髑髏とラム酒

幼高(おさ たかい)

第1話 畜生!


「畜生!」誰もいない部屋の中で男の狂気じみた叫び声が響き渡った。大きな木製の書き物机と鉄製の重いファイルラックと、あまりに大きな本棚が四角の部屋を囲んでいた。そして自分でも配置したのかと疑いたくなるほどわざとらしい、天才をきどったような形で書類やら本やらスケッチが巻き散らかされていた。一人の男以外、誰もいないこの部屋は一応彼のオフィスということになっていた。主は言うまでもなくこの男であり、この男は自分では探偵と名乗り、広告も出してこうして部屋で依頼を待っていた。

しかし、どうしたことか!この怪奇渦巻く現代の日本、東京において1件の事件すら彼の手には入ってこなかった!ブコウスキーの『パルプ』を読んで探偵になることを決めた彼も初めは浮気調査くらいは来そうに思っていたが、何らひとつも音沙汰無かった。広告として周りの家々に回した紙はボードレールの引用、ランボーの詩のパロディ、自作の万葉集の英訳(!?)、2015年の東浩紀のツイートの引用、2004年に出された紙おむつのCM音楽の楽譜、丸山眞男の座談会に対しての感想、手書きで写されたポルノ音声の台本で構成されており、インターネットに拡散されるほどの""怪文書""として処理されていた。しかし、彼は大きなミスを起こした。その1回のバズを引き起こすほどの大きな才能は、その紙にオフィスの場所と自分の名前を書くのを忘れてしまっていたのだ。この男の才能に対し、ボロ紙1枚の余白はあまりに余白が少なすぎたのだ。

だから男はこうして真昼間からラム酒を飲んでよっぱらていた。男は名前をウィンストン・チャーチルと名乗っていた。何故かと言えば彼の両親が出生届を出す時にふざけて書いたらその通り処理されてしまったからだ。彼は3歳の時にウィンストン・チャーチルのスピーチのモノマネができた。両親はそれを聞いて笑っていた。両親は5歳の時にナウマンゾウを見に行くとアフリカに向かい、途中ソマリア沖にて海賊に襲われて死んだらしい。そのため彼は5歳にして施設に入り、そこで政治的生活を始めた。彼は12歳から酒を飲み始めた。そして今でも飲んでいる。

彼は酒を飲みながら、大伴家持と名付けた陰陽師のぬいぐるみに話しかけた。

「なあ、ところで今日はどうしたんだ?どうしてそんなださい顔をしてるんだ?元気を出しやがれよ相棒!」

大伴家持は萎縮しながら答える。

「いやあ、それがな、月見バーガーってあるだろ?それを食べてたらよ、端からチーズが垂れてきたんだ、それを見て彼女に『おい!見ろよ!三日月だ!お前の顔にぶっかけて、眉毛に着いた時を思い出すな!』って言ったら振られちまったんだ」

ウィンストン・チャーチルは大笑いしながら膝を叩いた、彼はよく膝を叩くせいでたまに骨折をしていた。そのため痛みを伴う表現だった。

「おい!そいつは傑作だ!天才だな!お前じゃない!お前の息子がだな!」


彼はラム酒をさらに飲みながら考えた。

(今日は最高の日だ。ひょっとしたら依頼が来るんじゃないか?)

そんなとき、部屋の中に竜巻が起きた。

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