第8話 知らない食べ物
昨日眠るまでに時間がかかったせいで、朝起きるのが遅くなってしまった。
ふわぁとあくびを一つして、朝ごはんを準備する。
ホカホカの白米をお椀によそって、鍋にあったわかめの味噌汁を器にすくう。
おかずは納豆と、ラップのかかった目玉焼き。
おじいちゃんもおばあちゃんも畑仕事に精を出しているのか、見当たらない。
静まり返った空間で、いただきますと一人食べ始めた。
――――――――――
ルファと約束した時間はお昼後だったので、まだ時間がある。
部屋に戻り、バッグの中に入れていた携帯型ゲーム機を起動する。
わたしが最近ハマっているのは、とあるRPGゲームだ。
畳に寝転がってキャラクターをぽちぽちと操作する。
ダンジョンにもぐってモンスターを魔法で倒して、地道にレベルを上げていく。
ゲームで魔法を使うと、昨日のことを思い出す。
一晩経ってもあの感動が薄れることはなかった。
今でも鮮明に思い出せる。
空を飛んだこと、マグカップが宙に浮いたこと。他にも、ルファが披露してくれた魔法の数々を。
どれもわたしの目には奇跡に見えた。
きらきらと光っていて、不思議で。
魔法ってこんなにも心が動くものなのだとわたしは強く思った。
やや強めのモンスターを倒した直後だった。
ピロローンと特殊な音が鳴った。新しい技を覚えたみたい。
氷のつららを出す魔法だ。
範囲攻撃なので、敵がたくさんいるときに役立ちそう。
早速、モンスターが集まっているところで使ってみる。
つららが三つ生成されて、三体のモンスターにダメージを与えた。
魔法を使うにはMP(魔法ポイント)を使うのだが、この魔法は消費がやや大きい。強いなりにデメリットもあるということだ。
そういえばルファの使う魔法にも、使用回数や体力のようなものがあるのだろうか。
今日会うときにきいてみようかな。
――――――――――
昼食を食べ、昨日と同じように林の中に入る。そして木のうろを突き進んでいく。
二度通った道なので足取りは軽い。こんなに近かったっけ、と拍子抜けしてしまうほどあっさりルテンシアに着いた。
ルテンシアは日本と違って季節が冬だ。さっきまであんなに暑かったのに、今はブルブルと震えるくらい寒い。
ルファに借りた上着を羽織ると、寒さが少し軽減された。
白い息を吐きながら、一面に展開される雪景色を眺める。
静かで、ここだけ時がゆっくり流れているように錯覚する。
「マナー!!」
遠くの空から声が聞こえた。
見上げると、ルファがホウキで空を飛んで近付いてくる。
わたしの手前まで来て、「よっ、と」言いながらふわりと着地する。
「昨日ぶり、ルファ!」
「ちゃんと会えてよかったよぉ〜」
ルファはわたしに抱きついてきた。
ちょっとびっくりしたけれど、ぬくもりを感じてホッとした。
「今日はね、マナに集落以外の場所も紹介しようと思って」
体勢を元通りにして、ルファがそんなことを提案する。
「どんなところがあるの?」
「それはね、着いてからのヒミツ!」
ルファはニコッとしながらウインクをした。
「さ、乗って乗って!」
「うん!」
ルファに誘われるようにホウキにまたがる。
どうやら昨日とは違う方面に行くようだ。
期待に胸がドキドキしてくる。
ふわりと身体が浮かび上がる。
昨日感じた怖さはもうなくなっていた。
「ねえルファ、魔法って無限に使えるわけじゃないよね? どれくらい使えるの?」
わたしはゲームしているときに浮かんだことを尋ねてみる。
「んとね……人によって異なるんだけど、ワタシは結構使えるタイプだよ。空を飛ぶ魔法なら半日くらいは飛んでいられるかな」
「へぇー! すごいね!」
半日も飛べるとは思わなくて、素直に驚いた。
「この魔法は消費が少ないからね。大きな魔法……たとえば天候を変える魔法なんかだと、ものすごく力を使うんだ」
「力を使いすぎちゃうとどうなるの?」
おそるおそるといった感じで、わたしはきいてみる。
「クラクラしてきちゃう。しまいには倒れちゃうかな。だから魔法を使うときは自分の今の状態が大丈夫なのか確かめながら使うようにしなきゃいけないんだよ」
「魔法も便利なだけじゃないんだね」
「そうだね。だから魔法と上手く付き合うことがワタシたちには求められているの」
ルファと会話していると、徐々に景色が変わってきた。
ちらほらと建物が見えてくる。
そのまま進んでいくと、やがて道や建築物が整備されたところにたどり着く。
ホウキからトンッと下りて、キョロキョロと視線を左右させる。
「着いたよ! ここがルテンシアで一番大きな街、アースノース!」
「わぁ……!」
人と物に溢れている街だ。ルファの集落は人が少なく落ち着いていたので、こんな大きな街もあるのだと驚いた。
と言っても、東京と比べると全然かもしれない。
建物は北国で見るような色の濃い建物が多い。
道幅は広く、賑やかな通りをルファと二人で歩いていく。
通りの両側に出店が並んでいる。
見覚えのある野菜だったり、不思議な色をしたフルーツだったり。
食べ物だけでなく、アクセサリーも売っているようだ。
「今日はね、おつかいを頼まれてるんだ」
「なにを買うの?」
「えーとね……」
ルファはポケットの中に手を入れ、紙を取り出した。
「ニンジンと、タマネギと、ホーラルと、クベッカスだね」
聞き覚えのないものが二つ出てきた。
一体どんなものなのだろうか。
ルファは「すみませーん」と店主の人に声をかけて、目的のものを次々と購入していく。
そして、手持ちのバッグへと入れていった。
「よし、おつかい完了! マナ、なにか気になるものはあった?」
「わたしが知らない食べ物がいっぱい並んでるなぁって思って……たとえばさっきルファが言ったホーなんとかと、クベなんとか?」
わたしはさっき気になったことを質問する。
「ホーラルとクベッカスね。マナのところだとないんだ。ニンジンとタマネギはあるの?」
「うん。その二つはカレーとか味噌汁とかに入ってる事が多いなぁ。この四つの食材を使ってルファのおうちではなにを作るの?」
「カレー? ミソシル? 初めて聞く料理だね。この食材を使って夕食はカルダジを作る予定だよ……お姉ちゃんが、だけど」
再び耳馴染みのないものが登場した。
「カルダジ? どんな料理なの?」
「なんて説明すればいいかな……どろっとしてて酸味が少しあって……でもすごく美味しいんだ!」
ルファの語調が弾んでいて、きっとすごく絶品なんだろうなということが伝わってきた。
「いつか食べてみたいなぁ……」
「明日のお昼とかどう? カルダジは一度にたくさん作るから、二日に分けて食べることが多いんだ」
「いいの? 食べたい!」
「わかった! 明日は昼前集合ね!」
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