第11話 地獄の季節
アルチュール・ランボーのあまりの美しさにマサトーは失神して倒れてしまった。倒れたマサトーに顔を近づけ、この哀れな大カトーの祖先に口付けをしてやった。それは湿っていた。しかし、直ぐに乾く、アフリカの乾きながらも熱い血を感じさせるものだった。
マサトーは意識を直ぐに取り戻すと一言だけこう言った。「七里ヶ浜だ!あいつは七里ヶ浜にいる!」そう叫ぶとキスされたのを思い出したのかその美しさに再度失神をした。
ウェルギリウスはそのキスの仕方のあまりの上手さに真似しようと思い、大伴家持はランボーなる西洋の詩人の軽薄さに嫌悪感を示した。
「こいつぁ、ビッチだぜ、昨日ぶりだがな。」
ランボーはウィンストンの方に向かいこう言葉を紡いだ。
「俺かつて、確かに夏の夜明けを抱いたんだ。あの時のことが忘れられずにいる。俺は夢から醒めてしまった。しかし、既に置いてしまった美を再度放り出すには、最後最後まで俺が歩くのに手伝ってもらった、大事な足を祖国の人間に切ってもらうまでダメだったんだ。今こそ俺は迎えに行きたい。手伝ってくれ。」
ウェルギリウスはなんだか何も知らないが深く感動してしまった。彼は今思い出した。
(そうか、僕はウィンストンさんに会いたいんだ)
「僕も会いたいんです!一緒に行きましょう!」
大伴家持はおいおいまじかという顔を動かせないぬいぐるみの身体を何とか使って表現した(つもりだった)。
「おいおい、こいつの依頼を聞いて見送るのはともかく、こいつと一緒に行くのはごめんだぜ。」
ランボーは答える。
「やれやれ、僕ら詩人というのはうるさいものだね。と言っても君は本当は詩人じゃないね、どうだ、人間の身体を与えてやろうか?」
大伴家持?安倍晴明?は怒り始めた。
「ごめんだ!俺の体はもうないんだ!俺の記録が身体なんだ!身体ってやつはもうコリゴリだ!」
ランボーは初めて感情を動かし、にっこりと穏やかにこういった。
「そうだね。」
その後いつもの無表情に戻し、冷静に言った。
「さて、行かなければならない。」
ウェルギリウスはランボーに近寄った。
「どうするんですか?」
ランボーはぼろの中から1冊の豆本を取り出した。
「こうするんだ。」
豆本はたちまち絨毯になった。そして絨毯はなんと空を飛び始めた!空を飛ぶ絨毯は空中へ飛びだし、青空をまるで戦闘機の訓練のように何度も回り始めた。しばらく回るとランボーの前にやって来て、乗れと言わんばかりに足元まで低下した。
マサトーは突如起き上がり、ウェルギリウスにこういった。「待ってくれ!こんなものばかり見たら頭が悪くなる!これを持っていけ!代金は要らん!」
2冊の本を取り出した。エドワード・サイード『オリエンタリズム 上・下』、そしてバートン版の『アラビアン・ナイト』だった。
ウェルギリウスは「ありがとう!おじさん!」と言うとランボーの差し伸べた手を頼りに絨毯に乗った。銀髪の美青年と、背の低い巫女姿の、女の子のような顔をした短髪の美少年、そして大伴家持。この構図は正しく、イルミナシオンであった。
空飛ぶ絨毯は、今や空高くマッハで動き始めていた。それはまるでトニースタークのアイアンマンのように、もしくは中学生の初めての射精のように元気であった。
そうそう、言い忘れていたが季節は夏だった。人々はあまりの暑さにこの日のことをこう呼んだそうだ。「地獄の季節」、と。
今、我らが物語はクライマックスに行くのかもしれない。
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