第12話

 それから、二時間後。

「それじゃあ、また今度」

「はい、美味しかったです」

 青村さんをアパートまで送り届けた僕は、踵を返し、自宅へと歩き始めた。

「ああ…、疲れた」

 美味しいケーキも食べた。コーヒーでカフェインも補給した。青村さんという可愛らしい女の子と、楽しい会話に興じることが出来た。

 それなのに、僕の足取りは、三日三晩食事抜きで歩き続けた後のように覚束ないものだった。

「あ、そうだ」

 そう言えば、先輩に連絡していなかったな…と思い、スマホを取り出す。

 案の定、先輩からメッセージが入っていた。

メッセージの内容は、「今日は来るのか?」「私はラーメンが食べたい気分なんだ」「昼過ぎたぞ?」「おなかが空いて餓死しそうだ」「おいこら、返事しろ」「私を無視するとはいい度胸だな」と続いていて、文面から、彼女が不機嫌になっていくのが見て取れた。

「ああ、もう」

 なんだか申し訳ない気になり、僕は直ぐに彼女に電話を掛けた。

 だが、先輩が電話に出ることは無かった。

 執筆に夢中になっているのだろうか?

「まあいいや」

 僕は通話を切ると、スマホをポケットにねじ込み、足首に噛みついた心労を振り払いながら、帰路につくのだった。

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