第12話 ウィンストン・チャーチル
ウィンストン・チャーチルは今神奈川県の例の文学館にいた。この見かけだけは立派で、家にするならいいが博物館のような高尚な施設にするには下品で稚拙で馬鹿げた建物にいらいらしていた。飾ってあるものも大したことない。現代の馬鹿げた作家もどきにまるで権威があるかのように、保田與重郎のようにそうか現代と過去は繋がってるんだと勘違いさせるかのようにできている。ところで我が愛しき読者諸君、渡辺和靖の『保田與重郎研究』を読んだか?これ程否定性に満ちた素晴らしい研究書は無い、ぜひ読むべきだ。
ウィンストン・チャーチルはここの施設に来ると唯一冷静になることが出来る。つまり、バカバカしさに無気力になるからだ。彼は今やこの小説の中で初めて冷静になれていた。考えてみると、彼はウェルギリウスのことばかり頭に浮かんでいた。しかしなんと美しいことかと。彼はブロッホの書いた、『ウェルギリウスの死』という美しい作品について考えた。この作品を読んでから、彼は死というものを望み、美しいものとみなしていた。彼は死にたかったが、死ぬわけにはいかなかった。彼はどうやって死ぬかと考えてみた。結果として、彼が最後まで方程式を解き、結果として残ったのはウェルギリウスと、親友の大伴家持、そしてラム酒の瓶と本棚になにがあるのだか忘れた書類の詰まったラック……つまり彼のオフィスにあるべきものだった。
(やれやれ、俺ってやつはノマドとやらにはなれねえな。)
(俺は帰るべきだが、あのランボーと言うやつも同じなんだ、やつは今帰ろうとしてる。あいつは生きてる時には帰れなかったやつなんだ。彼が帰るべき場所を見つけてやるのが俺の仕事だ。)
そしてここで彼は、自分がリボルバーを持っていることを思い出した。
(もし俺がゴーゴリの書いた主人公なら……)
一息ついて。
(ここでリボルバーを川に捨てさせ最後には銃撃戦でも起こして俺を殺すだろう。)
彼は失笑した。
(とんでもないことになったな。とにかく七里ヶ浜まではもう少しだ。さて、歩こう。ランボーが歩いたように。)
彼は今度はmarijuanaではなくタバコを1本吸って、歩き始めた。
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