第4話 醤油?

花は美しかった。美しすぎたから花だったのかもしれない。とにかく、美しい花がそこにある。それだけでよかった。花は誰から見ても美しかったし、取ろうというものは沢山いた。しかし、彼女が欲しいものはひとつ、あの風。風の抱擁ひとつだった。風は止まることができなかった。今や遠くに行った風を思い、彼女は・だけをポツポツとノートに書き進めていた。


醤油の匂いがするな、千葉雅也は正しかったに違いないとウィンストンは電車に乗りながら考えた。現在は深夜3時、鎌倉に行くために電車に乗っていた。しかし彼は滅多に外にも電車にも乗らないため終電がとうにおわっているということに気づかなかった。

電車の中には相当な人がいた。満員ではないにせよ多くの人がいて、また様子も人それぞれだった。白いカツラを被り、adidasのジャージを着た男がウィンストン・チャーチルに話しかけてきた。


「あんた!あれについてはどう思う!あれだよ!」


よく見たら男は白人だった、醤油の話はやっぱり嘘じゃねえか!とウィンストンは考え直した。それと同時に変な格好で変なやつだな、無視して置こうと思った。


「あの小僧はなんであんなつまらん作品を書いたのやら想像出来んな、一体人間は1人で充分じゃない、何が二重人格だ。」


adidasがそう語ると突如向こうからもう1人、ダースベイダーの格好をした男がやってきた。

「待て!」と叫び話を続けた。


「二重人格の何が悪い!いや!少なすぎる!分裂してて結構!それが問題だ!」


ダースベイダーはライトニングケーブルを取り出してモバイルバッテリーを接続してiPhoneを充電しながら話した。adidasは泣き始めた。


「嗚呼!あの権威と呼ばれたこの私が今や忘れ去られてしまった!記憶してください、私の名を、私の本を読んでください!私の名前はベリンスキー!ベリンスキーと申します!」



目を覚ませ、もう真昼だ。


声がひびき、目を覚ますとウィンストン・チャーチルはベッドの上に横になっていた。彼は昨日あのまま売春宿に駆け込んで、お気に入りの男娼を買って寝ていたのを思い出した。彼は毎日売春宿に行っていたが、男を買うか女を買うかは毎日の気分で変えていた。


(おやおや、飲みすぎたかな。ここに来れば誰でも嫁を探すことができるというのに、あの野郎はそれで満足しねえ、モームの書いた画家の方が空いてしてて楽に違いねえ。)


「あ、起きました?今コーヒー入れますね!」


彼が買っていたのは、彼がウェルギリウスと名付けた何歳かは知らないが非常に若そうな……少年とも言えそうな青年だった。ホントの名前と源氏名はあるそうだがウィンストンには覚えられなかった。ウィンストンが名付けたウェルギリウスという名前も彼は気に入って、受け入れていた。


「ウェルギリウス!そいつは地獄ほど熱くしてくれ!お前を思うだけでもホットになるが、俺は人間という檻に閉じ込められる以上は吐き気を感ずる以外に何も出来やしねえんだ!サルトルの野郎を失明させるくれえ熱いもんにしてくれ!」


ウィンストン・チャーチルは叫び終わると日課の胸毛を指で抜く遊びに入った。今は真昼だった。


ウェルギリウスは上品にふふふと笑うと元気よくはい!と答えた。


数少ない平和の時間が訪れた。


(大伴家持の野郎がこれを見たらどう思うかな?俺がまるで家庭を持ったように思うかな?俺は自分が何歳なのかは知らないが俺が死ぬ歳は知っている。666歳だ!)

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