水飴を塗って家鴨(あひる)を丸焼きにしたもの。水飴を塗って、一昼夜吊るし干しにするため、肉が腐りやすい夏場は作らない。
「精進料理の味が薄かったのは、何かの祭祀のお料理ではありませんでしたか、太后様?」
法王が、香々に尋ねた。
「そういえば、祭祀のときの食事だったわね」
「祭祀によっては、精進潔斎の一環、すなわち身を清め、欲を断つ意味で、お料理も最低限の味付けしかしていない場合もございます」
「そうなの」
香々は、そう言いながら、青磁の蓋碗で黒茶を飲んだ。
「あれ? 茶葉は入ってないのね。青磁の青と、お茶の茶褐色が良く映えるわね。青磁の蓋碗は、見た目はいいんだけど、緑茶だと蓋碗と同化して、お茶の色が分からなくなるのよね。それに、やっぱり無地がいいわね。水墨画のように、釉薬の濃淡で模様を描いているのも悪くないけど」
「黒茶なのに、薬っぽくないですね。薬っぽいのも嫌ではないんですが」
香々に続いて、黒茶を飲んだ銀鈴が言った。
「煮出しておりますので、薬っぽさはなくなります。それに、緑茶と違って、黒茶はお湯に茶葉をつけっぱなしにすると、苦くてとても飲めたものじゃありません。こちらでは、黒茶と紅茶は煮出すのが普通です」
法王が説明した。
給仕の僧侶が、蒸籠を持ってきた。
蒸籠の蓋を開けられた。中からきんちゃく型の蒸し餃子が現れた。見た目は、ひと口肉まんにも近い。
「貝が入った蒸し餃子と変わりませんね」
「お肉の餡とあまり変わらないわね。鶏肉餡に近いかしら?」
銀鈴と香々が、蒸し餃子を口にした。
「はい。こちらの餃子の餡も、“肉もどき”“貝もどき”です。豆腐やお麩をつぶして肉に見立てております。貝のほうは、椎茸の軸やこんにゃくを細かく刻んだものです」
法王が、餃子の餡について説明した。
「お豆腐やお麩で、こんなにお肉そっくりになるんですね」
銀鈴はうなずいた。
「左様にございます。精進料理は単に生臭物を避けるだけでなく、肉や魚の見た目や食感を、精進物だけでいかに再現できるか、も妙の一つでございます。特に、豆腐やお麩、こんにゃくは重宝いたします。それでは皆さま、麦焦がしをお召し上がりになったことは、ございますかな?」
銀鈴たちが、蒸し餃子を食べ終えたのを見て、法王が問うた。
「いえ、ありませんが。本でも読みましたし、途中で話も聞いたのですが」
銀鈴が答えた。仁瑜と香々もうなずいた。
「ご用意しておりますので、一度お試しください」
法王がそう言うと、給仕の僧侶が茶碗に入った麦焦がし、茶海(ピッチャー)を各自に配り、茶海(ピッチャー)に乳酪(バター)茶を注いだ。
「茶海(ピッチャー)の乳酪(バター)茶を、少しずつ麦焦がしに注いで、指でこねて、団子状にして、お召し上がりください。くれぐれも、乳酪(バター)茶を注ぎ過ぎないでください。麦焦がしがドロドロになって、固まりませんので。慣れていれば、茶碗で先に乳酪(バター)茶をいただいて、麦焦がしをこねる分だけ残しておきます。そして、茶碗に麦焦がしを入れて、こねます。ただ、慣れない方だと、調整が難しいので。麦焦がしに、乳酪(バター)茶を注ぐほうが簡単です」
「餃子や肉まんの皮作りと同じですね」
銀鈴は、箸を手に取った。茶海(ピッチャー)の乳酪(バター)茶を少しずつ茶碗に注ぎながら、揃えた箸で麦焦がしを混ぜた。茶碗の麦焦がしは、だんだん粒状にまとまってきた。
「こうなれば、指は汚れないわよ、仁瑜」
銀鈴は、麦焦がしを指でこね始めた。
「そうか」
仁瑜も、銀鈴の真似をして、麦焦がしをこね始めた。
麦焦がしが団子になったところで、銀鈴が口にした。
「お口に合いますかな? 粉乾酪(チーズ)、トウガラシ粉、塩、砂糖を付けても、よろしいかと」
「香ばしくておいしい」
「なかなか滋味があるな」
銀鈴と仁瑜は、まずは何もつけずにこね終わった麦焦がしの団子を食べた。その後は思い思いに粉乾酪(チーズ)、トウガラシ粉、砂糖をつけて食べた。
宴席は進み、食後の菓子や果物が出された。
「あっ、みかん」
銀鈴は、朱漆(うるし)の高坏(たかつき)に盛られた生のみかんに手をのばし、皮をむいて、口に入れた。ほかの高坏には乳酪(バター)で揚げた麻花(かりんとう)、干し柿、干し桃、干しあんず、干しぶどうも盛られていた。
高坏とは、一本脚の上に丸い皿を載せた台。
「甘い!」
「こちらのみかんは、先ほど汽車の中からご覧になった、温室農園で今朝方採れたばかりの物でございます」
法王がみかんの説明をした。
「甘いが、くどくないな」
「甘さと酸味の具合がちょうどいいわ」
仁瑜と香々も、みかんを食べた。
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