第10話 ラーメンかそばか

美しい花があった。花は書を読んだが、彼女は文字が読めなかった。文字の代わりに人間を読んだ。そしていつの日か、恋に落ちた。友達には笑われた。マルクス主義者達には殴られた。しかし、彼女は信じていた。自分の恋心を。


ウィンストン・チャーチルはマサトーの店を飛び出してとにかく早く七里ヶ浜に行こうとしていた。


一方、ウェルギリウスと大伴家持のことを忘れては行けない。今2人はウィンストンを追いかけてマサトーの店までやってきていた。


ウェルギリウスは何度もコスプレイヤーと間違えられて写真を要求されて困り果てていた。しかし、心優しい彼は毎度それに応えていたが、写真を撮るなんて吸血鬼の彼には珍しいことであった。


「ううう……写真撮ると魂が取られるっておばあちゃん言ってたのに……あれ嘘だったんだ……」


吸血鬼の彼は昔、おばあちゃんに吸血鬼としてのあり方を教えられていた。大伴家持はその手のテクノロジーに対する迷信が大嫌いで(そう、彼は進歩主義者でマルクス主義者で加速主義者だった)、迷信を聞いてそれを恥じるウェルギリウスを見て愉快だった。


「はっはっはっはっは!レーニンを読んだこともなさそうな老人の話など信ずるに値しないさ!ところで最近聞いたが、最近革命家を標榜するわかうどは皆レーニンもスターリンも読まないんだって?スターリンの肖像画を見て何を学べるって言うんだ?デブの顔を見て何を食ってきたのかは推察できるにせよあばたを見ても医者でもねえなら分からねえわな!俺は分かるよ!陰陽師だからな!北欧神話で言えばヘルなのさ!コジェーヴのいう意味の主でもあるかもな!」


「ちょっと!安倍晴明さん!あなたぬいぐるみなんだから喋らないでよ!」

ウェルギリウスは注目をこれ以上浴びるのを避けるべく言った。


「なんだと!ぬいぐるみが喋っちゃいけねえなら人間だって自然の外に行っちゃ行けねえなあ!マルクスだって高校時代の論文に書いてるぜ、自然は動物の行動の範囲を決定すんだってさ、でもよ、人間は意思でそれを越えられるだって?それなら人間はもうセックスを辞めてるな、ざまあみろ、これは確か河上徹太郎の口癖だったな。」


「うぅぅーーなんなのこの人!」

ウェルギリウスは頭を抱えながら、彼の行きつけの店だというマサトーの店に来ていた。


マサトーはラーメンを茹でながらウェルギリウスに声をかけた。


「お前!うちの店にジジェクとウェルギリウスを読まずに入ろうとすんなよ!ぶち殺すからな!」

マサトーは唾を飛ばし鼻血を飛ばし叫んだ。鼻血は垂れてラーメンの中に入っていった。


「え!ウェルギリウス!?僕です!」

ウェルギリウスはウェルギリウスのことを知らなかった。彼は吸血鬼だったが、ほとんど売春宿で過ごし、客はウィンストンしかいなかった、それ以外の時はほとんど寝て過ごしたため、何も知らなかった。


マサトーはぽかんと口を開けた後に、プラトンの作ったアトランティスなる虚構がニュートンの手によってトロイアの如く陥落するほどの音量で笑い始めた。つまり空虚でありながら巨大であった。


「なんだそれはおもしれえ!」


ウェルギリウスは驚きながら尋ねた。

「あの……!ウィンストンさんはどこですか!?」


突如として竜巻が起きた。竜巻はラーメンを巻き込みラーメンはいつの間にかそばへと変わっていた。そしてそこには格好を変え、襤褸を1枚来ただけの銀髪の青年、アルチュールランボーがマサトーとウェルギリウス、大伴家持の間に立っていた。


「その前に、我が花嫁はどこか。」

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