第26話 【過去話】戦鎚聖騎士、無事聖騎士になる
学院生活も最上級生になると同級生の数は目に見えて減っていた。早々と見切りをつけて中退や転校をする者、もう一年修業して再起を図る落第生、神官や女神官など別の聖職者への配属が決まった早期卒業生など、理由は多岐に渡る。
この頃になればもう足を引っ張れば評価されやすくなる、なんて線は超えている。そういった輩は早々にふるいにかけられて厳重注意を受けている。いかに能力が高く、いかに献身的で、いかに人々を愛しているか、につきてくるのだ。
俺は常にミカエラと組んで課題に取り組んでいたが、ラファエラ達と協力する回数は減った。特に実技は二人だけで挑んでばっかだったな。これは彼女達と一緒だとあまりに楽勝すぎて自分のためにならないからだ。
「スクラップフィストぉっ!」
俺が振るった戦鎚がストーンゴーレムを粉砕し、ガラクタへと変えた。
「セイクリッドエッジ!」
ミカエラの放った光の刃がストーンゴーレムを両断、ただの石と岩になって崩れた。
「ふう、これで全滅かな」
「ちょっと待ってくださいね。……はい、確かに瘴気や魔力で動く物体はもう無いですから、全滅と考えていいでしょう」
「お疲れさん。いつもながら援護助かる」
「我が騎士もお疲れ様でした! あ、余のことはもっと褒めて下さい」
荒野を後にした俺達は近くの町に帰還、討伐達成報告を行った。
「ありがとうございます、未来の聖女様!」
「これでわたし達も安心して生活出来ます」
「ありがとう、お姉ちゃんたち!」
現役聖女の人数は指で数えられる程度。当然人類の生活圏どころか教国連合内の諸都市にも常駐させられない。派遣するにも限度があるし、かと言っていちいち魔物が発生したからと軍や騎士団を出動させるのも追いつかないのが現状だ。
なので傭兵や自警団、冒険者の出番になるわけだが、強力な個体に対処できる実力者はそう多くない。自然と依頼料や報酬は跳ね上がるわけで、このように明日食べるものに困るような貧しい村は何とか貯蓄から捻出するなど、苦労を強いられる。
聖女候補者の実技課題になる魔物の討伐は、そうした者達への救済でもあった。
「結構戦って厳しい相手が増えてきたなぁ」
「でも正直言っちゃうと、どんな魔物相手でも戦えなくもないんですよね。課題として割り振る学院の調整が上手いって言いますかー」
「災害級の強大な魔物は本物の聖女が対処するんだろうな。俺達は俺達のやることをこなすまでさ」
「帰りがてらに別の討伐課題をこなせばもっと経験を積めますね」
俺達はこんな感じに歯応えのある魔物の討伐を数多くこなすことで点数を稼いだ。命をかけた死闘、みたいなのは無かったけれど、それでも油断や慢心が命取りになる危険な状況下での戦いからは多くを学べた。
たまにちょっと背伸びして大型の魔物を討伐しないかってミカエラを誘ったことがあったんだが、拒否された。彼女曰く、奇跡を使う回数があまり変わらないから苦労するだけで割に合わない、だそうだ。
そんな俺達が敬遠する難題をも引き受ける奴らがいた。
言わずもがな、ラファエラとヴィットーリオのコンビだった。
「おい、ラファエラとヴィットーリオ、今度はレッドドラゴンを討伐したらしいぜ」
「本当か!? 一度現れたら三つか四つ町が焼き払われるって言われる、あの?」
「さすがに冒険者の力も借りたらしいけれどな。俺ちょっと見たことあるけど、どの娘も可愛かったぜ」
「はぁ? 男はヴィットーリオだけかよ。アイツもげねぇかなぁ」
そんなしょうもない話が学院の中でされていたことについてはさておき、さすがのラファエラ達も二人だけで災害級の魔物を討伐するのは無理。なので彼女達は度々冒険者の力を借りたわけだが……毎度同じ面子だったのだ。
俺もラファエラに力を貸す冒険者と会ったことがある。というかラファエラ達と一緒にいた所にばったり遭遇して、そのままラファエラが彼女達を紹介してくれた。ラファエラの気心知れた相手なのもあって、特に警戒はされなかった。
「せっかくだからミカエラさんとニッコロくんにも紹介するわ。右からそれぞれ剣士グローリア、射手オリンピア、魔法使いコルネリアよ」
「よろしくお願いします」
「話には聞いてたよ。よろしくね」
「初めまして」
はっきり言おう。学院内のひがみはしょうがないと思う。それぐらい冒険者三人娘は可愛かった。しかも三人共別の趣があるから並ぶと更に華やかになることは必至。年齢はラファエラと数年前後するぐらいで、総じて若かった。
聞けばこの三人、すでに大人顔負けなほどの武勲を積んでいるらしい。やれバシリスクの群れを撃退したとか、やれケルベロスを退治したとか、やれ盗賊ギルドを壊滅させたとか、例を上げればきりがない。
冒険者にはその実績に応じた等級、位が与えられるわけだが、この三人娘は銀級冒険者らしい。さすがに最上級より数段下だがすでに一流として認められているのだ。成熟したらきっと名を残すほどの偉業を達成するんだろうな。
「で、どうしてラファエラ達はそんな若手の凄ぇ奴と組むことになったんだ?」
「ん? あぁ、私達、同郷の幼馴染なのよ」
「へーほー、そうなんだ……は?」
「子供の頃からの得意分野を磨いていったらこうなったみたいね。私も鼻が高いわ」
そんな偶然があるものだろうか? たまたま同じ地域に聖痕持ちの聖女候補者と第一線で活躍する冒険者が複数名、それも同世代で誕生しました、だぁ? それも幼馴染ぃ~? 神のお導きとか言われてもしょうがないよなぁ。
ちなみにこの三人娘にラファエラを加えた女子に自然と談話に混ざるヴィットーリオ。どうやら三人娘はヴィットーリオとも仲が良いようで、年頃の男女とは思えないぐらい距離が近かった。
「ヴィットーリオ達、新しい魔王が現れたら勇者パーティーになりそうだな」
「勇者パーティー、ねぇ」
「……ん? どうかしたか?」
「あ、いえ。何でもありません。きっとラファエラとヴィットーリオなら新生魔王軍相手にも大健闘するでしょうね!」
勇者って単語を口にした瞬間、ミカエラの表情が変わったのを俺は見逃さなかった。普段のミカエラからは想像も出来ないぐらいの激情。憤怒、憎悪、侮蔑、あらゆる負の感情のわだかまりを感じ取った。しかしすぐ後には明るい元気ないつもの彼女に戻ったので、一抹の不安を覚えつつも気のせいだと自分を納得させた。
今から思えば、ミカエラはやはりラファエラやヴィットーリオのことを良く思っていないのだろう。優等生は好きじゃない、はいつぞやの彼女の言葉だったが、それ以上に決して認めないという確固たる意思があるように思えてならなかった。
それは、殺めてしまった実の妹、本来魔王となる筈だったルシエラに関係してなのだろうか。そのうち全てを打ち明けてくれるのだろうか。今もなお俺には彼女の心境は窺い知れなかった。
□□□
その後、俺達の世代で聖女に選出されたのはラファエラとミカエラの二人だけ。聖騎士に任命されたのはヴィットーリオや俺を含めて五人だけだった。ヴィットーリオはラファエラ付き、俺はミカエラ付きになり、他三人の聖騎士は他の聖女の護衛となった。
聖女を拝命してミカエラと俺はすぐ聖地巡礼の旅に出たため、その後ラファエラ達がどうなったかは分からない。しばらく聖地で新米聖女として奉仕活動に従事することになるだろう、とは大方の見解だったな。
「ここでお別れね。名残惜しいわ」
「今生の別れじゃないんだ。また会えるさ」
「ミカエラさんもニッコロも元気で。俺達も頑張るよ」
「お互い初心を忘れずに夢と願いを叶えましょうね!」
別れ際はこんな感じに爽やかに言葉を交わしたっけ。四人共寂しいとか悲しいとかは思わず、各々が新たな門出に心が逸っていた。きっと俺達が行く先々で彼女達の活躍っぷりを聞くことになるだろうって確信もあったな。
で、どうしてラファエラ達の事を思い出したかっていうと、だ。
聖地から出発する間際、大教会に緊急の知らせが届けられたからだ。
こちらが妖魔共の騒動を報告したところ、教会総本山が対策を講じたとのことだ。
「聖女ラファエラと聖騎士ヴィットーリオが勇者パーティーの一員となって、魔王討伐に乗り出す、か」
時代は大きく動こうとしていた。
◇◇◇
【後書き】
これで第一章・勇者魔王編は終了になります。
引き続き第二章・焦熱魔王編をよろしくお願いします。
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