疑問
カルディア魔法騎士学院は、騎士養成学校という名目もあり、最低限、剣や槍と言った武器の扱いを学ぶ場でもあります。
いくらわたくしたちが魔法を扱えるとはいえ、魔力は有限。ずっと使用し続ける、何てことはできませんからね。
「……? どうされましたか、お嬢さま?」
一部、例外もいますが……。本当にエリス。世が世なら、絶対何かの物語で主人公張ってるでしょう。
何せ、あの娘。常日頃から時間停止、なんて尋常ならざる消費の魔法を使ってるから、期せずして魔力増加の鍛練になってるんですよね。
本当にこの娘が原作本編に出てたら、たとえマリアが協力してたとしてもクロエは勝てなかったでしょう。絶対、プレイヤーからチート扱いされてましたよ。
そ、それはともかくとして。今はともかく、授業に集中しなければ。いくら刃を潰してあるとはいえ実剣を使っている以上、万が一。というのはあり得ますから。
……それに、相手にも失礼ですからね。
「――姐、じゃなかった。アンネローゼさま?」
そう、今わたくしが相対しているのはドラクロワ伯爵家の令嬢、ソフィー。彼女もわたくしと同じように刃が潰された剣を持ち、構えています。剣道で言うところの中段の構え、でしょうか。こちらでも一般的な構えだと言えるでしょう。
対してわたくしは片足を後ろへ下げ、胴体をずらすとともに剣の刃を後ろへ向ける、いわゆる脇構えをとっています。
「すぅ、はぁ……」
呼吸で己を落ち着けつつ、相手を、ソフィーを観察します。中段の構え、ということは彼女が取りうる攻撃は振り上げての打ち下ろしか袈裟懸け、もしくは突き。対して、わたくしのこの構えから繰り出せるのは切り上げ、もしくは胴払い、といったところ。さて、どうしたものか。
こちらから打ち掛かっても良いのですが……。しかし本来、脇構えとは奇襲に用いるものです。と、言うのも刃の切っ先を身体を使って隠すことで、次の一手を読ませない。というのが本来の使い方。これが、先の読み合いをするなら問題ないのです。ですけど……。
「えぇい、ままよ……!」
痺れを切らしたソフィーは剣を振り上げ、大上段に。……そう、相手が端から読み合いをするつもりがないのなら、あまり牽制にもならないのです。しかも振り下ろしと切り上げでは重力や運動エネルギーを十全に扱える振り下ろしの方が有利。だけど……!
「分かっているなら、それ込みで対処すれば良いだけ……!」
――ギィ……ン!
鉄が打ち据える音がなりました。でも――!
「な、ぁ……。しまっ――」
ソフィーの手から離れて、飛ばされる剣。くるくる、と回り土へ突き刺さります。その軌跡を目で追うソフィー。その隙は逃さない!
がしり、と首を掴み押し倒す。そして、そのまま剣を首筋に添えてチェックメイト!
「……かはっ! まいり、ました……」
……ふぅ。降参の言葉を聞いて、首から手を離します。
解放されたソフィーは不満とも、苦笑とも取れる反応をしながらポツリ、とこぼしました。
「ほんと、姐御ったら容赦ねぇよ……」
本来、こんなことは趣味じゃないのだけど、少しからかってみようかしら?
「あら? ソフィーは接待されるのがお好み?」
わたくしの指摘を受けたソフィーはむくり、と起き上がると降参、とばかりに両手をあげる。
「……まさか。アンネローゼさまだって、オレがそんなこと望まないって、分かって言ってるでしょ」
「それはそうよ。そう言われたくないんだったら、もっと精進しなさいな」
「……本当に容赦ない」
わたくしとの舌戦でも敗けを認めたソフィーは自嘲ぎみに笑いました。
さすがに、これだけでは可哀想かな……?
少し、アドバイスをすることにしましょう。
「ねぇ、ソフィー? 貴女、昔からだけど少し力に頼りすぎよ。いくら、魔力で身体能力を強化できるとはいえ、男の騎士と打ち合えば力負けする可能性は十分あるわ」
そう、いくら魔力を操作することで力を、能力をあげることが出来たとしても限界があります。さらに言えば、男だって魔力を扱えれば条件は同じ。元の身体能力が高い男性の方に軍配が上がるでしょう。
もちろん、そこにも練度や魔力量などと言った外的要因もあります。そして、そのことに関してソフィーは天賦の――天稟と言っても良い――の才があります。並の男ならば、苦もなく一蹴するでしょう。
ですが、それはあくまで同格、あるいは格下への話。世の中、戦いに愛された、などと言われる戦闘の申し子は少なからず存在します。それこそ、我が異母姉妹のクロエしかりです。
そんな者たち相手に真正面からぶつかり合ったとして、勝てるわけがありません。ならば、どうするか。それが先ほど、ソフィーとの模擬戦で示したこと。
あえて言葉にするなら、柔よく剛を制す、です。
そもそも、先ほどの打ち合いの真相はソフィーが打ち下ろしてきた斬擊をわたくしが円を描く動きで掬い、そのまま運動エネルギーを反転させた、というもの。
その急な変化に彼女が気付くことが出来ず、手放してしまった、というのが流れです。
そしてこれは、力を必要としない技術。万人が扱える可能性があるものです。それは才能のあるなし、に関係ありません。技術、とはそういうものですから。
「貴女は自身の
その言葉に、彼女は参った、と言わんばかりに頭を掻いています。
そもそも、ドラクロワ伯爵家もまた軍事の家系。
彼女の御家は主家をエルミナ侯爵家、としています。……いまさらですけど、なぜ原作ではわたくし、アンネローゼ・フォン・ハミルトン。ハミルトン公爵家令嬢の取り巻きになっていたのでしょうか?
よくよく考えると、原作での取り巻きは全員エルミナ侯爵家麾下でしたし……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます