13 出発

朝からリンゴをもいで収納に入れる。

悪いと思いつつ、3本の木から30個ずつもらった。

他の果物もちょっとずつ多めにもらって、同じように。



「大丈夫なのか?こんなにもらって」



クロウに訊くと



『大丈夫だ。

ここの植物は魔力も育つ力として取り込んでおるから魔法で集めた水を与えてやるとまた実る。ハルカの魔力が溶け込んだ水を与えられたら、この木々は喜んでまた実をつけるだろう』



と答えが返ってきた。



『そもそもここの植物に外の季節は関係無い。魔力が満ちていれば実をつける』

「そんなもんなのか?」

『そんなものだ』

「じゃあ、沢山もらった分、森に返していかないと」



俺は空に向かって両手を手を上げる。

そして願い、魔力を飛ばした。



「優しい雨よ、森に恵みを」



サァー・・・と浴びて気持ちいいくらいの雨が降る。

それは小一時間降り続いて、森の木々の葉を濡らした。

































そして、昼過ぎ。






「じゃあ、行こうか」






持ち物は特に無い。


家は収納に入れた。


その様子を見ていたクロウにちょっと呆れられた。






『神は下界の常識は知らぬようだな』




「・・・」






それは、俺の魔法が非常識という事でしょうか。クロウさん。






『まあ、そなたは人間だからの。ちゃんとした寝床があった方がよかろう』




「・・・まあね」






ちょーっと複雑な気分になりながらも、せっかく雨風凌げる持ち歩ける家があるのだからと、野営という選択肢は頭の隅っこに寄せた。




とりあえずはこの世界の人々と触れ合ってみて、あんまりにも常識から逸脱していたのならまたその時考えよう。






「この近くで比較的安全な国となるとどの方向になる?」






神の森の神獣様が世界の情勢に通じているか分からないが、生粋の地球産の俺よりは知っているだろうと訪ねると。






『東の国サランラークが良いだろう。神が最初に手掛けた国だ。気候も風土も人柄もそこそこ良いよ。


北の国テカラスは数年前に即位した王がロクデナシで、既に国内が荒れ始めているからやめた方が良い』






意外や意外、神獣様は世界の情勢にもの凄く詳しかった。








サランラークて、この世界の名前だったよな。


初めの国に世界の名前つけたのか。


分かりやすくていいけど、創世の国がずっと残ってるって結構凄い事だ。


人間は争う生き物だ。


地球の歴史の中で、戦争が無かった時代なんて無い。


どこかしらで人が殺しあって、国が喪失したり国境線が変わったりしていた。


サランラークというのは、どういう世界なのだろう。






『自分の目で見てみるが良いよ。


我は視るだけで基本的に森から出た事は無いし人の営みに関わることは無いから、人や国に対して特別思う事があるわけではない』




「え、じゃあ本当は俺と一緒に外の国に行くとかダメなんじゃね?」




『本体が離れても我は常に森と共にあるし、お前は神が森に落とした者だから共にあるのは構わないだろう。


それに、普通の人間に我の姿は見えぬから関係無い。


我等の姿が見えるのは我ら神獣と、我らが認めた者のみ。


余程魔力が強い者なら存在を感じ取れるかもしれないが。


ハルカは神がこの世界に降ろした者ゆえ、最初から我が見えたのだな』






だから初めて会った時は俺に攻撃されて驚いて油断した、と苦笑していた。






「ええ・・・じゃあ、周りに人がいる時にクロウと話してたら、俺ひとりでブツブツ喋ってるヤバい人間みたいに見えるって事?」




『そうだな』






クツクツ面白そうに笑ってるけど、笑い事じゃないし。気を付けないと。


初っ端から不審者扱いは勘弁してほしい。


誰かに会う前に教えてくれてよかった。






「サランラークって、どっち?」




『東だ。向こうだな』






クロウが顔を向けるけど、あっちもこっちもそっちもどっちも360度ぐるっと森だ。






「・・・魔法で道をあけてもらうしかないか」






えー・・・何キロくらいあるんだ?魔力もつのか?






『我の背に乗れ。ハルカなら許そう』




「俺、馬にも乗った事無いけど」




『首に手を回して掴まっていろ。落としはしない』






俺の呟きはスルーされ、足元に大きな体が伏せる。






「怖いんだけど・・・」




『大丈夫だ』






クロウが大丈夫でも、俺はそうじゃないんだって!


と思うが、俺がてくてく歩くよりクロウに乗せてもらって移動する方がずっと早く進めるだろう。


仕方なくクロウの背に跨ると、『立つぞ』と声が掛かり俺を乗せたままズオッと立ち上がる。






「うわ・・・っ」






太ももや脹脛の下で獣の硬い筋肉が動く感触が伝わり、落ちる恐怖で思わず足を締める。






『ちゃんとつかまっていろ』






言われて、太い首に腕を回し身体を寄せ、顔から胸、腹も全部くっつける。


すると。






「・・・・」






ちょっと、なー・・・。


大事なところが、大変な事になりそうな予感。






上半身全部をクロウの首から背にくっつけるという事は、当然その下だってクロウにくっついてるわけで。


身体の中心、股間に当たるのはクロウの身体の真ん中、即ち太い背骨。


クロウは身体が大きい分一つ一つの関節が大きくて、動く度にちょっと当たって地味にソコが痛い。






『行くぞ』




「ちょ、まって・・・うわあ・・・っ」






せめてタオルかなんか挟ませて、そういう間もなくクロウは森に向かって歩き出した。


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