第14話 苦労して行かんとすれども。
「苦労して辿り着いてみるとなんでもねえところなんだ、こういうところは。」
大伴家持はもう既に知っているかのような様子で語りかけた。絨毯は高速で飛んだかと思えば東慶寺へと降りた。ふわふわとスライドし綿でできた動物のように動く。
ここにあるのは、あまりに著名すぎる人間の墓場、和辻哲郎、岩波茂雄、野上弥生子、高見順、そして、小林秀雄。この偉大なるアジール(網野善彦)は今はどうだったか?私のヒーローたちはとうに墓場で腐り果てている!Suicide Boysの嘆きは正確に我々現代人の心に響くだろう。我々はアイドルと英雄を持ったがばかりに、嘆くのだ。いつか忘れてしまうだろうか?Scarecrowとしてでも残せるだろうか?嘆きはハデスを昏倒させないだろう。それは響くだろう、交通は起きるか。否、『神曲』に示される通りだ。浅田彰は看破する。ヘヴィメタルはメタリックでは無い。音がする、交通が起こる。戦争だ。WelfareはWarfareへと今や変えなければならない。その変化はゴドーを待つまでに済まさなくてはならない。ゴドーは全てを決めてしまうだろう。規定は否定なのだ。
「いや、ここに我が花嫁はいない。」
アルチュール・ランボーは落ち着いて、銀髪のこの美青年は果たして如何にしてこの姿を持ったのか、それは知らないがなんとも端正で落ち着いた、いや、無表情の顔で正確に呟いた。
「え!?じゃあなんでここに来たの!?」
ウェルギリウスは驚いて話した。
大伴家持はすかさず口を挟んだ。
「当たり前だ!墓場は唯一残された人間の土地なんだ!もはや我々は資本主義に反対することで人間性を得るのでも、商品化を止めることで人間性を得るのでもない!死ぬ事で唯一我々は人間になるのだ。」
ウェルギリウスはこの語に驚いた。
「行こう、我々は砂漠にいるのなら、例え水を欲し、手に入らんとしても、少なくとも欲さなくてはならないのだ。」
再度豆本が絨毯になる、絨毯はほんの少し砂でざらついていた。今やようやく物語のクライマックスは七里ヶ浜へと執着する。墓場は湿っていた。また無駄に権威ばった墓が無駄に突き刺さり、彼らの本は今や読まれやしなかった。一体何がムーブメントだったか?それはもう過去のもの。
小林の墓も例に漏れず美しくなど決してなかった。しかし、だとしても、美しくなかったとても、桜の下に小ピラミッドを立てんとしたあの哀れを知った「漢学者」のようにはならず、わざとらしくとも寂の中に居たいとする心持ちは、どうに考えても、趣があるだろう。
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