美園さんの友達

「おはよう」


 金曜の朝。他の曜日と比べて幾分かましな気分の朝だ。そんな朝、隣の席のナミカに元気のないあいさつを送った。


 時間はそろそろ始業のチャイムがなる頃で、来てない人はあと二〜三人程。いつも通りの景色である。


「おはよ〜!レオ〜今日もかわいいな〜!」


 名前を呼びながら犬みたいに私にくっつくナミカの頭をなで、机にカバンを置いた。まぁ犬飼ったことないんだけど。


 ナミカは私が高校に入ってからできた友達で、多分このクラスの中じゃ1番付き合いが長い。何から何まで小さく、小動物みたいなかわいさをした子だ。


「ねぇ!今度さバンドのメンバーみんなでライブやるんだけど来るよね!?」


 ナミカはお願い事がある時になれなれしくなる姿はまるでご飯の時だけ甘えてくる猫のようだ。まぁ、猫と飼ったことないんだけど。


「3500円だっけ?いつなの?」


「来週の火曜」


 火曜……コインランドリーに行く日だ。しかも昨日また来週の火曜ね!なんて言ったばかり。さて、どうしたものか。


「何時に終わるの?」


「えっとね!7時から半まで!」


 30分で終わるなら……確か場所が名駅付近。コインランドリーに着くの8時半になっちゃうか、こりゃ間に合わん。


 佐伯には申し訳ない。


 約束したのにどうなのだとは自分でも思う。別に人との約束に優劣をつけたい訳じゃない。


 けれど、ナミカとはお金があるならライブに行くという約束をしている。約束の順序で言えば先なのだ。


 まぁ佐伯との関係に溝ができるのは変わりないが。けれどまぁ私とあの子の関係なんてそんなもんなのかもしれない。


 偶然一緒のタイミングでコインランドリーに1度だけ行った日があって、それ以降何となく同じ日に行ってるだけ。


 これが友情とも言えるかもしれないし、はたまた単なる腐れ縁なのかもしれない。けれどそれに答えを出すのはナンセンスだ。


 相手が私を友達と思ってるか分からない以上友達とは言えない。


 友達だと勘違いして距離感をミスると、簡単に関係が崩れる。


 そんなめんどくさい事ならやめるべきかもしれない。でも、かと言ってこの今の関係が無駄とは言いたくはない。


 無駄と言ってしまっては、いくら友達でないかもしれないにせよ、佐伯がかわいそうだ。


 まぁいろいろ考えては見たが、私は頼まれたらどうやら断れないタイプらしい。結局、今までの葛藤も無駄でOKと言ってしまう。


「チケットちょうだい」


「やたー!これでノルマ達成!偉いことをしたのでなでなでを要求する!」


「ハイハイ、がんばりましたねー」


 なんて適当に言いながら頭をワシャワシャとなでた。その間ナミカは二カー!って感じに笑っている。


 ほんとに無邪気だ。その元気が羨ましい。


 私は心の中で1番反対側の席でイヤホンをつけている佐伯にごめんなさいといった。


 学校で直接言える日はこのごめんなさいで少なからずも確実に遠ざかった。


 ……やっぱ私は自分の事が嫌いだな。


「最高のライブにするからみとけよー!」


「楽しみにしてるね」


 本心なのか、作り笑顔なのか分からない表情を彼女に送った。

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君とコインランドリーでいる時間 アラム @aramsuraim

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