そんな馬鹿な。
彼女が見つめていたのは、あの夏祭りが行われていた神社だった。
今は夜が深いこともあり、石段がぼんやりと見えるだけに過ぎない。懐中電灯を向ければもう少しはっきり見えるのだろうが、見慣れた光景を今更しげしげと観察する気にはならない。
それよりも、何故真由子がこんなところに居るのかが、私にとっては問題だった。あの時あんなに探しても見つからなかったのに、何故今さら姿を現し得たのか。
そして、私が気になった点はもうひとつ。
無邪気に走り寄って抱きつく真由子。
その背格好は、18年前と寸分違わぬものであった。
失踪時、彼女は7歳。
その姿のまま18年を過ごすというのは、どう考えても不可能だ。
「……」
真由子は私の顔を見上げてニコニコしている。特に何の悪気も感じない、あの頃の彼女そのままだ。
「……」
私がかける言葉を失っていると、不意に彼女は口を大きく開けてきた。
「……?」
一瞬何事かと思ったが、すぐに思い至った。
真由子は歯磨きを終えた後、母にちゃんと磨けていたかどうかチェックを受けていた。当時、彼女の歯磨きはかなり雑なものだったため、母との間でそのような取り決めが為されていたのだ。
そうか。
この子は私の事を、母と勘違いしているのだ。
確かに、私はどちらかというと母親似だ。
時間が止まっていたとしか思えない真由子の姿を考えると、そう思う方が自然だった。
「ん?どれどれ?」
母がやっていたように、私は彼女の口を覗き込む。
すると、そこから大量のムカデ
「きゃああ!?」
私はそこで目が覚めた。
見えている景色が一変し、混乱を誘う。
とりあえず、明るい。夜ではなさそうだ。
私の体は横になっているらしかったので、とりあえず起こしてみた。
「……あれ?」
そこは、私の部屋ではなかった。見覚えのある部屋のはずなのだが、残念ながら今の私のとっちらかった頭では思い出すのが難しかった。
横になっていたのは、ベッドではなかった。床に直接布団が敷かれていて、そこに私は寝ていたのだ。
ふと見ると、私の隣にはダブルベッド。
「あー、お姉ちゃん起きたー」
そうだ、思い出した。
ここは仁美がトヨ君と一緒に住んでる部屋だ。
どうやら私は、ここで一晩を過ごしたらしい。そんな記憶は全くないが。
「ハイ、とりあえずコレ飲んで」
仁美が手渡して来たのは、一杯のブラックコーヒーだった。
二日酔いでギスギスする頭を片手で押さえながら、空いている方の手でコップを受け取る。
苦味が、寝起きには心地よい。
「お姉ちゃんも、もういい年なんだから、あんな所でゴロ寝するのなんかやめてよねー」
何も言わずにコーヒーをすすっていると、仁美はそんな事を言い出した。
ああ、そうか。
結局、あそこで寝ちゃったんだ。
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