第3話 何処に行くべきか。
女が泣けば、そこに雨がやってきた。女が泣けば、次に光が刺してきた。女が泣けば、そこにマナが降ってきた。女が泣けば、抱きしめるように風が吹いた。しかし、女は動けなかった。女はやがて自分を抱きしめ、またどこかへ過ぎ去ってしまう風に恋をした。私はなぜ飛べないのかと自問した。いつしか彼女は一人称を俺と名乗った。それでも彼女は動けなかった。
今や深夜2時となっていた。ウィンストン・チャーチルは気分がよく、口笛を吹きながら歩いた。そして気分よく歌い出した。なんの歌なのか自分ですら分からなかった、なにを歌えばいいかも分からなかった。そこでとりあえず日本共産党の党歌を覚えているところまで歌ってみた。
「民衆の旗赤旗は
戦士のかばねをつつむ
しかばね固く冷えぬ間に
血潮は旗を染めぬ」
(うん。いい歌だ、大伴家持の野郎は俺がこれを歌うと嫌うんだ、なんでだかな。)
しばらくすると風がまた吹いてきて、竜巻になった。
「おいおい!勘弁しろよ!部屋は片付いたんだ、今度はこの大地の人間共を片付けちまうつもりじゃねえだろうな!?お前は旧約聖書の神じゃねえんだから作ったものをやったらめったらに壊すんじゃねえよ!ガキでも今じゃそんなに物は壊さねえぜ!」
彼は深夜なのを気にせず酔いに任せて叫んでみた。
目の前にはあの時と同じくアルチュールランボーが立っていた。
「我が花嫁は何処だ」
「おいおい!今俺が探してるのが分からねえのか!?そもそもどんなやつなのか教えてくれねえと分からねえよ、ニーチェだって古代ギリシアの文献を1枚も読まなきゃ『悲劇の誕生』はかけっこねえんだ、いや、その後の作物も書けねえ、データが全てだって、コナン・ドイルのあほんだれ小僧シャーロック・ホームズも言ってたでさぁ。」
「我が花嫁は駒だ。高速で回る駒だった。しかし、その場を動けない。そんな駒だった。美しき花だった。彼女が放った言葉は俺に一言だって伝わらなかった。俺が動き回ったばかりに。彼女は俺について行きたかったのだ。しかし俺は彼女を手に取り持ってくことはできなかった。」
ウィンストンは困った表情をしながら頭をかいた。「詩人は困ったもんだなあ、しかし、よく考えたらおめえ日本語ができるようになったはいいが随分詩が下手になったな。翻訳者がわりいのかな。とにかく俺はどこに行けばいいかだけ教えてくれよ。」
「お前は何年ここに住んでいるのだ?海に行くべきだ。」
ランボーがいつもの、表情を変えないまま喋るという芸当で言い放つとウィンストン・チャーチルはそれを聞いて驚愕した。
「そうか!わかったぞ!すまねえ!俺がボケていやがった!海に行こう!」
ウィンストン・チャーチルはそのまま全速力で走っていった。行先はひとつ、七里ヶ浜だ。
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