第2話 ランボー登場
渦が巻かれる。風が吹く。順序は反対かもしれない。その途端雨が降り雷鳴が鳴る。遠くに人が見える。それは誰だか分からないかもしれない。砂漠、文字通りの砂漠は文字で表現出来るものでは無い。走り出すものは誰としていなかった。水が流れるように風が吹く。文字などが入る隙間はなかった。途端にタバコが吸いたくなった。死が近いと言うのに。我が花婿に感謝しよう!
部屋は途端にむしろ片付いた。散らかった本は本棚に戻り、大量にあった書類は(よく考えたら男はそもそも依頼を受けていないのだ、一体何の書類だったのだろう?)ラックに戻り、依頼が来なく、ラム酒を置くのに忙しい机の負担を減らすために押し入れに入れていたパソコンは今や彼の目の前にあった。片付いた部屋はもうたばこのにおいも酒の匂いもしなかった。ただ古い本の匂いと、女の匂いだけが残された。
彼は驚いた振りをしてわざとらしく叫んだ。
「なんてこった!中心にいてしっかり捕まれよ!一緒に死のう!俺以外の名前を呼んじゃ嫌だぜ!吉本隆明にバカにされちまう!」
目の前には長い銀髪で青白い肌をした長身のあまりに美しすぎる青年がKKKを彷彿とさせるような白いロープを身にまとい立っていた。例のダサい覆面はしなかった。
「依頼がある。」
少年を思わせる、あまりに若い、高い声で彼は呟いた。
「人を探して欲しい。」
男は思った。
(知ってたぜ!相棒!)
真面目ぶった顔をして落ち着いて答えた。
「いいぜ、誰を探せばいいんだ?」
「俺の花嫁だ。」
「うちは結婚相談所じゃないんだぜ?だがいいぜ!今からうちは探偵を廃業して結婚相談所にしよう!んで、どんな女がいいんだ?だが白いんだか黒いんだか分からない例の最近自殺した女だけはやめてくれ!俺は占い師のババアじゃないから死んだやつをたとえ一日だけだったとしても甦らせることは出来ねえ!」
男はニヤニヤしながら叫んだ。
「下品な男だ。それに俺の花嫁は決まってる。名はとうに貴様が知っているはずだ。俺は留まることは出来ない男だ。お前の目の前にいる男は、かつて1度は生を受けたが、今や生きていはいない。しかし、とどまらない存在だ。俺は今やここを立ち去らなくてはならない。だから要件だけ伝えよう。俺の花嫁を探してくれ。1週間後、またここを訪れよう。」
銀髪の男は表情を一切表現せずに男に伝えた。
「おい!あんたの名前はなんだ?クロノ・トリガーの魔王見てえな風貌だが、さすがにこの世の原理だ、ゲームの中から人間は出て来れねえだろ?コスプレイヤーじゃねえな、あんた。コスプレイヤーなら秋葉原にいるんだろ?ここは秋葉原じゃねえぜ!」男は言い終わるとラム酒が今や葡萄酒に変わったのに気付かぬまま酒瓶を傾けた。
「俺は秋葉原にいながらここにいることが出来る、パスカルの如きものが想像出来ぬ男だ。だからこそ我が花嫁は我と結ばれる運びになったのだ。貴様のような矮小な人間には想像が出来ぬものだ。また名前を私には許されていない。私は乱れに言葉を使いすぎた。私の言葉はかつて散らされていた。散った言葉は小説とは言われず詩と呼ばれた。我が女はそれを楽しみにしていた。だが俺は言葉を作るのに飽きてしまったのだ。1度は醜き悪漢の手にも落ちたことがある。しかし決して野蛮には負けなかった。俺は動きそのものになれたのだ。」銀髪の男は息継ぎをせず話した。
「あんた、言葉を結局使ってるじゃねえか。ははあん、わかったぞ。あんたの名前を。あんたはあ高名なアルチュール・ランボーじゃあるめえか?ランボー様とあるものがドゥルーズのようなことを言うんでねえ!ところで葡萄酒には感謝を言うぜ!俺は昔からアルコホリックでね、ちいせえ時は安い沢山入ったのを買ってちびちび飲んだもんよ。酒はいいよ、酒は。だがあれはダメだ、コカ・コーラだけはダメだ。あれはボードリヤールの味がする。」
「そう呼ばれた時もあった。俺が今言葉を使うのは貴様のような教養のないものに話すために使っている。神は答えてくれと頼んでも答えやしない。神は言葉=スタイルをもってこそ顕現される。しかし神が偉いのは聖書を書いたからではない、神だからこそ偉いのだ。」銀髪の男はどこから取り出したのか、iQOSを吸っていた。
「iQOS!やめろ!俺はその匂いだけはダメなんだ!やめてくれ!」
かつて探偵と名乗った男はもがきながら考えた、(しかし困ったな、今すぐ出ていこうにもこいつの女とやらはどんなやつなんだ?ふむ、ヴェルレーヌじゃねえのは確かだな。あいつは女じゃねえな、すくなくとも。)
陰陽師の格好をした大伴家持がその格好を見ながら大笑いして、話しかけた「こいつは傑作だ!1句読むぜ! 今来むと 言いしばかりに 長月の 有明の月を 待ちいでつるかな。さて、目を開けろ、もう真昼だ。」
「畜生!そいつは古今集じゃねえか!この盗作野郎!」
男が目を覚ますとアルチュール・ランボーの姿は消え、iQOSの匂いだけが微かにした。女の匂いも少しした。恐らく数日前に呼んだ売春婦のきつい香水の匂いがまだ残ってるのだろう。
「なんだ、夢じゃなかったのか。ちぇっ、それにもう夜になってやがる。それじゃあ行くとするか!」
男は机の引き出しから44口径マグナムを取り出し弾をしっかり装填し、外に出るために扉に手をかけた。
大伴家持は苦笑いしながら話しかけた。
「おい!今日は三日月だぜ!俺の息子が言ってる、不吉だってな!気をつけろよ!」
今やもう一度探偵となった男は答える。
「問題ねえ、もしお上の使いが俺の血を垂らしに、俺に罪を宣告しに来ようと神にでも祈るさ、それより大麻はどこだ?」
男は頭の中でThree 6 Mafia,"Where's da Bud"を歌いながら東京の中へと姿を消した。
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