二  銀鈴、屋外公演の相談をするのこと

【ご注意!】

 ・本作の「目的」は【趣味で執筆】、作者要望は【長所を教えてください!】です。お間違えないようにお願いします。


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 ・ご自身の感想姿勢・信念が、本作に「少しでも求められていない」とお感じなら、感想はご遠慮ください。

 

 ・本作は、「鉄道が存在する中華風ファンタジー世界」がどう表現できるか? との実験作です。中華風ファンタジーと鉄道(特に、豊田巧氏の『RAIL WARS』『信長鉄道』、内田百閒氏の『阿呆列車』、大和田健樹氏の『鉄道唱歌』)がお好きでないと、好みに合わないかもしれません。あらかじめ、ご承知おきください。お好みに合わぬ場合には、無理に読まれる必要もなく、感想を書かれる必要もありません。あくまでも【趣味】で、「書きたいもの」を「書きたいように」書いた作品です。その点は十二分にご理解ください!

 

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  後宮の木々が赤や黄色に色付いた、秋。

 銀鈴は、茘娘と棗児と一緒に、イチョウの木の下で銀杏を拾っていた。

 後宮には西域庭園に限らず、“食べられる実”を付ける木が多く植えられていた。この時季なら、イチョウ、栗、梨、柿の木が代表格。

「だいぶ集まったわね。これも、太祖さまのおかげよね」

 銀鈴は、籠の中の銀杏を見て、うなずいた。

 太祖とは、寿国の初代皇帝。

「銀杏、うするの?」

「一部は、塩煎りでおやつにして、残りは栗と一緒に肉粽(にくちまき)にしようかと」

 銀鈴は、棗児に答えた。

 肉粽とは、醤油を主体にした味付けで、もち米を肉やきのこなどの具と一緒に、竹の皮で三角に包み、蒸し上げたもの。

「そうよね、この時季は栗もいっぱい採れるし」

 茘娘は懐中時計を見た。

「銀鈴、棗児、そろそろ舞踏の稽古の時間よ」

「あら、そんな時間? じゃ行きましょ、茘娘、棗児」

 銀鈴は、茘娘と棗児と一緒に稽古場へと向かった。


「あら、三人ともギリギリ間に合ったわね。良かったわ」

 銀鈴は、香々から茘娘、棗児とともにそう声をかけられた。

「すみません。銀杏を拾うのに夢中だったので」

 銀鈴は、茘娘と棗児と一緒に香々に頭を下げた。

「まあ、この時季はたくさん採れるけどね」

「確かに銀杏はおいしいけど」

「食い意地張ってるわね」

 周りから失笑が漏れた。

(……ちょっとみんな、笑わないでよ)

 銀鈴はうつむいた。

 香々が、一回手を叩いた。

「じゃ、時間だし始めましょ」

「よろしくお願いします」 

 銀鈴は列に並んで、他の女官・宮女たちと声を合わせて香々にあいさつをし、一礼した。

「今日は、この間の続きで傘踊りの稽古をしましょう」

 香々がそう言うと、銀鈴たちは色とりどりの油紙の傘を取り、香々の手拍子に合わせて、傘を大きく振り、閉じたり、開いたりしながら、十字、円型、菱形、八の字型と次々と隊形を組んでいった。

「だいぶ息が合ってきたわね。みんな、この調子よ。かわいいわよ」

 香々がうなずいた。

「今日はこれぐらいにしましょう」 

「ありがとうございました」

 銀鈴たちは、整列して、声を揃えて一礼した。

「お疲れさまでした」

 香々も返事をした。


 数日後、休憩室。この宮の軒には玉すだれのように、皮が向かれた柿が紐につるされて、干されていた。

 銀鈴が、卓を囲む女官・宮女たちの前に置かれたおろししょうが入りの蓋椀に、やかんから温めた乳を注いでいった。

「あら、お茶じゃなくて、乳なの?」

 香々は首をかしげて、蓋椀を持ち上げようとした。

「大おばさま、動かしちゃダメです! そのまま十分(じっぷん)置いておかないと」

 銀鈴は声を張り上げ、香々を制止した。

「えっ、何で?」

「それはその時のお楽しみです。とにかく蓋椀には触れずに待ってください」

 茘娘が卓に炒り銀杏の木鉢を置き、棗児が煮出した黒茶を皆の湯呑に注いで回った。

「年明けの聖地巡幸の演目なんだけど、翠塩湖での古馬族主催の宴席のお礼のはどうする? 傘踊りなんかどうかと思うけど?」

 銀鈴が、塩煎り銀杏をつまみながら、卓を囲んだ女官・宮女たちに問うた。

 なお、この塩煎り銀杏は、数日前に銀鈴が茘娘と棗児と一緒に採って、数日天日干して、煎ったもの。

「あと、翠塩湖の公演は、日程の都合で夜なのよ。しかも、天幕泊まりなんで、場所が取れなくて、舞台も屋外なのよね。寒さのことも考えないと。冬の夜で、しかも標高も三〇〇〇米(メートル)だから、結構寒いのよね。この気温だと、水を張った桶をひと晩外に出していたら、凍っちゃわうよ」

 銀鈴は、卓に広げた書類を指差した。

「傘踊りでいいとは思うけど」

「寒さのことは考えておかないと。衣裳は肌の露出が少ないほうがいいわね」

「それなら大袖(おおそで)の衣裳はどう?」

「屋外の夜なら、元宵節(げんしょうせつ)の灯篭のように、光の演出はどう?」

「光の演出なら、光を反射するツルツルした衣裳や、金や銀の首飾りや冠が映えるんじゃない?」

 卓を囲んだ女官・宮女たちは、その書類をのぞき込んで、口々に意見を述べた。

「元宵節? 飾り立てられた灯篭を見て回るお祭りだったわね? いつのお祭りだったっけ? 長洛に来てからも、玉雉にいじわるされるわ、讒言されて永巷(えいこう)に入れられるわで、ちゃんと見る機会はなかったわね」

 香々が尋ねた。

 永巷とは後宮の牢獄のこと。

「大おばさま、元宵節は正月十五日の本祭を中心に、十三日から十七日まで開かれます。来年は見物しましょうよ。後宮でも飾りつけるし、街でも華やかですよ。聖地巡幸の出発は一月の十八日ですから」

「それならちょうど良かったわ。楽しみね、銀鈴」

「そうですね。仁瑜も、越先生も、元宵節を見られるように考えてくれたんじゃないですか」

「でも、元宵節の翌日出発じゃ、せっかくの元宵節の灯篭も、演出の参考になるかしら?」

「だいじょうぶじゃないですか? 灯篭はかなり早くから準備していますから」

「そうよね、茘娘。大おばさま、準備段階から灯篭を見て回っていれば、参考になると思いますよ」

 銀鈴は、茘娘の言葉にうなずいた。

「そうね。準備段階から見て回りましょう」

「光の演出? 良さそうですね。」

「そうそう。それなら、傘を持って踊るよりも、造形提灯を持って踊っては? そのほうが、夜だし幻想的ですよ」

 銀鈴、香々、茘娘のやり取りを受けて、他の女官や宮女たちも発言した。

「ぞうけいちょうちん?」

 香々が首を傾けた。

「香后さま、造形提灯とは棒の先に金魚や動物、植物などをかたどった火袋――本体――を取り付けた提灯です。元宵節では造形提灯をもって、練り歩いたりもしますね」

「茘娘、ありがとう。良さそうだけど、火のついた提灯を持って踊るのは危ないかしら?」

「今はろうそくの変わりに、夜光珠(やこうじゅ)を使うこともありますから」

 銀鈴は、香々の疑問に答えた。

 夜光珠とは、光を発する珠状の宝貝(パオペイ)――法具――。ろうそくや油皿に変えて提灯、行灯、灯篭の光源として用いられる。

「火を使わないのね? それなら振り回しても安全ね」

 香々はうなずいた。

「じゃ、傘踊りじゃなくて、提灯踊りにしようと思うけど、どう?」

 銀鈴は、卓を囲んだ女官・宮女たちに問いかけた。

「いいんじゃないですか」

「昼なら傘でしょうが、夜なら提灯のほうがいいですね」

「賛成です」

 女官・宮女たちが賛意を示した。

「暗闇に、光かあ。幻想的で良い演出になりそうね」

 香々も、皆を見回して、黒茶を口にした。

「煮出した黒茶はおいしいわね、銀鈴。蓋椀や急須で淹れて、何煎も重ねるのも味や香りが変わって面白いけど、最初のうちは少し薬臭いのよね。それも嫌な感じじゃないんだけど」

「そうなんですよね、大おばさま。何煎も淹れて、味や香りが変わっていくのが面白いんですよね。今のように大人数で飲むなら、蓋椀でチマチマ淹れるより、煮出したほうが簡単ですからね。黒茶だと、十煎どころか、二十煎ぐらい淹れることができることもありますから。緑茶だと、五、六煎ぐらいですから」


「あっ、そろそろいいんじゃない? 大おばさま、蓋椀の蓋を取ってください」

「ああ、忘れてたわね」 

 香々は、蓋椀の蓋を取った。

「そうです。うまくいったみたいですね。そっとレンゲを載せてみてください」

「こう?」

 銀鈴に言われた通りに、香々はレンゲを蓋椀の中の白い塊に載せた。

「沈まない⁉ 何で固まってるのよ⁉」

「これが“姜汁撞奶(しょうがミルクプリン)”です。すりおろしたしょうがに、温めた乳を注いで、十分(じっぷん)ぐらい静かに置いておくと、固まるんです。南のほうで、辛い物が苦手なお婆さんが、お医者さんから煎じたしょうが汁を飲むように、って言われて、砂糖を加えて、どうせなら精がつく乳で煎じようとして、できたのがこれだそうですよ」

「ずいぶん簡単に出来るわね、銀鈴。朝餉(あさげ)に出てくる豆腐脳(ドウフナオ)や、おやつの豆花(ドウホワ)のような感じ、なめらかね。しょうがの香りもいいわね」

 銀鈴の口上を聴いた香々は、姜汁撞奶(しょうがミルクプリン)をすくって口にした。

 豆腐脳(ドウフナオ)と豆花(ドウホワ)はともに、半固まりの豆腐。豆腐脳(ドウフナオ)は塩や醤油で味をつけた餡をかけ、豆花(ドウホワ)は砂糖や蜜をかけて甘くして食べる。

「砂糖入りの温かい乳をおろししょうが入りの器に注ぐだけですから。お茶を淹れるのとそんなに変わりませんよ。ちょっと甘いものが食べたくなったら、すぐ作るわよね。ねえ、みんな」

「そうです」

 卓を囲んだ女官・宮女たちもうなずいた。

「しょうがや乳の種類によってはうまく固まらないこともあるんです。そのときは、ただの砂糖としょうが入りの温かい乳になっちゃいますが」

 銀鈴も、微苦笑しつつ、姜汁撞奶(しょうがミルクプリン)を口にした。

「それはそれで、おいしそうね」

「そうですね」

 銀鈴は、香々の言葉にうなずいた。

「休憩中、おじゃましますよ」

 大きな包みを持った忠元が、同じく大きな包みを持った宮女と一緒に、休憩室へと入ってきた。

「どうぞ」

 銀鈴は応答し、卓を囲んでいた茘娘と棗児が、卓の上の場所を開けた。

「じゃ、失礼します」

 忠元が、卓の上に包みを開き、小冊子を銀鈴、香々、休憩中の女官・宮女たちに配り、生地や毛皮の見本を置いた。

「年明けの聖地巡幸で行く、翠塩湖の古馬族部族長から、陛下と、銀后、香后さまに『遊牧民の衣裳を献上したい』との申し出がありました。なので、衣裳係に採寸してもらってください」

「へー、そうなんですか?」

 銀鈴と香々は、配られた『古馬族衣裳商品目録』を開き、見本の生地と毛皮を手に取った。

「毛皮なのね? これ、上質なものよ。銀鈴、触ってごらんなさい」

「大おばさま、ほんとふさふさですね」

「それから、今配った小冊子は『古馬族衣裳商品目録』です。古馬族とのお付き合いがあるんで、皆さんも無理のない範囲で、毛皮の頭巾や襟巻、手袋だけでも買ってもらえませんか? 馬に乗る機会もあるので、馬に乗るために作られた衣裳はあったほうがいいかと。それに、古馬族の衣裳を身に着けるのは、先方への友好を示すことになりますから。長袍を着ればそれにこしたことはありませんが、頭巾、帽子、手袋、襟巻だけでも構わないので。聖地巡幸の行先は寒いところなので、都合が良く、頭巾、襟巻、手袋といった小物だけでも役立ちますよ」

 忠元が女官・宮女たちにも、古馬族の衣裳を勧めた。

『古馬族衣裳商品目録』には、色付きの挿絵で、足首丈の長袍、頭巾、帽子、膝丈の長靴、襟巻、手袋、装飾品の首飾りが載っていた。

「目録に載っているものと、持ってきた見本の生地と毛皮は市販品なので、献上品なら最上級の絹と毛皮で作ってくれるでしょう。皇后、太后としての臣下引見用で、かなり豪華なものになりますからね。お二人とも、おしのび用に市販品も買っておきます? 冬の普段着にもちょうど良いのでは?」

 忠元は言葉を続けた。

「そうですね。この桃色かわいい!」

「あらおしのび用? 一、二着買ってもいいんじゃない、銀鈴?」

「そうですね、大おばさま。お小遣いで買えるなら、ですが」

 銀鈴と香々は見本をあさり出した。

「越先生、遊牧民の衣裳の色は、何でもいいんですか?」

 棗児が、軽く手を挙げた。

「色は何でもいいですよ。官等に合わせなくても構いませんので」

 忠元がそう答えた。女官・宮女たちは、それぞれの官等に合わせた色の朝服――お仕着せ――を着ていていた。朝服の色は、高等官である女官が、一品―三品が紫色、四、五品が緋色、六品―九品が緑色。普通官の宮女は、一律で青色。

「そうなんですか。じゃ、好きな色を選べますね。ねえ茘娘、色はどうする?」

 棗児は忠元に答えて、隣の茘娘と見本の生地を手に取った。

「青色はきれいね。緋色も鮮やかだし、緑も悪くないわね」

「茘娘、棗児、どうする? この頭巾、あったかそうでいいわね」

 銀鈴は見本の頭巾を、茘娘と棗児に手渡した。頭巾は表面が絹で、内側が毛皮で出来ていた。

「いいですね」

 茘娘は、見本の頭巾をかぶってみた。

「越先生、みんなと話したんですが、翠塩湖での公演は、衣裳は肌の露出が少ない大袖で、元宵節の灯篭のような光の演出をしてはどうでしょうか?」

 銀鈴が、忠元が来る前のやり取りを伝えた。

「それで構いませんよ。光の演出は良さそうですね」


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