第1話

「かったりぃ。やってられっかこんなもん!」


朝田瑛晴(あきてる)はそう一蹴すると教室の扉を力任せに開く。


「こら朝田!待ちなさい!」


担任の静止も虚しく、駆け足で廊下を突き進む。


 赤点補習の常連である瑛晴だが、今日の補習内容は頂けない。


「なにが将来の夢だよ。小学生か!」


高校生にもなってなりたいものなど、ましてや夢なんてものは持ち合わせていない。


 階段を降り靴を履き替え、学校を後にする。明日は期せずとも土曜日だ。来週まで担任からとやかく言われることはないだろう。軽い足取りで駅へ向かう。


 今日の晩飯は面倒だから駅前のハンバーガーでも食べて帰るか。


アプリのクーポンに何があったかとスマホを弄りながら歩いていると、誰かと肩がぶつかる。


「あ、すんません。」


「い、いえ、こちらこそすみません……」


軽く頭を下げると、気弱そうなサラリーマンは謝罪と共にふらふらと歩いて行く。


まだ暗くもないのに酔っ払いか…?


少し不審に思ったが場所が場所だ。駅前なんて変なやつはごまんといる。

気にせずクーポンでテリヤキバーガーが安くなるハンバーガー店に足を踏み入れた。


 注文を終え窓際の席に腰掛けると、まずはセットのポテトに手を伸ばす。口に入れると塩と芋と油が口一杯に広がる。やはりポテトは塩多めに限る。

 続いてドリンクに手をかけた時、ふと窓の外にいるサラリーマンが目に入る。後ろ姿だが間違いない、さっきぶつかったサラリーマンだ。

まだこんなところにいるのかと眺めていると、ふらふらな足取りで急に路地裏の角に消えていった。


「はっ!馬鹿野郎!」


思わず声が出たがそうも言ってられない。まだほとんど手をつけてないが、ハンバーガーを片し急いで店を出る。

あまり知られていないがサラリーマンが向かった路地裏は、不良やゴロツキがよく溜まっている場所である。あんな気弱そうなサラリーマンが鉢合わせでもしたら、カモられて身包み全て剥がされるのが落ちだ。

 

 瑛晴が路地裏の角を曲がるときには先ほどのサラリーマンはいなかった。ついでに不良らしき奴らも見当たらない。

ほっとしたのも束の間、路地裏の奥からなにやら男の声が聞こえる。


別にこれ以上首を突っ込む義理はないんだが……


ここまできて声まで聞いて、なにもせず帰るのは流石に寝覚が悪い。


 意を決して奥へと歩みを進める。やはり普段は不良どもがよくいるのだろう。狭いながらゴミなどは端に寄せられ歩きやすい。

そのまま進むと小さな空き地に出た。ビルに囲まれてるあたり、ここは駅前開発時上手く利用できなかったのだろう。


 その空き地の真ん中にさっきのサラリーマンが横たわっている。慌てて駆け寄ろうとした右足がピタリと止まる。

 

 何かがおかしい。


周りには誰も見当たらない。隠れられる障害物も一切ない為不良達もおそらくいないのだろう。

だがなんだこの違和感は。

目の前に横たわるサラリーマンは何かブツブツ喋っているがなんと言っているのか聞き取れない。それにこの匂い。今まで嗅いだことがないほどの変な匂い。

それに呼応するように聞こえる何かを潰すような音。

そして気づいた。日が差し込まないからだと思っていた足元の土壌の色。やけに赤い思っていた、これは。


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