11 森で出来た友達(だと思ってるヤツ)

リンゴンの木は、見た目は地球でいうリンゴの木だった。

美味しそうに赤く実った果実を一つもぎ取り、一応鑑定魔法で毒が無いかだけ確認してから齧り付く。


シャクっと嚙んで・・・うん、リンゴだ

シャクシャクとした歯切れの良い食感も、甘酸っぱい味もまさにリンゴそのもの。

甘さと酸味のバランスも良く、かなり美味い。



「よし、食糧確保♪」



沢山実っている木から20個ほどもらってそのまま収納にポイポイっと入れ、あともう一個だけもいでこちらはポケットに。

リンゴ2個が今日の飯だ。足りなければもう1個。

見つけたのはリンゴだけだがとりあえずは食料難を脱したので、元の拠点に戻ってまた魔法の練習をしよう。

細い道を戻り、原っぱに出たところで道を元の森に戻す。

豊かな森はちょうどよい距離感で木々が育っている証だろうから、無理やりその秩序を壊すことはしたくなかった。

これからも世話になるわけだしな。


午前中は森へ入り、食料探し。

最初にリンゴン(俺は見た目のままリンゴと呼んでいるが)を見つけたから季節は秋なのかと思っていたが、次の日に見つけたのが夏に採れる筈の桃で、どうやらそうではないらしいとウィキ擬きさんに訊いたら今は春らしい。

ここは神が作った迷いの森と呼ばれる深い森の中で、魔力が満ちている場所だから季節問わず色々な物が採れるのだという。理屈はよく分からないが、とりあえず魔力は肥料みたいなモノなのかと、半ば無理やり自分に納得させる。ここは異世界。地球と違って当たり前。うんうん。


食料は見つけても見つけなくても昼には拠点に戻り、午後は魔法の練習。(ちなみに時間はステータスを開くと分かる)

魔法の先生はウィキ擬きさん。

人間の相手がいないから今の自分のレベルがどのくらいなのかは分からないが、出来ないよりは出来た方がいいとどんどん高レベルの技にも挑戦している。


爺さん神さんからのプレゼントで全属性の魔法持ちだから、とにかく覚えなきゃいけない事がたくさんあって、日中練習したことを夜に本で復習したりしていた。

リビングの本棚にあった本の半分が魔法に関しての本だった事を考えると、こうなる事を見越してのチョイスだったのかと、ちょっとだけカミサマを尊敬した。

とんでもないミスやらかして関係ない俺を異世界に寄越しちゃうような神さんだけど、とりあえず今の俺はそれほど困ってないし、なんだかんだで毎日ちょっとだけワクワクして楽しい。

ひとりだけど、なんだかんだウィキ擬きさんが話相手になってくれてるし。


こっちに来て4日目、森でちょっとデカい猫みたいな獣に襲われた時はすげえビビったけど、結界魔法となんか出来ちゃった雷の魔法で撃退出来た。ちなみに殺してはいない。

一瞬殺しちゃった?と思ったけど、どうやら気絶しただけだったらしい。


それから、森に入るとどこからかそいつがやってきて俺の前を歩くようになった。

そりゃ最初は超ビビった。

昨日の仕返しに来たのかと思ったけど、スルリと寄ってきた獣は長い尻尾で太ももを撫ですぐに前を歩きだしたのを確認して、俺はふうっと身体の力を抜いた。



「なに、案内してくれんの?」



真っ黒い毛は艶やかで、動物園で嗅いだ獣臭さは殆ど感じない。大きさはメスライオンくらいはあるだろうか。大きいが、体は豹のようにしなやかで美しい獣だ。

殆ど足音を立てずに歩くカッコイイ彼(彼女かもしれない)に出会って1週間。



「クロウ、おはよ」



寄っては来るけど撫でさせてはくれないプライドの高そうな獣は、声を掛けるとグルグルと低い声で返してくれる。

クロウはカラスって意味だけど、体毛の色がカラスの濡れ羽色というのが相応しい美しい黒だからそう呼ばせてもらっている。

今日の獲物は洋梨だ。こっちではペアルというらしい。



「お前も食べる?」



クロウに訊くと、フイっと顔を背け木の根元に丸くなった。

一応鑑定を掛けてから齧ると、ジューシーで甘い。

クロウはリンゴは食べるけど桃は食べなかった。

これも食べないという事は、甘過ぎる果物は好みに合わないのだろう。



「嫌いなのについてきてくれたのか」



収納からリンゴを取り出して口元に置いてやると、大きな口とサーベルタイガーのような鋭い牙でバキッと半分に割って食べ始めた。

なんか、見た目ちょっと怖いけど可愛い。

隣に座って俺は梨の続きを食べる。

その後は20個ほどもがせてもらって収納へ。もう1個もらってポケットに。

その間クロウは木の根元で昼寝をしていた。



「またね」



森から出ると、クロウはまた森へ帰っていく。

なんだろう、守ってくれてるつもりなのかな?






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